第70話 エリン、母の痕跡を見つける
「ここでいい」
エリンは小さく呟いた。
ベビーカーを止める。
周囲を見回す。
誰もいない。
「今だ」
エリンは双子を抱え上げた。
右に一人。
左に一人。
そのまま洗濯物の荷車へ飛び乗る。
ふわり。
薄い布の下へ潜り込んだ。
「きゃは!」
「きゃ!」
双子が声を出しそうになる。
「しっ」
エリンは指を口に当てた。
双子がぴたりと止まる。
「静かに」
荷車がゆっくり動き出した。
誰も押していない。
だが問題はない。
この荷車は決まったルートを自動で進む。
しばらくして――
荷車は止まった。
「着いた」
エリンは布をめくった。
目の前に広がるのは――
馬小屋だった。
「きゃは!」
「きゃは!」
双子が飛び出す。
空をくるくる回りながら馬を見ていた。
黒い馬。
白い馬。
大きな馬。
小さな馬。
双子にとっては全部初めてだ。
「びっくりさせないで」
エリンが言う。
「馬が怖がる」
「きゃ?」
双子が首をかしげた。
そのとき――
一頭の白馬がこちらを見ていた。
ひひん。
鼻を鳴らす。
まるで挨拶しているようだった。
エリンは近づいた。
「久しぶり」
白馬の前に立つ。
「覚えてる?」
エリンは小さく笑った。
「前に母上と一緒に城を出たことがある」
その時。
エステルは日差しに捕まって動けなくなった。
そこで父が連れてきたのが――
この馬だった。
「君だったよね」
白馬は鼻を鳴らした。
ひひん。
まるで肯定しているようだ。
エリンは聞いた。
「母上、見なかった?」
沈黙。
白馬は横を向いた。
知らないふり。
エリンの手に――
黒い炎が灯る。
「言わないなら」
炎が大きくなる。
「燃えるよ」
白馬が驚いて暴れた。
ひひーん!
だが。
それでも何も言わない。
エリンは炎を見つめた。
そして――
ふっと消した。
ぽん。
白馬の頭を軽く叩く。
「なるほど」
エリンは笑った。
「母上に言われたんだ」
――言うな。
そういうことだ。
「偉いね」
双子がくるくる回る。
「きゃは!」
「きゃは!」
「じゃあ」
エリンは言った。
「次は痕跡を探す」
双子が手をつないだ。
光が広がる。
スキャン。
しかし――
双子は首を振った。
「きゃ…」
見つからない。
「変だな」
エリンは呟いた。
そのとき――
足元に足跡があった。
人間の足跡。
しかも。
たくさん。
「見習い侍女?」
さっきの一団だ。
だが。
エリンの目が細くなる。
「違う」
エリンは手をかざした。
魔法が発動する。
精密スキャン。
痕跡分析。
そして――
エリンは笑った。
「見つけた」
双子が跳ねた。
「きゃは!!」
「この中に」
エリンは言った。
「人間じゃない痕跡がある」
つまり――
「母上だ」
エリンはそう確信した。
双子が歓声を上げる。
「きゃはは!」
「きゃは!」
勝利目前。
だが。
エリンは首を振った。
「まだ」
ママ探しの遊びは終わっていない。
「追うよ」
双子がエリンの腕を引っ張る。
「きゃ!」
早く!
エリンは頷いた。
「待って」
ポケットから白いチョークを出す。
地面に魔法陣を描く。
簡易魔法。
ヒント。
父がここに来た時――
気づくように。
「これでいい」
エリンは立ち上がった。
「行こう」
双子が歓声を上げる。
エリンは足跡を見つめた。
倉庫の方へ続いている。
エリンは小さく笑った。
「母上は……きっとあの向こうにいる」
双子が嬉しそうにくるくる回る。
「きゃは!」
「きゃは!」
エリンは小さく息を吐いた。
(やっと会える)
(今日は……本当に大変だった)
それでも。
エリンは少し誇らしそうに胸を張った。
(やっぱり僕はすごい)
だが――
エリンはまだ知らなかった。
その確信が、
大きな思い違いだったことを。




