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第62話 幽霊を退治しようとしたら魔王を殴りました

エリンはベビーカーを押しながら、通路を進み始めた。


騎士たちの姿も見えたが、

気配を消す魔法を使ってうまく避けた。


母は少し前にここへ入ったようだった。


どうやら母上も地下に入るまでに手間取ったらしい。

そのおかげで、ほぼ同じタイミングになったようだ。


「ふむ……霊体、結構出てきそうだな」


エリンは小さく呟いた。


予想していたよりも多い。


「ここは僕が直接処理するのは少し面倒だね」


「君たち、手伝ってくれる?」


ぱちっ。


双子の目が輝いた。


こくこく。


任せて、と言わんばかりに頷く。


「静かに処理するよ」


「位置は僕が教える」


カチッ。


エリンは双子を固定していたベルトを外した。


ぶわっ。


双子の体から光が溢れ出した。


同時に、エリンの手のひらも淡く光り始める。


「超高速エアカッターで霊体を切り裂こう」


「きゃあ!」


「ぎゃはは!」


双子が空中をぐるぐる飛び回った。


――戦闘モード。


双子が生み出す風の刃。


エアカッター。


ターゲット選定はエリンの役目だった。


「すべてを切り裂け、エアカッター!」


それは霊体を処理するのに

最も効率の良い方法だった。


バチッ!

パパッ!


エアカッターが通路の天井をかすめるように飛び、

にじみ出てきていた霊体を次々と消滅させた。


「成功」


「きゃああ!」


「きゃは!」


双子は空中で円を描きながら回り続けた。


――勝利のダンスだ。


「十三体か」


エリンは結果を確認した。


今回の攻撃で

霊体を十三体、一瞬で消した。


同時に十三の並列思考。


それだけの処理を、

エリンは涼しい顔でやってのけた。


「まあ、悪くないかな」


「じゃあ進もう」


「きゃはは!」


「きゃきゃ!」


しかし双子はまだ

勝利のダンスを続けている。


「もう戻って」


「遅れると母上を見失うかもしれない」


ようやく双子は

ベビーカーに戻った。


カチッ。


エリンはベルトを確認し、

再びベビーカーを押して進み始めた。


◆◆◆


地下へ入る前。


ヘルメットを被り、

角材を持って進もうとした私を

ギルガオンが止めた。


私が霊体を怖がっているのに

気づいたのか、

やたらと霊体の話をしていた。


だが。


中に入って十分以上歩いたが

何も出てこない。


もしかして――


私を脅すために

わざと言ったのか?


私が地下へ行けば

魔王の邪魔になると思って


嘘をついたのでは?


そろそろギルガオンに

腹が立ち始めた頃。


シュッ――


天井の方から

何かが走る音が聞こえた。


(ひっ)


(本当に幽霊いるの!?)


私は慌てて天井を見た。


だが何も見えない。


(……ただの風?)


通路の終わりが近づいたが


結局、霊体など

一度も出てこなかった。


(ギルガオンの奴……)


(絶対からかったな!)


私は拳を握った。


幽霊なんて

そう簡単に出るわけがない。


そう思うと

気持ちが楽になった。


ガサッ。


その時。


横から音がした。


「幽霊退散!」


思わず棒を振り下ろした。


ドン!


(あれ?)


幽霊って……


殴ると音するの?


「……痛い」


「君は……」


振り向くと


赤い髪の男が

腕をさすっていた。


魔王だった。


「きゃあ! ごめんなさい!」


「幽霊?」


「それにその格好は?」


黄色いヘルメットに

棒を持つ私。


どう見ても怪しいのは私だった。


「念のため準備してきました」


幽霊が怖かったとは

言いにくい。


私は平然を装い

ヘルメットと棒を

壁に立てかけた。


魔王に会えたなら

もう必要ない。


「その封印……」


「たぶん私が触ったかもしれません」


「ごめんなさい」


私は手を合わせて謝った。


悪いことは

悪いことだ。


正直、怒られるのが怖くて

黙っていた部分もあった。


そのまま忘れてしまっていた。


だが結果的に

大騒ぎになってしまった。


「君が?」


「ええと……その」


どう説明するべきだろう。


炎の魔人の試練を突破して

ミッションをクリアした、などと?


そんな説明が通じるのか。


言い訳を考えていたのに

幽霊の話で

全部忘れてしまった。


「夜に歩いていて、道を間違えてここに……」


その時だった。


魔王が私を

強く抱きしめた。


「無事でよかった」


声には

本気の安堵がこもっていた。


「え?」


「ここは危険な場所だ」


「多くの魔族が命を落とし」


「先祖たちはこの場所を封印し、その上に魔王城を建てた」


「そうなんですか?」


どうやら、最初からそういう成り立ちだったらしい。


アイテムの上に城を作ったのではなく、


アイテムが先にあり、

その上に魔王城が建てられた。


そういう世界なのだ。


「入口に開いた痕跡があったので確認しに来た」


「だが下の封印には問題がない」


「おそらく少し緩んだだけで、すでに修復された」


「先祖の備えだろう」


私は向こうの獅子像を見た。


確かに

特に変わった様子はない。


(壊れてたよね?)


(自動修復?)


魔王は先祖の力と言っているが


ゲーム的には

自動復旧システムだろう。


ともあれ


問題がないなら

それでいい。


「城には危険な場所もある」


「これからは気をつけるように」


「はい。気をつけます」


私は顔を上げて

魔王を見た。


彼の瞳が

まっすぐ私を見ていた。


「心配してくれて、ありがとう」


私は胸に顔を埋め

彼の腰に腕を回した。


魔王城の地下。


私と彼

二人だけの時間。


静かな闇が

私たちを包んでいた。


その時。


「きゃきゃ!」


「ぎゃは!」


(……この声?)


私の耳がぴくっと動いた。


これは――


振り向いた。


「エ・リ・ン?」


「二人を連れてきたの?」


向こうへ叫ぶと


少しして


ギィ……


ベビーカーの音と共に

エリンが現れた。


「静かにって言ったよね」


「ぎゃあ!」


「きゃあ!」


だが双子は

気にせず手足を振っていた。


「ごめんなさい、母上」


「二人がどうしても来たいって」


「わかったわ」


「でも地下は危ない」


「気をつけなさい」


「はい!」


エリンは

にこっと笑った。


「二人に挨拶して」


私はぼーっと立つ魔王を

引っ張った。


彼は忙しくて

子どもたちにあまり会えない。


家族の肖像を描いて以来

久しぶりだった。


挨拶を終えると


私はベビーカーを押し

階段を上がり始めた。


その時。


魔王が

ベビーカーを見ていた。


「あなたも押してみます?」


「魔王である私が……」


体面がある。


そういう顔だった。


私は笑った。


「だからこそ、今がチャンスですよ」


私は彼の腕を引き

一緒にベビーカーを押した。


「きゃあ!」


「きゃは!」


双子も

父が押していると気づき

大喜びだった。


「でも最近どうしてそんなに忙しいんです?」


「仕事は簡略化されたんじゃ?」


久しぶりに

ゆっくり話ができた。


「年末だからな」


「決算が多い」


「もう十二月だ」


「えっ?」


そういえば。


この世界も

十二ヶ月制だった。


ゲームの都合だ。


(ってことは)


(もうすぐクリスマスじゃない!)


気候は秋のようだったので

気づかなかった。


だが。


知ってしまった以上

見過ごせない。


「魔王城でクリスマスパーティーをしましょう」


「クリスマス?」


魔王は

首をかしげた。


エリンも

興味津々で私を見ていた。


魔王城の冬は――

今年、きっと騒がしくなる。


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