第61話 封印破りの犯人は私でした(でも言えない)
魔王城の地下が、騒然としていた。
「エリン、少しの間、あの子たちを見ていて」
私はそう言うと、すぐに魔王城の地下へ向かった。
ざわざわ。
地下には多くの魔族が集まっていた。
武装している者も多く、今回の事態をかなり深刻に受け止めているようだった。
まるで警察の規制線のようにロープが張られ、
槍を持った魔族たちが出入りを止めている。
どう見ても――
犯罪現場だった。
(……私が入った扉ね)
嫌な予感はしていたが、やはりそうだった。
犯人は現場に戻る――
……今の私が、まさにそれだった。
まずは地下にいる魔王に、
正直に話さないと。
私のせいで、彼の貴重な時間を無駄にするわけにはいかない。
私は規制ロープを持ち上げて中へ入ろうとした。
すると槍を持った魔族が前に立ちはだかった。
どうやら外部警備から来た兵士らしい。
私の顔を知らないようだった。
「魔王様はこの先におられるのか?」
「私は魔王妃エステルだ」
その言葉を聞いた瞬間。
兵士たちの顔色が変わった。
「も、申し訳ありません!」
「どけ」
私の一言。
それだけで兵士たちは左右に分かれた。
誰一人、逆らおうとはしない。
私はそのまま階段を駆け下りた。
(戻る時、扉はどうなっていたっけ……?)
壊れていたのか。
それとも自動で閉まったのか。
ネックレスを手に入れた私は、振り返りもせず上へ戻ってきた。
気にする余裕などなかったのだ。
ふと疑問が浮かぶ。
(ミッションクリア後って、どうなるの?)
ゲームの後処理なんて、
今まで考えたこともなかった。
やがて階段が終わった。
長い通路が続いている。
そして――
(あれは)
紫の髪をなびかせながら
周囲の魔族に指示を出している男。
私の料理信者第一号。
ギルガオンだった。
魔王と一緒にいる時は
ただ横に控えているだけの印象だったが、
今はまるで別人だった。
(へぇ……)
(ちょっと格好いいじゃない)
その時だった。
「誰だ!」
「止まれ!」
剣を持った魔族たちが叫んだ。
鎧を着た騎士。
魔王軍騎士団だった。
人間の騎士団編制を参考に作られた
魔王軍の精鋭部隊である。
その声に気づいたのか、
ギルガオンが振り向いた。
「魔王妃様?」
彼は私を見るなり
すぐに頭を下げた。
「なぜここまで降りて来られたのですか」
彼の体から
すさまじい気迫が放たれていた。
(あれ?)
(あんた今日どうしたの?)
明らかに緊張している。
「危険です。すぐにお戻りください」
「危険?」
「最悪の場合、魔王城が消えるかもしれません」
「もしこの場所に封印されていた魔人が暴れ出したら、全員避難です」
ああ。
炎の魔人のことね。
「誰かが入口の封印を破りました」
「前代未聞の破壊行為です!」
「だから、その……」
犯人ここにいます、と言おうとした瞬間。
ギルガオンが言った。
「封印を破った犯人は必ず捕まえます」
「警備を怠った責任は私が取ります」
「ですから、少しお待ちください」
まるで
すべて自分の責任だと言わんばかりだった。
そして――
「ギルガオン軍団長に続きます!」
「我々も頑張ります!」
「おおお!」
周囲の騎士たちが一斉に叫んだ。
それを見たギルガオンは
感動していた。
「皆……ありがとう!」
「必ず犯人を捕まえる!」
「力を貸してくれ!」
「はい!」
「任せてください!」
完全に
熱血少年漫画のワンシーンだった。
(あーもう!)
(これ言えないじゃない!)
ここで
「犯人ここです」
なんて言ったら
少年漫画が
ギャグ漫画になる。
私は予定通り
魔王にだけこっそり話すことにした。
通路の奥に
魔王がいるはずだった。
その時。
ふと壁を見る。
(あれ?)
見慣れない警告マーク。
こんなの前は無かった。
新しく貼ったのだろう。
「ギルガオン、あれは何?」
「私が設置しました」
「なぜ?」
「霊体出現の警告です」
「霊体?」
「つまり肉体を持たない半透明の――」
(それ、幽霊ってことじゃない!)
その瞬間。
鳥肌が立った。
ホラー映画のワンシーンが頭をよぎる。
私は
幽霊が大嫌いだった。
どうしよう。
このまま帰る?
でもそうしたら
ギルガオンたちは犯人探しで
城の周りを延々と探し回るだろう。
「危険です」
「魔王妃様はお戻りください」
「犯人がまだこの近くにいる可能性があります」
「すぐ近くにいるかもしれません」
うん。
ここにいるよ。
その時。
私の目に入ったのは
工事現場にありそうな
黄色いヘルメット。
「魔王妃様、何を……」
私はそれを被り
近くにあった角材を手に取った。
「このヘルメットと棒、借りるわ」
ちょっと間抜けな格好かもしれない。
でも
何か武器がないと怖い。
吸血鬼なのに
幽霊が怖い。
情けないかもしれないけど
怖いものは怖い。
とにかく魔王のところへ行こう。
そして彼の手を握って帰れば
きっと怖くない。
◆◆◆
「にゃはは」
「きゃはは」
「お前たち、どうした?」
パラソルの下で本を読んでいたエリンの周りを
双子が飛び回っていた。
「母上に会いに行きたいの?」
久しぶりに母と外にいたのに
母は急に城の中へ戻ってしまった。
下の子たちは、
母に会いたいとエリンに必死で訴えていた。
「母上は別の場所に行くなって言ってたけど……」
ここか授乳室だけを往復する約束だった。
しかし双子は必死だった。
「にゃにゃ!」
「きゃはは!」
双子は頼むように
エリンの周りをぐるぐる飛び回った。
ついにエリンは本を閉じた。
「母上が何をしているか見に行こうか」
「見つからないように、遠くから見るだけだよ」
エリンがベビーカーを指さした。
すると双子はすぐ中へ入った。
「よし、出発」
エリンはベルトを確認し
双子を乗せたベビーカーを押しながら
魔王城の地下通路へ向かった。




