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第58話 賢者の石と、母の深夜ダンジョン探索

「にゃにゃにゃ!」

「きゃはっ!」


双子の表情はとても明るかった。


昼は外で思いきり飛ばせて、

夜は私が体を温めてあげる。


どうやらそれが、相当気に入ったらしい。


――ただし。


それに比例して、私の疲労もどんどん溜まっていった。


本来なら眠っている時間に、ずっと動き続けていたのだから、当然だった。


結局、三日目の朝。


私はエリンに双子の世話を任せて、

魔王城の洞窟でそのまま眠りに落ちた。


私が健康でなければ、子どもたちを守ることもできない。

無理をしすぎるのは危険だった。


(……夢?)


ふと、不思議な光景が見えた。


ゲームをやり込んでいた頃の――私。


ヘッドセットをつけ、

マウスとキーボードを操作している。


そして私は、その自分の背後から眺めていた。


「隠しアイテムもあるのか……。

でも地下まで行くのは面倒だな……」


ゲーム中の私の声が聞こえる。


――その瞬間。


ぱちっ。


目が覚めた。


思ったより長く眠っていたらしい。


月はすでに空の高い位置にあった。


「……そうだ!」


私は勢いよく起き上がった。


「魔王城の地下に宝物があった。

隠しアイテム!」


ゲームでは、最短クリアを狙うなら上へ進むのが早い。


だが――

地下へ潜れば、隠し宝物がある。


そんな攻略記事を昔ネットで読んだことがあった。


ここはゲーム世界をそのまま再現したような場所だ。


ならば――


宝物も存在するはずだ。


問題は場所。


簡単に見つかるはずがない。

きっと厳重に隠されている。


地下牢や大浴場への道は知っている。

だが、それ以外にも地下通路があるのを以前見たことがあった。


(……よし)


今は深夜。


城のみんなも眠っている。


探索するには絶好の時間だった。


私はクローゼットから薄い上着を取り出して羽織った。


鏡を見る。


出産後の体も、すっかり元に戻っていた。


細いままの体型。


さすが魔族の回復力だ。


(ランタン……必要?)


だが鏡の中の自分の目を見て、私は小さく笑った。


赤い瞳が、暗闇で淡く輝いている。


ヴァンパイアの目は、

暗闇でこそ本領を発揮する。


(あとバックパックとか欲しいけど……)


今日は下見だ。


装備なしで軽く回るだけにしよう。


きぃ……


静かに扉を開けた。


廊下は暗い。


だが歩くのに問題はない。


(よし、地下まで来た)


深夜だからか、侍女や魔族の姿はない。


そして――


ある扉の前で、私は足を止めた。


(ここ……怪しい)


どう見ても

立入禁止

という雰囲気の扉。


以前侍女に聞いたことがあったが、

彼女たちも知らなかった。


そもそも存在自体が、

彼女たちの知識の外だったのだ。


(ふむ)


扉を押す。


――当然、開かない。


その時、私は気づいた。


右側のパネル。


(これ……)


手のひらを置く。


ウィーン……


認証音。


そして――


ガコン。


扉が開いた。


「よし!」


私はこの城の女主人だ。


最高権限を持つ私が、

入れない場所などない。


扉の先は、暗い通路だった。


不思議なことに――


以前の私なら怖くて歩けなかったはずなのに、

今は平然としている。


(この目、本当に便利ね)


闇が見える。


それだけで恐怖はかなり減る。


通路は螺旋状に、下へ続いていた。


(いつ終わるの……)


そろそろ引き返そうかと思った頃。


ついに行き止まりが現れた。


「……なにこれ?」


壁の前。


獅子の像。


そして横に石板。


私はしゃがみ込み、文字を読み始めた。


ここに来た者よ。


欲望に囚われし者は宝を得られぬ。


しかし賢者の石を得る資格ある者は

試練を越えるであろう。


「……中二病?」


思わず呟いた。


言い回しも妙に仰々しい。


「開発者、センスどうなのよ……」


どこかで聞いたようなフレーズの寄せ集めだ。


ヒントになりそうな情報はない。


(隠し通路とか?)


壁を叩いてみる。


だが反応なし。


「はぁ……失敗」


やはり朝になって魔王に聞くのが早いかもしれない。


私は帰ろうとした。


「じゃ、元気で」


獅子像の頭をぽんぽん叩いた。


――その瞬間。


ぱあっ。


像が光った。


「え?」


ゴゴゴゴ……


壁が開く。


まるで


「開けゴマ」


だった。


その奥。


四角い台座。


そして――


空中に浮かぶネックレス。


「これ……賢者の石?」


どうやら当たりらしい。


私は近づいた。


その瞬間。


ゴォォッ!!


炎が噴き上がった。


炎は人の形を作る。


「魔族がここへ来るとは、久しいな」


「誰?」


炎は答えた。


「我は炎の魔人」


「……あー」


私は額を押さえた。


「ネーミング、雑すぎない?」


ベタすぎる。


だが同時に私は、そっと後退していた。


正体不明の敵。


まずは様子を見る。


しかし。


「無駄だ。

ここはすでに我の結界」


「結界?」


空気が重い。


「欲望に囚われた魔族よ。

お前もまた消える運命だ」


魔人が手を掲げた。


「お前が最も大切に思うものを見せよう。

己の欲望を思い知れ!」


バチィッ!!


雷光が体を打った。


円形の光が広がる。


そして――


映像が浮かび上がった。


「……エリン?」


寝間着姿で眠るエリン。


続いて、双子。


そして――


書類に目を通し続ける魔王。


こんな時間まで働いている。


私は小さく呟いた。


「……ありがとう」


その瞬間。


パリン。


結界が砕けた。


「ば、馬鹿な……!」


炎の魔人が震える。


「魔族が……試練を突破するなど……!」


「えっと……」


私は頬をかいた。


(これ、魔族は取れない仕様だった?)


その時、思い出した。


そうだ。


これ――


勇者用のアイテム。


だが、私は


魔族でありながら

プレイヤー側の存在でもある。


ゲームシステムの抜け道だった。


「ぐ……賢者の石が……」


炎の魔人は消えた。


ネックレスが、

私の手の上に落ちる。


――ミッションクリア!


その直後、

頭の中に新しいメッセージが流れ込んできた。


――カルマポイント増加

――カルマが一定値に到達した場合……


「え、なにこれ?」


私は思わず周囲を見回した。


しかし、誰もいない。


以前感じた、誰かに見られているような気配もない。


腕や脚を振ってみても、

特に異常はない。


「……気のせい?」


首をかしげながら、私はネックレスを見つめた。


賢者の石は、

ただ綺麗なだけのアクセサリーではない。


強力なバフ効果を持つ、

特S級アイテムだ。


理由はひとつ。

〈限界突破〉があるから。


通常、能力値は上限に達すればそこで止まる。

だが、この石を装備している間だけは違う。


本来100が限界でも、

110へ届く。


つまり――

ゲームシステムそのものを踏み越える、唯一無二の装備。


ネックレスをエリンの首にかけた瞬間、

アイテムはエリンを認識して発動する。


その後は、たとえネックレスを身につけていなくても、

限界突破の時が来れば、その力はエリンの中で発現する。


(これ、元々ゲームには無かったのよね)


ユーザーたちが


「ゲーム難しすぎ!」


と大騒ぎした結果、

後からパッチで追加された救済アイテムだった。


ストーリーを飛ばして

いきなり魔王城まで来たプレイヤーたちが、

能力値不足で詰まったために実装されたのだ。


(あの時、開発に文句言ってくれた人たち……ありがとう!)


いつかエリンが成長し、

すべての能力値をMaxまで伸ばした時。


その瞬間――


〈限界突破〉を経験するだろう。


そして気づくはずだ。


これは、

母が幼い自分に贈ってくれたプレゼントだったのだと。


◆◆◆


「もう朝か……」


少し眠気が戻ってきた。


でも昨日よく寝たから、今日は持ちそうだ。


(午後は双子と遊んで……)


(夜は……)


久しぶりに料理をする。


魔王への夜食だ。


その前に。


やることがある。


「エリン、起きてる?」


「母上? 大丈夫ですか?」


「大丈夫。よく眠れたわ」


昨夜見たのは、やっぱりエリンだったのね。

夢で見た通り、同じ寝間着だ。


「夢で母上を見ました。不思議でした」


私は微笑んだ。


「これ、プレゼント」


「プレゼント?」


「双子を見てくれたお礼」


私はネックレスをエリンの首にかけた。


「きれいです!」


エリンは嬉しそうに笑った。


「私の大切なエリン。

いつもありがとう」


私はエリンをぎゅっと抱きしめた。


このアイテムが、

いつかこの子の助けになりますように。


「今日は何をするんですか?」


「一緒に調理室に行くわ」


私は笑った。


「母の新メニュー、見せてあげる」


「母上の新料理……?」


エリンの目がきらきらと輝いた。


そしてその頃――


魔王城の地下では。


誰にも知られないまま、


新たな封印が、静かに目覚めようとしていた。


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