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第161話 双子の羽は、四人目の子のためにあったみたいです

最近、双子は

羽がむずがゆいのか、

よく互いの背中をかいてやっていた。


あれがたぶん、

ウムカウテへ向かう

前触れなのだろう。


「では、

これからはどうすればいい?」


「しばらくの間は、

魔王城に用意された部屋で

待機していただくのが

よろしいかと思います」


「ただ、

双子様はあまりにも

窮屈なのを嫌われますので、

それを拒まれるのではないかと

心配です」


(私が見ても、

そうなりそうだわ)


(たぶん、

すぐ逃げ出すでしょうね)


エリンと違って、

双子はかなり扱いが難しい子たちだった。


乳母やガーディアンたちが

苦労するのも分かる。


(私が出るしかないわね)


本当は、

あの子たちを

自由に遊ばせてあげたかった。


でも、

ウムカウテになるその瞬間だけは、

しばらく魔王城の準備された部屋で

落ち着いていてもらわないといけない。


「部屋はもう整っているの?」


「はい」

「適切な湿度を保てるように、

文献に従って

完璧に整えました」


「今、

双子たちはどこにいるの?」


「エリン様が

連れ出されました」

「卵に日光を当てるためです」


「戻ってきたら、

私が双子たちを連れて

そこへ行こう」


「ありがとうございます」


アウラが

深く頭を下げた。


普通なら、

こういうことは

お前たちでどうにかしろと、

乳母やガーディアンへ

任せることが多い。


それなのに今回は、

私が自分で引き受けると言った。


彼女たちからすれば、

本当にありがたい話なのだろう。


みんなが出ていき、

一人になると、

私は炎の魔人へ頼んだ。


(体内時計を変えてちょうだい)

(子どもたちが戻るまで、

少し眠るわ)

(三時間くらい)


返事はなかった。


けれどすぐに、

体の中の時計が

切り替わるのが分かった。


私は洞窟の中へ入り、

ゆっくり目を閉じた。


ものすごい眠気が押し寄せてきた。


ずっと長いこと、

起きたままだったからだ。


(でも、

ソフィアを捕まえたのって

誰だったのかしら)


システム的に処理された出来事だと、

そういう説明は受けた。


その影響なのか、

不思議なくらい誰も

あの奇妙な出来事について

聞きも咎めもしなかった。


そうしてあの件は、

そのままうやむやになった。


(プログラム上の問題で起きた出来事だから、

NPCたちにとっては

ただの関心外ってことなのかしら)


(私以外にも、

この世界のプログラムの影響を受けない者が

現れてくれたらいいのに)


「んん……」


やがて、

大きな眠気が

私を包み込んだ。


私は深い眠りへ落ちていった。


◆◆◆


「マハトラが来るまで

待てって言ったじゃないですか」

「どうして勝手に

スパイを処理したんですか」


「くああ!」

「くああ!」


双子が、

悔しそうに

両手を上下にぶんぶん振った。


不満ダンスの変形版だった。


足までどんどん鳴らしながら、

前へ後ろへ行ったり来たりしている。


そんなこと聞いてない。


結果的には

うまく片づいたでしょ。


私たちなりに

ちゃんと頑張ったんだよ。


まさに、

そんな意味だった。


エリンは、

双子の踊りを

しばらく黙って見つめていた。


(いつの間に、

あんなの覚えたんでしょう)


二人きりのときにでも、

どんな踊りをするか

研究しているのだろうか。


動きがぴったり揃っているのも不思議だった。


(僕は恥ずかしくて、

あんな踊りはできませんけど)


「不思議ですね」

「内々で片づいた話とはいえ、

関係者が一人や二人じゃないのに」


「どうして誰も、

スパイを捕まえた経緯に

興味を持たないんでしょう」


もしその話が出たら、

そのときは自分と双子が

捕まえたのだと

名乗り出るつもりだった。


けれど、

いくら待っても

その話題は出てこなかった。


「実際に動いた僕たちだけが、

スパイの捕縛方法に

違和感を持ってるみたいです」


「くああ」

「くあ」


双子が、

エリンの評価に

また不満そうな声を上げた。


「分かりました」

「とにかく、

君たちの言う通り

うまく処理できたのは事実です」

「ちゃんと褒めます」


その瞬間、

双子は互いの手をつないで

るんるんと踊り出した。


エリンは、

そんな二人の羽を

じっと見た。


「でも、

君たち大丈夫なんですか?」


数日前から、

そのあたりの羽毛が

ずっと抜け続けていた。


ウムカウテは、

もう近いのだろう。


だったら、

その直前の時期は

外を出歩かないほうがいい。


「君たち、

今は外を歩き回らずに

魔王城にいたほうがいいです」


すると双子は、

絶対に嫌だと言わんばかりに

エリンの周りへまとわりついた。


ひゅうううっ!


渦ができるほどの威力。


いや、

もはや小さな竜巻だった。


エリンの体が、

ふわりと浮き上がる。


「分かりました」

「今回は行きます」

「でも次からは、

ちゃんとママの許可をもらってからですよ」


「こおお」

「くう」


双子は、

分かったというように

こくこくとうなずいた。


もちろん、

次も出かけるつもりでいる。


窮屈な魔王城の中に

閉じこもっているなんて、

まっぴらだった。


「では行きましょう」


エリンは、

大きな卵の入った

ベビーカーを押し始めた。


すると双子が、

すぐさまエリンの横を

くるくる回った。


自分たちも押したい。

押させてほしい。


そんな顔だった。


だが、

エリンはきっぱりしていた。


「だめです」


前に一度だけ任せたとき、

双子がベビーカーを

乱暴に扱いすぎて、

卵が落ちかけたことがあった。


それ以来、

双子がベビーカーへ触るのは禁止になった。


双子は抗議したが、

エリンはまったく気にしなかった。


四人目の子に関わることだ。


ほんの少しのミスも

許せなかった。


◆◆◆


「着きました」


前から、

エリンが目をつけていた場所だった。


日当たりのいい丘。


卵に日光を当てるには、

ちょうどいい場所だった。


「こおほほ」

「こほほほ」


双子は、

ようやく自分たちで

弟妹の世話ができるのだと分かると、

嬉しそうに体を揺らした。


そして、

ベビーカーの中の卵を

そっと撫でる。


自分たちの羽で

磨いてやろうとしているのだ。


だが、

そのままだと

少し姿勢が取りづらい。


双子が、

エリンを見た。


「卵を外へ出したいんですか?」


ベビーカーから出して、

地面へ置こうという提案だった。


長い白布も持ってきてある。


それを敷けば、

地面に置いても問題はない。


外へ出せば、

こまめに転がして

日光をまんべんなく当てることもできる。


悪くない案に思えた。


「そうしましょう」

「ただし、

ちゃんと見ていないとだめですよ」


エリンが許可を出すと、

双子は地面にやわらかい布を敷いた。


それから、

両手で卵をそっと持ち上げて

布の上へ下ろす。


すり。

すり。


双子は、

自分たちの羽を使って

卵を丁寧に磨いた。


そのあと、

左右から羽で

卵を包み込む。


そうすると、

上のほうだけ日が当たる形で

卵全体をやさしく包めた。


ベビーカーの中では、

できないことだった。


外へ出したからこそ

できることだ。


(温度を保ってるんでしょうか)


双子は、

どうすれば卵をうまく世話できるかを

本能的に知っているようだった。


(双子に羽がある理由)


(まさか、

これのためだったんでしょうか)


あまりにも不思議だった。


四人目の子のために、

あの羽が必要だった。


しかも、

それだけではなかった。


双子の羽に宿っていた魔力が、

少しずつ卵へ吸い込まれていた。


もうじき落ちる羽だからこそ、

落ち葉が散るように

最後の魔力を放っているのかもしれない。


陽の光と混ざったその魔力は、

ほかでは得られない、

けれど確実に必要な

ごく繊細なエネルギーになって

卵へ注がれていた。


つるりとした卵は、

さらに艶を増していく。


魔力をまとった卵は、

まるで宝石のような

不思議な美しさを放っていた。


本にも載っていない話だった。


魔王城の外へ出て

日光に当ててよかったと、

エリンは思った。


自分が提案したことではあるけれど、

ママが手を回してくれなかったら

たぶん外へは出られなかった。


ずっと育児室の中だっただろう。


そうなっていたら、

この子は十分に日光を浴びないまま

生まれていたかもしれない。


(おとなしくしてくれて助かりますね)


いつもなら

あちこち走り回る双子が、

今この瞬間だけは

卵だけを見ていた。


しばらくその様子を見守ったあと、

エリンは

卵を包む双子の姿を

スケッチし始めた。


魔王城の画家ハンスに、

基本的な素描のやり方を

教わっていたのだ。


ハンスが描いているのを見て、

自分もやってみたくなったからだった。


教えてほしいと頼むと、

ハンスは

こうして、

ああして、

と簡単に説明してくれた。


でも、

実際にやるのは簡単ではなかった。


それでも、

少しずつ慣れてくると、

ハンスの言う通りの線が

ほんの少しずつ出るようになってきた。


それを見たハンスは、

声を上げた。


エリン様には、

画家の才がございます。


(ママが

人間の画家を魔王城へ入れてくれたからです)


どれだけ素質があっても、

ハンスがいなければ

エリンは絵を描こうとすら思わなかったはずだ。


けれど、

彼を受け入れてくれたことで

魔王城にも

絵という芸術が入ってきた。


そして、

エリンの才能も

見つけられるようになった。


魔王城の変化。


そして、

子どもたちの能力の芽生え。


その始まりは、

いつだってエステルだった。


(眠ったんですね)


双子はいつの間にか、

卵を包んだまま眠っていた。


日差しが心地よくて、

そのまま眠くなったのだろう。


おかげでエリンは、

無事にスケッチを描き上げることができた。


(よし)


あとでママとパパに

見せてあげたい。


エリンは紙をきちんとたたみ、

ポケットへしまった。


これで、

本を読める。


あたたかな春の日差し。


あたりには花が咲き、

草の匂いがやさしく漂っている。


黒髪の少年が、

春の丘で本を読む姿。


それだけで、

一枚の絵のようだった。


エリンが今読んでいるのは、

卵から生まれた魔族たちについての報告書だった。


これから生まれる弟妹について、

前もって知っておくためだ。


(羽を持つ魔族に続いて、

今度は卵から生まれる魔族ですか……)


異能魔族。


特異な力を持つ

希少な魔族のことだ。


そんな異能魔族が、

こう続けて生まれるのは

とても珍しいことだった。


マハトラが感嘆するのも分かる。


(そういう意味では、

僕も同じなんですよね)


先代魔王の血を、

ほぼそのまま受け継いで生まれた者。


記録に残る存在と

かなり近いのだという。


世代を越えて

発現した能力。


(アイリスおばあ様も認めていました)


ひと目で、

初代魔王に似ていると

言われたのだから。


(純血のヴァンパイア)


(ママの力なんでしょうか)


でも、

単に純血ヴァンパイアの力だと

片づけることはできなかった。


それ以外にも、

ママはあまりにも特別な魔族だった。


魔王城で待機している

乳母やガーディアンたち。


あの人たちは本来、

使い捨てられて終わるはずの存在だった。


でも、

ママが助けた。


それだけじゃない。


魔王城には、

人間たちもいた。


人間を奴隷として使うのではなく、

魔王城の一員として迎え入れた。


しかも、

彼らを通して

魔族社会そのものを変えていっている。


それに加えて、

魔族式カレーから始まった

新しい種類の食べ物たち。


エリンにとっても、

とても想像できないことばかりだった。


そんなことが、

次々とママの手から生まれていた。


(どこであんな知識を

身につけたんでしょう)


エリンがどれだけ

図書館の本を片端から読み尽くしても、

ママが持っている根っこの知識までは

届かなかった。


でも、

心配はいらなかった。


気になることがあれば、

いつでもママに聞けばいい。


ママなら、

エリンがこれから

どう生きるべきか。

どう判断するべきか。


誰よりも

ちゃんと教えてくれるはずだった。


そして必要になれば、

知識の源についても

きっと話してくれるだろう。


そのときを待てばいい。


ガルルル……!


そのときだった。


突然、

ポチが低くうなり始めた。


警告だった。


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