表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/162

第160話 魔王城を守るために、新しい防諜部門を作ることにしました

「あなたが見つけたあの間者を、

どう処理するかという問題が残りましたね」


魔王がそう言った、

そのときだった。


教室の入口に、

マハトラが姿を見せた。


「ひどい有様ですね」


私はすぐに、

彼を見た。


「どうしてここに来たの?」


マハトラは両手を揃え、

うやうやしく答えた。


「この場所に、

間者の疑いがある女がいました」

「ですが、

明確な証拠がなかったため

見張るだけにしていたのです」

「その間に、

処理まで済ませてしまわれたのですね」


そう言って、

倒れているソフィアの頭を

軽く指先で叩く。


生きているか

確かめているようだった。


「前からこの子を

監視していたの?」


「はい。魔王妃様」


「どうして

先に報告しなかったの?」


「その点は申し訳ありません」

「ですが、

疑いだけで即座にご報告しにくい事情があったことは

ご理解ください」

「この子の人間変形が、

あまりにも完璧だったのです」


「それは、そうね」


私がうなずくと、

魔王もその点については

認めるような顔をした。


「決定的な証拠がなかったため、

まずは慎重に様子を見ることにして

間者活動ができない地下へ

入れておいたのです」


マハトラが、

私を見た。


「ですが、

いったいどうやって見つけられたので?」


「あ」

「ええと」


私は、

うかつに答えられなかった。


本当は、

私が見つけたわけじゃない。


システムが

手伝ってくれたから見つかった。


そんなこと、

口にできるはずがなかった。


幸い、

マハトラはそれ以上

深くは追及してこなかった。


「間者は、

静かに処理するのがよろしいでしょう」


魔王も、

小さくうなずいた。


「それがいいな」

「ギルガオンに任せれば、

きちんと処理してくれるだろう」


その二人の会話を聞きながら、

私は内心で焦り始めていた。


(どうしよう)


そのときだった。


私の目の前に、

新しい文が浮かんだ。


【ミッション ― 防諜部門の設置】


【報酬 ― 累積カルマポイント10%減少】


【ミッション達成のための詳細条件を確認してください】


私はすぐに、

炎の魔人を呼んだ。


(炎の魔人)

(教えて)

(これってどういう状況なの?)


* エステル様が魔王兼ラスボスになられたため、

* ミッションを受けられるようになりました。


(ラスボスになったのは分かるけど)

(私は魔王妃なんだけど?)


* システム上では、

* 最終ステージに登場するボスが

* 魔王になります。

* この世界でどう呼ばれているかとは無関係に、

* システムはエステル様を魔王と認識しています。


(つまり)

(システムの内側で

そういう扱いになるだけってことよね?)


* はい。


(それなら別にいいわ)


システムに魔王と呼ばれるかどうかなんて、

どうでもよかった。


私は魔王の妻。


そして私にとっての魔王は、

あの人だけだ。


(それで)

(ミッションって何?)


* 累積したカルマポイントを解消するために、

* システムの自己修復プログラムが

* 動き始めたようです。


こういうのを、

自分で蒔いた種は自分で刈り取る、

と言うのだろうか。


私がこんがらせたストーリーラインを、

今度は私がほどいていく。


(オリジナルのストーリーとは違って、

私は本当にライカン・スロープに操られる

操り人形じゃないのよ?)

(それでも大丈夫なの?)


* はい。問題ありません。

* システムはそこまで区別できません。


(それって、

システムを騙してるってことじゃない?)


* はい。

* ですが、

* そのようにシステムを欺けば、

* 管理者の側もエステル様へ直接手を加える際に

* 制約を受けます。

* ですから、

* ここでミッションを継続して達成し、

* カルマ値だけを調整できれば、

* システム崩壊という破局は防げるはずです。


(もし

カルマ値を下げられなかったら?)


* カルマが臨界点を超えた瞬間。


(超えた瞬間?)


* 23#$$%$@! になります。


(何それ?)


意味の分からない言葉だった。


* 申し訳ありません。

* 私には口にできない単語です。


(とにかく分かったわ)


ろくでもないことが起きる、

それだけは確かそうだった。


これからやるべきことは分かった。


(ミッションをこなして、

カルマを減らす)


(私が積み上げたエラーを、

私が減らしていくのよ)


【ミッションが進行します】


ミッションに関する情報が、

次々と流れ込んできた。


私の目が、

それを一気に追っていく。


(ひどい)


オリジナルストーリーの内容は、

本当にひどかった。


マハトラとソフィアによって作られる、

魔王城の暗部。


それはまるで秘密警察のように、

エステルに反対する魔王城の忠臣たちを

監視し、

排除する役目を担っていた。


勇者一行が

魔王城へ攻め込んでくる頃には。


そのせいで、

魔王城はもう内側から

ぼろぼろになっていた。


(こんな未来にはしない)


暗部は作る。


ミッションも達成する。


でもそれは、

私が作る新しい暗部だ。


魔王と子どもたち。


それだけじゃない。


魔王城にいる

みんなを守るための組織。


そういう形にしてみせる。


◆◆◆


「ちょっと、

私と話して」


マハトラは、

エステルの空気が変わったことを察していた。


私は魔王に言った。


「外で話してくるから、

その間ソフィアを見ていてもらえますか?」


「構わん」


魔王は、

あっさりとうなずいた。


廊下へ出たマハトラが、

丁寧に尋ねる。


「何でしょうか」


私は、

すぐに切り込んだ。


「あなた」

「もしかして、

魔王を排除したあと

ソフィアを使って

魔王城に暗部を作るつもりだったんじゃない?」


「どうして、

そのようにお考えになったのです?」


「当然でしょ」


私は、

彼の目をまっすぐ見た。


「魔王を退けて、

私を実質的な傀儡の魔王に据えたら、

内部で反発が起きないわけがないもの」

「だったら、

そういう相手を監視して押さえつけて、

場合によっては消すための組織が必要だったはずよ」


その瞬間、

マハトラの目つきが変わった。


「短い手がかりと状況だけで、

そこまで先を見通されるとは」

「本当に驚きました」


「その計画」

「そのまま進めて」


「進める、ですか?」


マハトラは初めて、

少しだけ驚いた顔をした。


私はうなずいた。


「ライカン・スロープの暗部みたいな組織は、

こっちにも必要だと思うの」

「ただし、

彼らは魔王へ忠誠を尽くす組織になる」

「これから先もあり得る間者の摘発」

「それだけじゃなく、

反乱分子の拘束も任せることになるわ」


マハトラが慎重に言う。


「ですが、

そういう組織を作り、

維持するのは簡単ではありません」


「あなたがいるじゃない」


「私が?」


「魔王城初代暗部長に、

あなたを任命するわ」

「それでミッションの第一条件達成よ」


「……は?」


「細かいことは気にしないで」

「とにかく、

魔王城暗部の長、引き受けるわよね?」


マハトラは、

じっと私を見た。


「私を

そのような場所へ置かれるのですか?」

「本当に、

信用して任せられますか?」


そう言って、

口元にうっすら笑みを浮かべる。


「ちなみに、

血の眷属化を使うおつもりなら

私には効きませんよ」

「残念ながら、

年を取りすぎていますので」


「忠誠を誓うって言ったでしょ」

「だったら、

私も信用するわ」


私は低く付け加えた。


「でも、

裏切ったときの代償は

絶対に軽くないから」


マハトラは、

恭しく頭を下げた。


「ありがとうございます」

「では、

ソフィアはどうされます?」


「彼女は優秀よ」

「暗部の土台を作る実務役でもあり、

訓練教官にもなれると思う」


ただ、

問題が一つあった。


「でも、

彼女にはまだ

そこまでの信頼は置けない」

「血の眷属化を提案するしかないわね」


「受け入れれば、

助かるわけですね」


「そう」

「この状況で魔王を説得するには、

それしかないもの」


マハトラが、

感心したように言った。


「お見事です」

「魔王様にとっても利益になる形を示して、

ソフィアも救い、

魔王城暗部まで作る道を見つけられたのですね」


マハトラは本音では、

かなり驚いていた。


彼がここへ来たのは、

エリンが情報を流したからだ。


エステルと魔王が、

スパイ捕縛のために動いた。


その情報を

受け取っていたのだ。


そのときエリンは、

エステルの力について

こう言っていた。


天機洞察。


あのときは、

まだ半信半疑だった。


けれど今こうして、

エステルの分析と推理を目の当たりにすると、

認めるしかなかった。


天機洞察。


それこそが、

エステルを最もよく表す言葉だった。


◆◆◆


ソフィアの件は、

驚くほどあっさり片づいた。


私が暗部設立を提案すると、

魔王はそれを受け入れた。


マハトラも、

横からうまく後押ししてくれた。


そのおかげで、

最後まで反対していたギルガオンも

どうにか説得できた。


私はソフィアを見て言った。


「ソフィア」

「あなたに、

生きるチャンスをあげる」


彼女の目が揺れる。


「私は、

あなたに死んでほしくない」

「生き残って、

あなたに似た綺麗な子たちと一緒に暮らす世界を、

私は見てみたいの」


不思議なことに、

システム上で私がラスボスとなり

魔王の位置へ置かれてから、

頑なだったソフィアの態度は

少しやわらいでいた。


彼女は、

私の提案を受け入れた。


そして、

血の眷属化によって

私の眷属となった。


(よかった)


(もしソフィアが最後まで拒んでたら、

ミッション自体が進まなかったはずだもの)


ソフィアを、

暗部の中核要員にすること。


それもまた、

ミッションの細目の一つだった。


(あとは最後に、

ライカン・スロープ側の承認ね)


私はマハトラを通して、

ライカン・スロープとの

秘密交渉の結果を聞いた。


「魔王城からの抗議に対し、

総統閣下は深い遺憾の意を示されました」


マハトラは続けた。


「ですが、

私にはまだ不可解です」

「総統閣下は、

エステル様と良好な関係を築くつもりだったはずです」

「それなのに、

なぜソフィアへの命令を

そのまま残しておいたのか分かりません」


「どれだけ頭のいい人でも、

たまには変なところで

気が抜けることってあるでしょ」


「それはありますね」


マハトラが、

にこりと笑った。


「ともかく、

総統閣下はエステル様へ

何か頼みたいことがあるご様子でした」

「ですが、

今回の件があって

今はまだ言い出せなくなったようです」


「総統が私に頼みたいこと?」

「何それ?」


「私にも分かりかねます」


とぼけるような言い方だった。


知ってはいるけれど、

今は言えない。


そんな顔をしていた。


(追及しなくていいか)


(頼み事なんて聞いたら、

こっちも重くなるし)


マハトラは、

さらに続けた。


「それから、

お望みの対価も持ち帰っております」


今回のスパイ派遣について、

謝罪だけで終わらせるつもりはなかった。


「最新技術です」

「《人間化》を手に入れました」


ソフィアを人間に見せていた、

あの中核技術だった。


「そのおかげで、

ギルガオンも満足しているようです」

「今後、

諜報活動を行う際に

非常に役立つと申していました」


私は、

小さく笑った。


「あいつ、

ソフィアを殺さないって言ったときは

すごく不満そうだったのに」

「これでようやく

機嫌が直るかもね」


マハトラが尋ねる。


「ソフィアと会われますか?」


しばらくして、

扉が開き

ソフィアが入ってきた。


私は彼女を見て言った。


「今日からあなたは、

正式に魔王城の所属よ」


マハトラが付け加える。


「表向きは、

夜学識字教室の講師」

「ですが実際には、

魔王城暗部の訓練教官であり、

私の補佐役も務めてもらいます」


ソフィアは、

しばらく私を見つめてから

頭を下げた。


「エステル様のお慈悲」

「一生忘れません」


「どうせこれも、

起きるはずだった未来なの」

「ただ私が、

少しだけ向きを変えて

もっといいほうへ持っていっただけよ」


未来は、

手の入れ方次第だ。


もっと明るく、

もっと綺麗な未来にできるなら。


私は、

どうにかしてそうしていきたい。


【ミッションクリア】


【カルマポイントが10%減少します】


ついに、

頭の中で

ミッション完了の音声が響いた。


(なんだか少し、

心が軽くなった気がする)


私を縛っていた縄が、

ほんの少し緩んだような感覚だった。


私はソフィアに歩み寄り、

やさしく言った。


「こうして二人でいるときは、

前みたいに

お姉ちゃんって呼んでいいよ」


私がそう言うと、

ソフィアは少しだけためらった。


それから、

ぱっと笑って言った。


「お姉ちゃん」

「ありがとう」


その瞬間、

マハトラが少し驚いたように見えた。


私は彼に、

以前ソフィアと出会ったときのことを

簡単に話して聞かせた。


そしてもう一度、

ソフィアを見る。


「一人だった私に

声をかけてくれて、

ありがとう」


あのときのことへの、

私なりのお返しだった。


ソフィアが、

遠慮がちに聞いてきた。


「でも、

正体を隠すと

黒い瞳になるんですか?」

「見てみたいです」


やっぱり、

ソフィアは大胆だった。


というより、

人懐っこいと言うべきかもしれない。


私が魔王妃だと知っても、

許可した途端

昔みたいに距離を詰めてくる。


「うん」

「見せようか?」


さらり。


私の姿が、

ゆっくり変わっていく。


ソフィアが、

興味深そうに私を見た。


「ライカン・スロープの秘技、

《人間化》とは少し違いますけど」

「見た目の結果はかなり近いですね」


感心したように、

彼女は言った。


「魔力遮断が本当に完璧です」

「体の内から漏れる魔力を消してしまうから、

人間とほとんど差がありません」

「人間化より、

ずっとすごいかもしれません」


私は首を振った。


「そっちの技術のほうがすごいのよ」

「これは私しか使えないけど、

そっちは適性のある相手を選んで、

手順を踏めば再現できるんだから」


そして笑って、

付け加えた。


「だから、

これからもよろしくね」


すべて、

うまく収まった。


一つだけを除いて。


(炎の魔人)

(大丈夫なの?)


消えてしまったわけではない。


さっきみたいに、

気配遮断のシールドを頼めば

今もちゃんと応じてくれる。


でも。


(どうして黙ってるの?)


まるで、

発言だけを封じられたみたいに

彼は口を閉ざしていた。


(私に助言したせいで、

あの管理者が介入したのかしら)


私にはもう、

待つことくらいしかできなかった。


そのとき、

アウラがノックして入ってきた。


別の誰かが入った瞬間、

ソフィアはすぐに

侍女らしい恭しい姿勢へ戻った。


私はアウラを見た。


「どうしたの?」


アウラが、

頭を下げて言った。


「双子様たちのウムカウテが、

数日以内に始まりそうです」


ぴくりと、

私の目が動いた。


あの子たちが。


ついに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ