第108話 三人で力を合わせたら、想像以上の強さになりました
「くああ!」
「かああ!」
二人の羽が、
同時に羽ばたいた。
その瞬間、
風が裂けた。
目に見えない刃。
匂いも、形もない風。
けれど、
その威力だけは本物だった。
ぐあああっ!
双子へ飛びかかってきたフェルリンたちが、
そのまま斬り裂かれた。
(やはり)
(嗅覚が鋭い相手ほど、こういう攻撃には弱いのでしょうね)
見えない。
匂わない。
気配もない。
事前に避ける余地すらない。
双子のエアカッターは、
そういう攻撃だった。
「次は、私の番です」
フェルリンの群れが、
牙をむいてエリンへ襲いかかる。
奴らは思ったのだろう。
ウムカウテの魔族一人くらい、
すぐに引き裂けると。
だが、
それは完全な間違いだった。
(母上に無礼を働く者たちに)
(慈悲などあるはずがありません)
エリンの周囲へ、
七つの炎が立ち上った。
以前、
母上の前で見せていた花火とは違う。
今度は戦闘用。
色も、
真っ黒だった。
炎は蛇の舌のように
ちろちろと揺れていた。
エリンが静かに告げる。
「消えない炎。ブラックフレア」
炎が、
一斉に飛び出した。
敵が完全に消滅するまで消えない、
黒い火焔だった。
――避けろ!
頭領が、
鋭く叫ぶ。
だが、
遅かった。
ぶわっ!
先頭を走っていた者たちが、
黒い炎に絡め取られた。
地を転がる。
もがく。
のたうつ。
それでも、
消えない。
――なぜだ!?
――我らには火炎耐性があるはずだ!
その言葉に、
エリンの口元がわずかに上がった。
(やはりありましたか)
(火炎耐性)
奴らが炎を見ても、
最初に退かなかった時点でおかしいと思った。
だから、
もっと強いものを出した。
(耐えるのですか)
(なら、耐えられないほど強く押し潰せばいいだけです)
それが、
エリンのやり方だった。
あっという間に、
半数近くが消滅した。
エリンが冷たく告げる。
――生きたいなら、今すぐ去りなさい。
だが、
頭領は退かなかった。
――ふざけるな!
――退却などあり得ん!
その叫びとともに、
残った者たちが再び襲いかかる。
(先ほどの魔法を見ても、なお?)
(まさか、一度使って終わりだと考えたのですか)
とてつもない高難度魔法。
膨大な魔力消費。
普通なら、
そう判断するのも間違いではない。
普通なら、だ。
だが、
エリンは普通ではなかった。
かちっ。
エリンが、
手首のリングに触れた。
(誕生日にもらった魔法リング)
(あらかじめ魔力を蓄えておけるのですよね)
(こういう時のためにあるものです)
エリンの視線が、
頭領へ突き刺さる。
――あなたに頭領の資格はありません。
――あなたの欲のせいで、部下たちが死んでいるのです。
そして短く告げた。
「手伝ってください」
すると、
双子がエリンのそばへ飛んできた。
くるり。
くるり。
小さな体が回り始める。
二人の能力が発動した。
サポーター。
力の増幅。
威力の強化。
エリンはその感覚をよく知っていた。
(やはり)
(私の力は、双子と一緒にいる時のほうが強い)
一人より、
三人で。
それぞれ別々に戦うより、
噛み合った時のほうが、
ずっと強い。
その瞬間、
母上に言われた言葉が浮かんだ。
――みんなで力を合わせるのよ。絶対に一人で戦ってはだめ。
エリンは、
その言葉を忘れていなかった。
ぶわっ!
エリンが再び手を上げる。
「行きなさい」
「消えない炎」
エリンの生み出した黒い炎が、
双子の風に乗って
四方へ広がっていった。
(……強くなりました)
先ほどとは比べものにならない。
十倍近い威力。
炎は一方向へ噴き上がるだけではなく、
薙ぎ払うように広がっていく。
まるで、黒い炎の奔流だった。
ごおおおおっ!
フェルリンの群れが、
炎の奔流に呑まれた。
悲鳴も長くは続かない。
しばらくして――
静かになった。
残ったのは、
焼け残った骨の欠片だけだった。
エリンが息を整えながらつぶやく。
(骨まで全部焼き尽くせると思ったのですが)
(そこまではいきませんでしたか)
つるりとした骨が残っていた。
やはり、
普通の相手ではなかった。
「こおお」
「くああ」
双子が、
その場にへたり込んだ。
疲れた。
それでも、
顔はにこにこしていた。
(ストレスが全部吹き飛んだ顔ですね)
エリンも額の汗を拭いながら、
その場へどさりと座り込んだ。
「はあ……疲れました」
そして周囲を見回す。
「……」
あたり一面、
ひどい有様だった。
地面はえぐれ、
土はめくれ上がり、
戦闘の跡がそのまま残っている。
そこで、
ふと思い出した。
「あ」
「あの子を忘れていました」
エリンは、
泡玉のほうへ歩いていった。
群れに追われていた、
あの白い子。
正体を確かめなくてはならない。
「こお?」
「こおお?」
双子も、
とことこと後をついてくる。
三人で泡玉の中をのぞき込んだ。
「……小さいですね」
拳ほどの大きさ。
ふわふわの白い毛並み。
目は、
きゅっと閉じられていた。
性別はまだ分からない。
エリンが瞬いた。
「何でしょう、この子」
「寝ていますね」
長いこと休めていなかったのだろう。
安全な場所へ入った途端、
そのまま眠ってしまったようだった。
エリンが、
くすっと笑う。
(度胸だけはあるようですね)
(追われて、ようやく助かったばかりなのに、ここでそのまま眠るなんて)
(面白い子を拾いました)
エリンは、
双子のほうを振り向いた。
「母上に、この子を飼いたいとお願いしてみましょうか」
「こお!」
「くあ!」
双子が、
両手を高く上げた。
いいね!
賛成!
それがいい!
子どもたちの願いに、
エステルはどんな答えを出すのか――。




