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第75話 狂ってるキリ

 「原物さん!! 彼女がアバトの上司そして、元女神のキリです!!」


 「そんな言い方しないで欲しいです。」


 キリはそういいながら俺の口元に指を置いてしーっ。みたいな感じになっている。

 俺は少しドキドキしてしまうが、原物がキリを見る目は獲物を取る目……。


 覚悟が違う……。


 「おい武蔵、さっさとそいつから離れろ。それと、巻き添いを喰らいたくなければさっさとどっかにいきな、怪我じゃ済まされねぇぞ!!」


 「はっ。はい!!」


 「あなた様。近くで見ていてください。私の有志を見ればもっともっと好きになるはずです!!」


 「ちっ。気持ちわりぃこと言いやがって、せっかくの綺麗な顔が台無しになるぐらい痛みつけてやるぜ!!」


 「そのようなことはありません。アバトが勝てない敵に私が負けるはずありませんから。」


 「やってみやがれ!!」


 「少し離れますが泣かないでくださいね。」


 そう告げながら、俺の頭をポンポンとしたキリは原物に向かって歩き出す。

 俺はその間に2人がギリ見れるぐらいまで離れてから振り返ると、原物は頷きキリに向かって走り出した。

 原物は両手剣を右肩の上に掲げて走っている。

 まさに示現流のような構え方。


 「余裕ぶりやがって。殺してやる!!」


 キリにドンドン近づき、そして両手剣の許容範囲に入った原物は剣を右上から斜め下げ切り裂こうとする。


 だが、そんなことは起きなかった……。

 キリの指。しかも、たった1本で阻まれたのだ……。


 「チッ。化け物がよ!!」


 「あなた様ご安心ください。この程度でしたら血も出ることはありません。安心してぎゅっと抱きしめても大丈夫ですよ。」


 「くだらねぇお喋りはそこまでだ!!」


 キリは後ろを振り向き俺の方を見ながら言うが、その行動が原物に火をつける。


 そこから連続で両手剣でキリを切り刻もうとするのだが全て指1本で防がれる。

 上からだけでなく横から、下からなどの攻撃。しかも、目にも見えないほど早い。

 だがキリは俺を見ながら指1本で止めていた……。


 これがキリの実力……。


 キリは1度原物さんの方に向き、防いでいない手を口元に持ってきて「ふぅ。」と息をかけるようにする。

 その瞬間原物さんは消え、何が起こったのか分からなかった。


 原物さんはいなくなり、原物さんの背後にあった家々は潰れていく……。

 そして少し遅れてから俺の所に衝撃波というか強い風がなびく……。


 「原物さん。あなたは戦闘時、魔法を使いたがらない傾向がありますね。過去の出来事を未だに乗り越えられていない証拠でしょう。ですが、そのままではアバトに勝つことは永遠に無いでしょうし、その前に私に殺されますよ。」


 「……。」


 「距離的に聞こえないかもしれませんね。それでは、あなた様と大事なお話でも致しましょう。」


 そういったキリは一歩、また一歩と俺に近づいてくる。

 俺はただただ怖いという感情に包まれ、逃げ出したくなるのだが足がガクガクしていて言うことを聞かない。

 

 怖い、怖い、怖い、怖い……。


 助けて、助けて、助けて、助けて……。



 ガラガラ……。


 「あああああああ!! うぜぇ!!」


 ?! 原物さん!!


 家の瓦礫がから出てきた原物さん。

 良かった、まだ生きてる!! 生きてるよ!!


 「チッ武蔵ばっかり見やがって……。ふざけるな、俺を見ろ!! 戦いはまだ終わってねぇだろ!!」


 原物さんは大声で叫んだだけなのだが、腕がピリピリする。

 そして、自然とキリではなく原物さんに視線が奪われる感覚……。

 これは一体……。


 「これではあなた様のところに行けませんね……。残念です。このスキルは、スキル発動者に視線を奪われるという少し厄介なスキルなのです。あなた様、しばらくお待ちください。 」


 少し悲しげな顔をしたキリは原物さんの方に振り返る。

 その原物さんだが、瓦礫から出てからすごく真剣というか覚悟を決めた顔という顔で俺を見ている。


 「武蔵逃げろ!! お前なら逃げられるはずだ。視線が逃げられねぇなら後ろ歩きでもいい、だから逃げろ!! 俺はこれから、身体強化に全魔力を持っていく。どうなるか俺自身も分からねぇ!!」


 「私もあなた様にかっこいいこと言いたいです。ですが、もうそろそろ終わりにしましょうか。つまらない時間は好きではないので。プランテーション」


 「なんだ!! クソ!! 離しやがれ!!」


 突然現れツルによって原物は動けなくなる

 地面から生えた2本のツルで両足。そしてキリが現れる時に使う次元の狭間みたいな場所が原物の左右に存在し、そこから腕を縛られていた。


 もはや原物は宙に浮き、両手両足使えない状態……。

 必死にツルを引っ張ったりなど色々しているがビクともしていない。

 それに、相棒の剣は原物が先程までいた地面に置いてきぼりにされている……。


 「せっかくやる気を出してくれましたが、あなた様との時間が無くなるのが許せなくなってきました。ここで殺すことは致しませんが少し静かになってもらいますね。このぐらいでしたら死にませんから。」


 「?! 嘘だろ……。このバケモンがよ!!」


 地面から生えた土? いやコンクリートのようなものが人の腕をかたどって出現した。

 そして、その2本の腕はキリが手を上げると共に動けない原物に向かって殴り始める!!


 殴られた衝撃でも解くことができないツル。

 そしてまた次の攻撃が襲いかかる……。


 俺はただただその光景を見ることしか出来なかった……。

 やっと声を出たのも殴り始めてから少し時間が経ってからだ……。



 「やめて……。」


 時々聞こえてくるのは原物が発している嗚咽音や荒々しい息遣いのみ……。


 「やめて……。」


 たまに見える原物の姿は血だらけでいつものような元気な姿を想像もできない。


 「意外と早かったですね……。ギリギリを攻めるのも楽しいですが死んでしまっては元も子もありません。では、最後に力を込めて2発ほど殴りましょう。そうすれば金輪際私に反抗ができなくなります。」


 「キリやめて!! 死んじゃう、原物さんが死んじゃう!!」


 俺は大声で言ったあと、ガクガクになった足を少しずつ動かし、キリの所まで行った。

 その間はキリが止めていてくれたので原物にダメージはないが、あの状態だけでもう死ぬ寸前……。


 そして、近づいた俺はキリ手を掴み彼女の顔を見ながら訴える。


 「お願い、なんでもするから原物さんに攻撃するのやめて!!」


 キリは優しそうな顔で俺の事を見てきた。


 「あなた様がそうおっしゃるのなら、私は何も致しません。」


 そう言った瞬間、キリの魔法が消え出現していた腕、そして両手両足を支配していたツルが無くなり原物はその場で落ちた。

 俺はそんな原物に向かって走り出した。


 だが、その状態は近くで見れば見るほど酷い光景だった。

 形はあるものの、血だらけだし1歩も動ける力も残っていない。

 それに、いつもごっつい原物が若干薄いような……。

 多分骨もやられてる……。


 キリは俺たちに向かいながらゆっくりと口を開けた。


 「あなた様。原物は自ら望んで戦闘したのです。この結果は彼が引き起こしたもの。自業自得ではありませんか? それに、アバトでしたらもう少し耐えてましたが、原物ぐらいでしたらここぐらいが限界でした。そんな彼はほっておいて私とデートでもしませんか? もう少しあなた様とこの街を散策したいと思っていたのです。」


 「キリ!!」


 「そんな怖い顔しないでください。私はあなた様の指示に従いやめたではありませんか。どちらかといえば褒められる立場だと思いますのに……。」


 「こんなのめちゃくちゃだよ……。原物だけじゃない、周りだってもう直らないじゃないか……。家があるだけ帰ってくる家族がいるんだよ!!」


 「あなた様? 家など壊れたら作ればいいではありませんか? そこに誰といるかが重要なのです。そう、私とあなた様のように。」


 「それでもやりすぎだ……。」


 「むっ。む・さ・し・に・げ・ろ……。」


 「原物さん!!」


 「ですから死んでませんって。そうですね……。あなた様がそこまで大事な方なのでしたら治した方がよろしいでしょう。見殺しにして、あなた様の悲しむ顔は見たくありませんから。でも、ただという訳にはいきません。先程何でもするとおっしゃいましたよね? では、私のほっぺにキスをしてください。してくれましたら、あなた様に1回限りの回復魔法でも付与しましょう。私から治すのは少し嫌なので。」


 キリは見たことの無い笑顔をしながら俺に訴えてくる。

 だがその笑顔は恐怖そのもの。

 そして、近づいてきてもうすぐそばに居るキリ……。

 原物もこのままだと死ぬし、覚悟を決めないと!!


 「す・る・な……。」


 「でも!!」


 「あなた様、キスは本来唇にする物ですよ。それをほっぺで良いと言っている私は寛大ではありませか?」


 「ごめん、原物さん。俺は原物さんに生きてもらいたい。それにキスのひとつなんて安いもんですよ。キリ。準備が出来た。」


 「でっ。では、私のほっぺに……。ほっぺにキスを!!」 

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