暴走《Mirror's Project》③
「やはり殊能を……まさか既に目覚めていたというのか。覚醒して尚、必要な殊能が揃うまで我々を欺いていた……? だとすれば――」
驚きを隠せず、また同時に喜びを隠しもしないベクター。
(なんと素晴らしい……)
XM1はその目の前で、厳重に施錠された弾薬用コンテナを容易くこじ開けると、中から大容量の背負式弾倉を取り出した。胴体上部を180度回転させると、弾倉を掴み上げて背中に取り付ける。そしてバックパックから延びる給弾ホースを、レールガンの後部に接続した。
「弾倉、実弾だぞ! 誰か止めろ!」
「無茶言わないでくださいっ! アーマードなんですよ?」
「下がれっ、危ないぞー!」
「警備を、警備を呼べぇ! SSFっ!」
そのスタッフ達の叫喚を聞きつけてか、数人のSSF隊員が倉庫内に駆け込んできた。
「なっ――試作機が!?」と、一瞬驚いた様子のSSF隊員だったが、そこは軍人らしくすぐにスタッフや仲間に指示を飛ばした。
「民間人は倉庫の外へ退避して! お前は加藤大尉に連絡! ――責任者はどこだっ?!」
スタッフの視線がタブレットを睨んで独り言を言っているベクターに集まると、SSFの一人が詰め寄る。
「あんたが責任者か! 一体どうなってる? このアーマードのAIを――おい、聞いてるのか?!」
「――素晴らしい。やはりAIを積んだアーマードよりも、殊能者に《《アーマードの身体を与える》》方が遥かに合理的なのだ。成長する兵器……これぞ私の理想の兵器だ」
「あんた何を言って――」
(学習した『ウルズの刻』の範囲を機体表面に限定して、マントのように纏っているのか。それが強制停止すら遮断している……)
ベクターは深く思索に入り込み、彼の耳には周囲の声が届かなくなっていた。
一方装備を得て、周りの制止を完全に無視して動き回るXM1は、すぐにその場を去るかと思われたが、しかし殊能観測用の機材を積んだトレーラーの前で足を止めた。SSFから「止まったのか?」という声があったが、停止ではなかった。
(観測機にアクセス……? 殊能量波のデータを探しているのか――!)
ベクターの手元の画面では、先程までの団体戦と個人戦のデータが次々とXM1にダウンロードされていくのが解った。そして殊能のデータを貪る様にインポートするXM1の機能一覧には『Bow of Ollerus』、『Fire of Surt』、『Head of Heimdall』という項目が追加された。
それを見るベクターの顔が愛おしそうに歪んだ。
「おお、何という理解力だ……」
データの摂取が完了するとXM1は、並べられた機材や床に落ちたタブレットを踏み付けながら歩き出した。その先にあるのは個人戦のフィールド――市街エリアであった。
***
クロエが要シゲルと別れた直後である。彼女の腰に付けられたSSFの通信機から連絡が入った。
――『白峰外佐、加藤です』
「どうした大尉」
――『デフコンBです。演習場市街エリア先の倉庫で、試作型のアーマードが暴走しました』
デフコンというのは軍部における戦闘的な状態を表す言葉で、Cが警戒態勢、Bが防衛態勢、Aが臨戦態勢を示している。つまりヒロミツの報告は、クロエの指示が無くとも状況により防衛行動を開始する構えである、ということである。
「リードの新型か」とクロエ。
――『はい。実弾を装填した電磁投射砲を装備しているとのことです。……それと未確認ですが、特殊な新兵器を搭載しているとの情報も』
「新兵器?」
――『LEADからは殊能を使用する可能性があると……アーマードが、です。俄には信じ難い話ですが』
「……そうか。(ミラーズプロジェクトの主旨はこれか。アーマードに殊能の発生装置のような物を積み、対ネームドの兵器――いや、対私用の兵器を作り出したつもりか)」
――『これが例のテロですか? 如何なさいますか?』
「まだ判らんが可能性は高い。そのつもりで当たれ」
――『了解しました』
「開発者のベクター・ランドは?」
――『現在行方不明です。付近に居たLEAD研のスタッフと民間の警備員を避難させている間に消えたと。またXM1は個人戦の市街エリアに向かっている模様です』
「機体の暴走はどの程度伝わっている?」
――『混乱を避けるため、中継カメラは即座に全て切りました。観覧席には伝わっていません。学園側への対応は八重樫氏にお任せしましたが……問題ありませんか?』
「問題ない。XM1の対処は――停止はできそうか? 破壊しても構わんが」
――『通常のアーマードであればSSFだけで対処可能ですが……如何せん敵の戦闘能力が未知数ですので、何とも』
「では応援が必要な場合は八重樫を呼べ。あいつは元私の部下だ」
――『ウイングズですか。それは心強いですな』
「それと念の為私の弟を向かわせるが、構わなくていい。警護などで人員を割くな」
――『弟さんを? 危険では?』
「問題ない。少なくとも自分の身を守る程度の実力はある。――以降デフコンは現場判断で引き上げて構わん。私も後から合流するが、少し時間がかかると思ってくれ」
――『了解しました』
クロエはヒロミツ大尉との通信を切ると、今度はOLSでユウを呼び出した。
[お疲れ様です、クロエさん]
[まだ客席か]
[すみません、ちょっと皆に絡まれてて……これから倉庫に向かいます]
[ああ、すぐに向かえ。今例の新型アーマードが暴走し、市街エリアに向かっている]
[ええっ!? そういえばさっきライブモニターが突然真っ暗になりましたけど――まさかディソーダーが?]
[いや、今のところ確証は何も無い。ベクターの不手際の可能性もある。しかしアイオードの状況を見ればディソーダーの関わりが無いと考える方が不自然だ。ユウ、お前は市街エリアで調査をしろ。社はともかく、他の生徒には言うなよ?]
[了解しました、一人で行きます。……僕はそのアーマードを倒せばいいんですね?]
[違う。お前の役目はディソーダーの警戒だ。XM1とディソーダーの関連が明らかでない以上、お前は直接手を出すな]
[え――]と、言葉に詰まるユウ。
[亜世界の事故であれば、源世界の人間が必要以上に干渉する必要は無い]
[……それは、亜世界の人達――杠葉先輩や朱宮さんが危険に陥っても『見捨てろ』っていうことですか?]
ユウは釈然としない様子で、微かな苛立ちすら込めて訊いた。しかしクロエはそれを否定しなかった。





