源世界《Reality》①
――2275年。源世界。
満天の星空。彼が知る剣と魔法の世界での夜空は、闇がどれほど深い夜であっても星の煌めきが空を埋め尽くすことはなかった。だが今目の前に広がっているのは、幼い頃に見た懐かしい銀河の輝きであった。
(ああ……やっぱり夜空っていうのは、こういうのがいいな)
そんな感慨を得ながら仰向けに寝そべるユウは、暫くその星空を見上げていた。
「(昔、田舎のおばあちゃんのところで観た空も、こんなだったっけ)――あれ?」
ユウは自分の思考の中にいつの間にか、アーマンティルに転移する前の記憶が在ることに気が付いて思わず声が出た。するとその声が合図であったかのように、夜空の星がスゥっと静かに消えたかと思うと、今度は徐々に空間全体が明るさを取り戻した。
「おはようございます、ユウ・天・アルゲンテアさん」
ユウが足を向けていた方から、女性の柔らかい声。
彼はこの時初めて、自分が透明なゲル状の繭のような物の中に裸のままプカプカと浮きながら寝ていたことに気が付いた。
「うわっ?!」
慌ててユウが上体を起こしてみると、彼の身体は然程の抵抗も無く繭の表面を突き抜けて、すんなりと起き上がることができた。身体にはその謎の液体がネットリと付着していたが、彼が立ち上がって数秒もすると、跡形も無く消え去ってしまった。
ユウはサラサラとした短めの銀色の髪を掻いて、翡翠色の瞳で辺りを見回す――彼が居たのは20平方メートル程の、家具や調度品も何ひとつ無い真っ白な部屋であった。その部屋の隅にポツンと立っているのは、看護服のデザインにも似てなくもない、ピッチリとした白い全身スーツに身を包んだ若い女性。長いブロンドの髪。
目が合った彼女に優しい微笑みを向けられて、裸のユウは「わっ」と恥ずかし気に背を向けた。
「貴方の身体には何の異常もありません。記憶の復元も問題ありませんでした」と、その女性。
「あの、ここは――?」
「ここは源世界の世界情報統制局――WIRAのマルチルームです。……おかえりなさい、アルゲンテアさん」
そう言うと彼女は、穏やかな顔で一層優しく微笑んだ。
「源世界……。アルゲンテア――?」
ユウのあどけない顔は確かに少年のそれであったが、頼り無さや弱々しさは無い。むしろ意志の強さを漂わせる眼は、その年齢には似つかわしくないほど毅然としていて印象的であった。
「お名前は現在の源世界での規則に従い更新されました。本日より貴方の名前は、ユウ・天・アルゲンテアとして登録されています」
「は、はあ……」と、気の抜けた返事のユウ。
(なんか国籍がごちゃ混ぜになったような名前だな……)
半開きの口のまま再び部屋を眺め回す。窓も照明も何ひとつ無いというのにその明るさは充分で、温度も湿度も極めて快適であった。そこで彼はハッと気が付いた。
「あれ? 源世界って――僕は自分の世界に戻ってきたはずじゃ?」
「……残念ですが、過去の源世界へと転移することはできません。ここは源世界ですが、貴方がいた時代よりも遥かに未来です。現在は西暦換算で2275年、8月21日、午後1時6分です」
「にせんにひゃく……って……」
それを聞いたユウは言葉を失った。
暫く呆然としていたユウは、自分が全裸であったことをハッと思い出して女性に尋ねる。
「あ、あの、僕の服はどこへ――?」
「亜世界での衣服はお持ち頂いておりませんので、そのままで結構ですよ」
「そ、そのままって……」と顔を赤らめるユウの思考を理解して、その女性が言葉を訂正した。
「失礼致しました。そのままお待ち頂ければ、すぐに着装されますよ」
「へ?」と素っ頓狂な声を出しつつも、ユウは言われるままにその場で立ち尽くす。すると床の一部が砂のようにサラサラと彼の身体を這い上がって彼の身を包むと、一瞬の内に白い全身スーツに変化した。
「凄い――(魔法みたいだな……)」
ユウが感動しながら自分の身体を見回していると、更に目の前の床が角柱状に突き出して、その上に一着の白いガウンが出現した。
「そちらもご着用ください」と、女性。
ユウがそのゆったりとしたガウンに袖を通すのを見計らって、女性は笑みを絶やさぬまま言った。
「それではこちらへどうぞ。局長がお会いになります」





