第十五話 蝙蝠襲来(2)
ユニーク数が10000を突破!
もうそろそろPVが50000を突破するかな……?
金属光沢を放つ紫の翼。
やけに煌めく銀の爪。
巨大な耳に、鋭い牙が見える口。
血のような真紅の眼球。
そして、胸元に浮かんだ、極彩色の複眼を持った蝿の頭。
それを見た私――彩那・アリア・白鏡は、呆然とその名を呼んだ。
「キメ、ラ……っ!?」
闇属性魔法“魔獣合成”によってのみ造られる、醜い怪物。
獣と違って強大な魔力を有した魔獣。
それが、合成獣である。
幻獣学の授業で二、三度耳にしたことがあるが、まさかこんなところで出会うとは思わなかった。
本来なら、魔導学園という特殊な環境下に置いても、滅多に出会うことのない生物なのだから。
しかし、そんな貴重というか希少というべき、合成獣を前にした私達だが、そのことを幸運とは思っていない。
むしろ、この状況は最悪に運が悪いと言える。
何故なら、合成獣というのは、幻獣と違って知性を一欠片も持っておらず、それを召喚する魔法──“魔獣合成”が禁術指定される程に残忍かつ獰猛で、とても危険な生物なのだから。
『──ギュゥァァァアアッッ!!』
蝙蝠は、先程から破壊的な音量で啼き続けている。
どうやら、この啼き声は魔力を伴ったモノらしく、激しい頭痛を引き起こして私達から力を奪っていた。
「くぅっ……っ」「ぅぐっ……」「ぅうっ……」
三人とも、耳を押さえながら苦悶の呻きを上げる。
このままだったら、確実に三人とも合成獣にやられてしまう。
そう考えた私は、激しい頭痛を無視しながら右手に魔法陣を展開させる。
そして──、
『響き、渡れ……“消音波”ッ!!』
私のその言葉とともに、右手に展開された魔法陣から特殊な音波が発現され、合成獣の啼き声を打ち消した。
これで、最低限の戦闘を行える。
私は、偶然手元にあった片刃の剣をガオンくんに投げ渡しながら言った。
「行って、ガオンくん!」
「了解、風紀委員ちゃんっ!」
ガオンくんは、私の投げた剣を受け取ると、そう言いながら両足に魔法陣を展開させる。
そして、そこから魔法を発現させながら、合成獣に斬りかかった。
『燃やし尽くせ! “爆炎靴”!』
『グッ、ギィヤァァァアアッッ!!』
ガオンくんの両足に発現した魔法――“爆炎靴”から起きた爆発が推進力となり、合成獣の羽を切り裂く。
「やった!」「ガオンくん、凄い!」
それを見た私とハノンちゃんは、思わず喜びの声を上げる。
するとガオンくんは、剣を肩に担ぎながら得意気に言った。
「当然! この魔法はわざわざ“雷光靴”が使えるクローに頼み込んで、この二週間で習得した新作だからな!」
「「あ、そうなんだ」」
たまに二人でどこか行ってると思ったら、そんなことしてたんだ。
……ちょっと羨ましいかも。
「……白鏡さん? どうかしたの?」
「い、いや! なな何でもないよ!?」
「……そう? ならいいんだけど」
「ア、アハハ……」
……なんか、ちょっと危なかったかも。
「ま、まぁ、その話は一先ず置いといて。ガオンくん、合成獣の方は大丈夫そう?」
「ん? あぁ、こっちは大丈夫そうだぜ、風紀委員ちゃん。さっきからピクリとも動かないからな、この蝙蝠」
今まで黙っていたガオンくんだが、会話を振ってみたらそう言いながら足元に倒れる蝙蝠を見据える。
私とハノンちゃんが揃ってその視線を追ってみると、確かに羽が切られて以降、床に落ちて全く動いていなかったようだ。
床に溜まった緑色の血に、掠れたような所や飛び跳ねたような所がないことからそれが分かる。
それを見た私は、異様な色の血に少なからず嫌悪感を覚えながらも、それを何とか我慢しながら二人に言った。
「と、取り敢えず、このことを先生と綺天塚先輩に連絡しなくちゃ!」
「あぁ、それもそうだな。ちょっと呆気ないような気もするが、こうやって合成獣を倒したんだから、なんか報酬とか出るだろ?」
「う〜ん……。それはどうだろう?」
「私は出ないと思うなぁ……」
「えっ!? そうなのか?」
「「うん、多分!」」
ガオンくんの問いに、私とハノンちゃんは声を揃えて返事をする。
それを聞いたガオンくんは、頭を抱えて、そんな馬鹿な〜っ! 、と嘆いている。
しかし、出ないものは出ないんだから仕方ない。
本来、合成獣というのは、国に所属している騎士が任務として討伐するものだから、一般市民が倒した際に出る報酬のリストには載ってなかった筈……。
と、そこまで考えた時、私はあることに気付いた。
……あまりに、呆気なく倒し過ぎていないかな?
いくら強烈な攻撃が決まったからと言って、ただの学生が合成獣を倒すことが出来るのか?
もし仮に倒すことが出来たとしても、胸を裂いたり頭を割ったりしたワケでもなく、ただ羽を斬っただけで死ぬものなのか?
例え出血多量で死ぬことがあったとしても、まったく暴れないで死ぬなんてことがあるのか?
……この合成獣は、本当に死んでいるのか?
「――まさかっ!?」
気付いた時には、もう手遅れ。
私が後ろを振り返った瞬間、何事め無かったかの顔を上げていた蝙蝠が再び破壊的な啼き声を上げた。
『ギィヤァァァアアッッ!!』
「「「なっ!?」」」
思い切り不意を突かれた私達三人は、成す術もなくその場に踞ってしまう。
それを見た合成獣が、涎の滴る口の端を嫌らしく持ち上げる。
……やっぱり、この蝙蝠は死んでなかった!
「嘘……っ!?」
「油断、した……っ!」
私の背後で二人がそう叫んでいるのが、微かに聞こえた。
二人が、とても悔しい思いをしているのが、ありありと伝わってくる。
こうなった以上、二人はまともに抵抗が出来ないからだ。
この状況を脱する方法は、今の所一つしかない。
そのことが分かった私は、再び右手に魔法陣を展開させる。
そして――、
『響き渡――『ギャンッッッッッ!!!』――ッッッ!?』
――“消音波”を発現しようとしたその瞬間、私の身体全体に強い衝撃を受けて、宙に浮き上がっていた。
「風紀委員ちゃん!?」「白鏡さん!?」
ガオンくんとハノンちゃんが、悲鳴を上げながらも私の身体を受け止めようとする。
が、結局それは間に合わず、私の身体は思い切り武器庫の壁にぶつかっていた。
「――っぁ!?」
全身に走る衝撃と激痛のせいで、肺から空気が絞り出される。
どうやら私は、あの合成獣の翼撃をまともに喰らってしまったようだ。
幸い骨は折れていないようだが、痛みと啼き声のせいで身体を動かすことも出来なければ、集中力が下がったために魔法を使うことも出来ない。
これは……危ない!
「ガ、オンくん……。ハノン、ちゃん……」
「どうした、風紀委員ちゃん!?」
「逃げ、て……」
「「なっ!?」」
私の言葉を聞いたガオンくんとハノンちゃんが、揃って驚愕の声を上げる。
「な、何馬鹿な事言ってんだよ、風紀委員ちゃん!? 仲間を見捨てれるワケねぇだろ!?」
「そ、そうだよ、白鏡さん! 逃げるなら皆で一緒に」
「ダメ、だよ……」
二人が揃って私の言葉に反論をしようとするが、私はそれさえも遮って二人を逃がそうとする。
自らの身体で翼撃を喰らって分かったことだが、あの合成獣はとても学生三人で倒せるような敵じゃないのだ。
だから、全滅なんていう最悪な状況だけでも回避するために、二人には逃げて欲しい。
私は、そう伝えようと口を開こうとして、とある物を目にしてしまう。
それは、私達に向かって再び翼撃を放とうとしている合成獣の姿。
私は咄嗟に、思っていた言葉とは別の言葉を口にする。
「二人とも、後ろっ!!」
「え?」
「……んなっ!?」
私の言葉を聞いた二人が同時に目を見開いた。
自分達が、どれだけ危険な状況にいるのか理解したのだろう。
しかし――、
「……し、白鏡さんを守らなきゃ!」
「――え?」
「そうだぜ。良い事言ったなぁ、ハノン!」
「――ちょ、ちょっと!」
二人は揃って、私の前に並び立った。
――まるで、私を翼撃から庇うかのように。
それを見た私は、思わず二人に叫ぶ。
「だっ、ダメだよ、二人とも! あの翼撃はさっきと違って溜めがあるから、明らかに二人じゃ止めれないレベルになってるよ! それ以前に、学生が三人いるだけじゃ、とても合成獣には敵わないよ!! だから、私を見捨てて……」
――と、そこまで言った時、二人は私以上の大声で同時に叫んだ。
「「馬鹿な事言うな(言わないで)ッッッ!!!」」
「――っ!?」
その声を聞いた私は、思わず息を呑んで、口を噤んでしまう。
それを見た二人は、私に畳み掛けるように言葉を続けた。
「いいか、風紀委員ちゃん? 俺にとっても、ハノンにとっても、お前は大事な友達なんだ!」
「そして、私達は絶対に友達を見捨てないよ! だって――」
ハノンちゃんはそう言うと、私の瞳を真正面から覗き込みながら、ガオンくんと揃って言った。
「「クロー(くん)なら、絶対にそうしたから!!」」
「――――――」
それを聞いた私は、今度こそ本当に絶句する。
私……本当に、せっかちすぎるよ。
俯いた私を見た二人は、私の心情を理解したからか、小さく笑みを浮かべる。
そして、合成獣の方を振り向きながら、同時に魔法陣を展開した。
『燃やし尽くせ! “火炎波”!』
『守って! “水壁”』
そして、二人が魔法を発現するのと同時に、合成獣が翼撃を放ってきた。
「くぅっ……!」「耐えて……」
二人して発現した魔法に魔力を送り続けて、少しでも魔法の強度を上げようとする。
しかし、どうしても力が拮抗せず、合成獣の翼撃の方が二人の発現した壁を打ち破ろうとする。
「くそっ! 俺達の力じゃ、勝てないのか……っ!?」
ガオンくんが、苦痛で顔を歪めながらそう呻く。
ハノンちゃんの顔にも疲労が色濃く浮かんで来ており、正直、もう二人じゃ持ちこたえるのが無理なのは明白だった。
だった、けど……。
『……響き渡れ! “陽光防幕”!』
気付いたら、私は二人を守る為に、得意の光属性魔法を発現していた。
「風紀委員ちゃん!」「白鏡さん!」
ガオンくんとハノンちゃんが、嬉しそうに私の方を見て来る。
それに気付いた私は、少し照れながらも、二人に微笑み返して言った。
「ゴメン……二人とも。私が間違ってたよ」
「分かるのが遅いんだよ、風紀委員ちゃんは」
「そうだよ、白鏡さん。白鏡さんがいなくなったら、クローくんが哀しむんだから」
「反省してます……。けど、今は……」
「あぁ! 合成獣が先だ!」
ガオンくんのその言葉と共に、私達三人は自分達の発現した魔法を見遣る。
三人同時に防御魔法を発現しているため、合成獣の翼撃と拮抗した状態にある。
それを見た私は、集中力が落ちないように注意しながら、二人に声を掛ける。
「いい、二人とも? あの合成獣は、私達三人じゃあ、どうやっても倒せないの。それは分かるよね? だから、この翼撃が途切れた瞬間に逃げ出そう!」
「敵前逃亡って……少々癪だが、しょうがねぇ!」
「分かったよ、白鏡さん!」
「……行くよ!」
二人の返事を聞いた私は、“陽光防幕”により強い魔力を込める。
……後は、この翼撃を耐えるだけ。
心の中でそう呟いた直後、徐々にだが翼撃の威力が弱まってきた。
私達の瞳に、強い歓喜の色が宿る。
……これなら、いける!
その後も、ゆっくりとだが、どんどん翼撃の威力が低下していくのを感じた私達は、作戦の成功を確信していた。
……しかし、次の瞬間。
弱りきっていた筈の合成獣が、再び私達を絶望させることになる。
なぜなら……、
『──蠢け、“錆朽騒音”』
……言葉を有しない筈の合成獣が、詠唱を開始したから。
キャラクター設定を“黒龍皇の日常”に移行しようと思います。
皆さん、そちらもよろしくお願いします。
次回、“蝙蝠襲来(3)”をお楽しみに。
以上、現野 イビツでした。




