第十二話 長かった一日(後編)
先日、僕の学校の後輩である“時の旅人”くんが当サイトで“エンドランス戦記”という小説の掲載を始めました。
時間がある方は、是非とも読んであげて下さい。
以上、少々過保護な先輩でした。
「今回の用件は、ガオンくんの処罰の件についてです」
僕――神刃 クローがそう言った時、その場にいる皆が息を呑んだ――なんてことは起きなかった。
まあ、当事者の二人を連れて来ているのだから、事前に内容は分かっていたんだろう。
けど、その話になった場合、僕を含む五人の中に異端が存在する。
案の定、そのことに気付いた綺天塚先輩が口を開いた。
「待て、神刃。それなら、何故お前がここにいる!」
そう。
僕は、被害者でもなければ、加害者でもない。
風紀委員なんて以っての外だ。
つまりは、僕自身が異端な存在なのである。
綺天塚先輩が、なおも言葉を続ける。
「いいか、神刃。この事件は、風紀委員の担当だ。事件に無関係なら、とっとと帰るんだな」
綺天塚先輩が、口元を愉悦に歪ませながら僕にそう言う。
……この人、何処まで僕のことが嫌い何だろう。
しかし、まぁ、綺天塚先輩がそのことを指摘することは予想出来ていたので、用意していた言葉を口にする。
「確かに、僕は事件の当事者ではありませんが、無関係、ってワケでもないですよ?」
「……屁理屈だ」
「いえいえ、真っ当な主張ですよ?」
僕は、苦々しい表情の綺天塚先輩に、わざと恭しい口調でそう言う。
確かに、僕は当事者や処罰を決める風紀委員ではないが、事件の真相に最も近い第三者である。
綺天塚先輩も、ここまで言うと、流石に口を噤んでしまう。
もしここで、綺天塚先輩が僕のことを無関係だと言い切った場合、この後に控える事情聴取で、僕を拘束することが出来なくなるからだ。
もし、ここで僕を追い返したら、風紀委員の仕事に支障が出る。
そのことに気付いた綺天塚先輩は、苦虫を千匹は噛み潰したような表情をした後、諦めて口を開いた。
「……取り敢えず、ソファに座れ、神刃。ガオン・鋼鱗・リザードマンへの、処罰を言い渡す」
その言葉を聞き、その場の雰囲気に呑まれていた三人が、一斉に安堵の溜め息を吐く。
と、同時に、今度は別の理由で、その場を緊張が支配する。
――次の綺天塚先輩の一言で、ガオンくん(俺)への処置が決まる。
彩那、ガオン、ハノンが心の内でそう呟いたその時、皆の顔を見渡していた綺天塚先輩が、ゆっくりと口を開いた。
「当校の高等部、第一学年Aクラスの生徒、ガオン・鋼鱗・リザードマン。そなたに聞くが、本日――幻世暦4999年4月5日の午前10時07分に、高等部Aクラス内で、同クラスの生徒――ハノン・レイトレードの胸倉を掴む等の暴力行為を行ったことを認めるか?」
「……はい」
綺天塚先輩のその長ったらしい質問に、ガオンは素直に頷く。
それを確認した綺天塚先輩は、手元にある書類を覗きながら、判決を下した。
「そなたの行為は、当校の校則の、第三章の十六条の違反と見做す。よってそなたをに、一週間の謹慎と厳重注意を言い渡す。いいな?」
綺天塚先輩のその言葉を聞いたガオンが、自分の罪を認め、その処罰を受け入れようとしたその時。
「――異議あり!」
僕が、そう声を上げた。
「なっ!?」「は?」「え?」
綺天塚先輩とガオン、それにハノンが驚きの声を上げる中、僕は笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「今下された判決の、変更を要求したいと思います」
「「「………………」」」
その場を一瞬沈黙が支配した後に、綺天塚先輩が口を開いた。
「――はぁぁぁああっ!? 馬鹿なのか、神刃? そんなこと、出来るワケないだろっ!?」
「そ、そうだよ、神刃くん!それは、 流石に無茶だと思うよ!」
ハノンも、綺天塚先輩に追従するように、そう口にする。
しかし、僕は笑みを崩さずに、再び言葉を紡ぐ。
「いや、別に僕は、ガオンくんを無罪放免にしろって言ってるワケじゃないよ? 僕が要求しているのは、判決の取り消しじゃなくて、変更何だから」
「「「……?」」」
僕の言葉を聞いたガオンにハノン、綺天塚先輩が首を傾げるのを見て、今まで黙っていた彩那が口を開いた。
「……綺天塚風紀委員長。私が事前にクローから聞いていたことを話しますと、クローが要求しているのは謹慎処分ではなく観察処分です」
「つまり……?」
「三週間の補講などが、代替案としては妥当ではないしょうか?」
「む……」
彩那の話を聞いた綺天塚先輩が、低く唸りながら僕を睨み付けてきた。
「……しかし、謹慎処分と観察処分と、どう違うって言うんだ?」
「全然違いますよ、綺天塚先輩」
しかし、僕は一歩も引くことなくその視線を受け止め、平然と言い返す。
「謹慎処分と観察処分では、学校にいるのといないのとでは、大きな違いがありますよ」
「それが、どうだと……」
「大事なことです」
まだ何かを言おうとする綺天塚先輩の言葉を遮り、僕は言った。
「ガオンくんに言った通り、知るべきことを無視し続けることは罪なことです。ならば――」
――教えるべきことを教えないのも、罪であるのが当然でしょう?
「……っぐ!?」
僕の言葉を聞いた綺天塚先輩が、息を呑んだのがよく分かる。
彩那が、僕の言葉を継いで、話を続ける。
「私も、クローの意見には賛成です」
「……え?」
その言葉を聞いた綺天塚先輩が、勢いよく彩那の方に顔を向ける。
彩那は、綺天塚先輩の目を見ながら、しっかりと言った。
「ガオンくんは今日、自分が間違っていたことに気付きました。だから今度は、正しいことをちゃんと教えるべきだと、私は思うんです」
「………………」
綺天塚先輩は、黙ったままだ。
それを見た僕は、彩那と視線を交わす。
そして――、
「「お願いします、綺天塚先輩!」」
――二人揃って、綺天塚先輩に頭を下げた。
「「なっ!?」」
この行為を見たガオンと綺天塚先輩が、驚愕の声を上げる。
ハノンに至っては、驚きのあまり、声すら出せないようだ。
ガオンが、震える声で僕達に言う。
「別に……二人がそこまでしなくても……」
どうやら、罪悪感を感じているようだ。
そのことに気付いた僕は、綺天塚先輩に頭を下げたまま、ガオンに言った。
「別に、これはガオンくんのためにやってるワケじゃないよ。強いて言うなら、これは僕の我が儘だからね」
その言葉を聞いたガオンが口を噤み、代わりに綺天塚先輩が口を開いた。
「……何故だ?」
「何がですか?」
「何故、お前はそこまで出来るんだ、神刃?」
「………………」
僕は、少しの間だけ逡巡する振りをした後、綺天塚先輩に言った。
「……平和って言うのは、ただ争いがないだけじゃ成り立たないんですよ、綺天塚先輩」
「………………」
「僕は……、争いがないだけじゃなく、“ファンタジア”中の人々が幸せに暮らせるのが、本当の平和だと思っています。だから――」
「………………だから?」
綺天塚先輩の試すような視線を真っ向から受け止めた僕は、ゆっくりと自らの思いを告げる。
「――だから、そのためなら、僕は自分の命を捧げることも厭わない」
「「「………………っ!」」」
僕の言葉を聞いた三人が、一斉に息を呑む気配。
無限にも似た、数秒の沈黙。
……そこから一番最初に抜け出したのは、意外にもハノンだった。
ハノンは、僕の隣まで来ると、綺天塚先輩の目をしっかりと見て、勢い良く頭を下げた。
「れ、レイトレードっ!?」
その行動に驚いたガオンが、悲鳴じみた声を出す。
しかしハノンは、ガオンの方に目を向けずに、絶句する綺天塚先輩を見たまま、口を開いた。
「……綺天塚先輩。私からも、お願いします!」
「「………………ッッ!!」」
ハノンの言葉を聞いた二人が、再び息を呑む。
まさか、被害者であるハノンが、加害者であるガオンのために頭を下げるとは思わなかったんだろう。
現に、僕と彩那も驚いて、ハノンの顔をまじまじと見ているくらいだ。
「ぅ、ぁ………………」
ガオンは、そんなハノンの様子を見て、呻き声を上げていた。
が、しばらくすると、何かを悟ったかのような表情で、顔を上げる。
そして――、
「――綺天塚先輩、お願いします! 俺に……俺に、勉強をさせて下さいっ!!!」
「………………ッッッ!!!」
ガオンは綺天塚先輩に向き直ると、地を割るような勢いで、床に頭を擦りつけた。
見ていて清々しい程の、立派な土下座である。
ガオンは、その体勢のまま、さらに言葉を続ける。
「俺は……本当に何も知らなくて……それでレイトレードにも迷惑を掛けて……。でも、クローがちゃんと、俺が間違っていたことを教えてくれたんです。だから……もう一度、俺にチャンスを下さい! お願いします!!」
「「「――お願いします!!!」」」
ガオンの言葉に追従し、僕達三人も、より深く頭を下げる。
「「「「「………………」」」」」
その場に再び、緊張の糸が張り詰める。
そして――、
「………………仕方ない」
――綺天塚先輩が、口を開いた。
「ガオン・鋼鱗・リザードマン。そなたに、三週間の補講と、厳重注意を命じる。これでいいな?」
「「「「………………」」」」
一瞬の、沈黙。
その直後、僕達四人は、しっかりと抱き合っていた。
「「「「やったぁぁあああっっっ!!!」」」
互いにハイタッチをしあう、僕とガオン。
二人の間に流れる空気は、今朝とは百八十度違うものだ。
その様子を見ていた綺天塚先輩が、僕を睨み付けながら言った。
「俺は、貴様のそう言う所が嫌いなんだ、神刃」
その言葉を聞いた僕は、にっこりと微笑みながら言い返す。
「褒め言葉として、受け取っておきます」
僕がそう口にした瞬間、彩那、ガオン、ハノンの三人がクスクスと笑い出した……。
すでに日が傾き、空が赤から黒に染まる時間帯。
学生街エリアの教会で騒ぐ五人の姿を、彼は森の中から静かに見ていた。
彼は、蒼い花の髪留めを付けた少女──彩那・アリア・白鏡の姿を見ながら、小声で呟く。
「呑気なものだな、虹色の巫女……」
彼はそう言うと、引き続き教会の窓から彩那の観察をしようとする。
しかしその瞬間、彼はメガネを掛けた黒髪の少年が、彼が今いる樹の方を見ていることに気付いた。
「っ!?」
まさか気付かれたかっ!?
彼は心の中でそう叫ぶが、幸いその少年はすぐに話しかけてきた銀髪の少女の方に目を向けていた。
何だ、偶然か……と、彼は心の中で呟く。
……そのメガネの少年──神刃 クローが樹の方を見ていた時に、その瞳を黄金色にしていたことに気付かずに。
先日、この小説の番外編、“黒龍皇の日常”の掲載を始めました。
基本はイベントごとにSSを書いていく予定ですが、こんな話が読みたいというリクエストがある方は、感想やメッセージなどでお知らせ下さい。
心からお待ちしています!
それでは、次回“4月19日(仮題)”をお楽しみに。
以上、現野 イビツでした。




