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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
8章 県大会準決勝

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58話 まずは1機!

ボイスチャット越しにダガーの迷いが分かる。たぶん1秒にも満たない僅かな時間だったけど。

それでもミツルギの機銃有効圏内まで間近に迫っている。

敵のECMがなければ今すぐミサイルを撃つのに。レーダーは真っ白に塗りつぶされたまま。


ダメだ、先に撃たれる。こちらも機銃のボタンに指を添える。

もう待てない。機銃で牽制して左に振ればいい。ロールさせようとスティックに置いた指に力を籠めようとしたとき。


「し、下です!」


待ちに待った、ダガーの叫び。

機体をロールさせ上下反転。背面状態にしてから一気に機首を引き上げる。降下しながら進路反転を狙う。

俗に言うスプリットSという動き。


振り返り、プロペラ機の動きを目で追う。

ミツルギは……ついてこられない?


機体を動かそうとしたとき、明らかに相手にも反応はあった。

ついてこようとはしていた。


「なるほど、考えたな」

と、メイスが言う。


「ミツルギは軽量機。左右に振るのも、上昇も軽やかだ。簡単に追いつかれる。

 だが、奴には速度の制約がある。速度の乗る下降じゃあ絶対に追いつけねえってわけだ」

「え……そんなこと考えもしませんでした……すごい」

メイスの解説に、ダガーは自分で感心している。

何はともあれ、引きはがした。

初めてミツルギを騙すことができた。


海面間近まで下げた高度を徐々に上げて、みんなと合流。

また振り返るが、追撃はない。あくまでも待ちのスタイルか。


上昇、ループを描いて反転。セイバー機の右後方に機体を置く。

「加速!第2波いっくよ~!」

フィンガーフォー隊列のまま加速。


「今度はどう出る?」

「ヒューンって行ってバーンって」

「わかったから何を狙うかだけ教えてくれ」


状況を整理する。

一番厄介なのはローレライの強力なECM。あれのせいで攻撃機会が大幅に削られる。

僅かな機会にミサイルを撃ちこもうとすれば、フォート・タートルのレーザー防空システムに迎撃され、通らない。

そのフォート・タートルもミツルギがしっかり守り、近づく機体をハチの巣にしてくる。

ミツルギを狙おうとすればメタル・ゴーストが牙を剝く。


やはり攻撃は通らないように思える。


「もうすぐ向こうのECMが切れる。チャンスは今だよ~!」

「なるほど。ローレライを叩くのか?」

「ううん。アルゴスの範囲内にいるから。1機落としたいけど、まずアルゴスの弾切れを狙おうよ。

 だから、何でもいいから、撃ちまくって!」

セイバーの言いたいことは分かる。

でも向こうは緻密に連携しているのに、そんな大雑把でめちゃくちゃな作戦で本当にいいのだろうか。

「ジャベリン、不安?」


見透かされたのか、セイバーが声をかけてきた。


「通じるでしょうか」

素直に、声に出す。

「分からないよ~」

セイバーはあっさりと答えた。


「でもさっき削られちゃったから。もうレーザーで削る作戦じゃ足らないよ」

確かにさっきの交戦で、ミツルギの機銃がセイバーの機体を掠めている。

その削りの端数分だけ、スコアは相手が僅かにリードしている。

「削ろう、なんて考えが最初から間違ってたんだよ」


いつもと同じようなセイバーのふわふわした緩やかな口調。

それでも、少しだけ雰囲気が違うように思えた。

うまく言えないけど、熱がこもっているような。


「だから、みんなで仕留めるよ!まずは1機!」


まだ状況は何も好転していない。

攻撃機会が少ないことも、めちゃくちゃに思える指示も。何も変わってない。それでも。

彼女が自信満々にそう言うならば、きっと実現できるような気がする。

相手の多重の連携を突破できる気がする。


「はい!ダガー、行こう!」

「うん!また、任せて!」

だから、応じる。まだまだ足掻く時間はあるから。


「いいぜ、それでこそ撃墜女王だ」

「だからその呼び方やめてよ~」


残り時間は6分。取り返す時間は充分だ。

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