58話 まずは1機!
ボイスチャット越しにダガーの迷いが分かる。たぶん1秒にも満たない僅かな時間だったけど。
それでもミツルギの機銃有効圏内まで間近に迫っている。
敵のECMがなければ今すぐミサイルを撃つのに。レーダーは真っ白に塗りつぶされたまま。
ダメだ、先に撃たれる。こちらも機銃のボタンに指を添える。
もう待てない。機銃で牽制して左に振ればいい。ロールさせようとスティックに置いた指に力を籠めようとしたとき。
「し、下です!」
待ちに待った、ダガーの叫び。
機体をロールさせ上下反転。背面状態にしてから一気に機首を引き上げる。降下しながら進路反転を狙う。
俗に言うスプリットSという動き。
振り返り、プロペラ機の動きを目で追う。
ミツルギは……ついてこられない?
機体を動かそうとしたとき、明らかに相手にも反応はあった。
ついてこようとはしていた。
「なるほど、考えたな」
と、メイスが言う。
「ミツルギは軽量機。左右に振るのも、上昇も軽やかだ。簡単に追いつかれる。
だが、奴には速度の制約がある。速度の乗る下降じゃあ絶対に追いつけねえってわけだ」
「え……そんなこと考えもしませんでした……すごい」
メイスの解説に、ダガーは自分で感心している。
何はともあれ、引きはがした。
初めてミツルギを騙すことができた。
海面間近まで下げた高度を徐々に上げて、みんなと合流。
また振り返るが、追撃はない。あくまでも待ちのスタイルか。
上昇、ループを描いて反転。セイバー機の右後方に機体を置く。
「加速!第2波いっくよ~!」
フィンガーフォー隊列のまま加速。
「今度はどう出る?」
「ヒューンって行ってバーンって」
「わかったから何を狙うかだけ教えてくれ」
状況を整理する。
一番厄介なのはローレライの強力なECM。あれのせいで攻撃機会が大幅に削られる。
僅かな機会にミサイルを撃ちこもうとすれば、フォート・タートルのレーザー防空システムに迎撃され、通らない。
そのフォート・タートルもミツルギがしっかり守り、近づく機体をハチの巣にしてくる。
ミツルギを狙おうとすればメタル・ゴーストが牙を剝く。
やはり攻撃は通らないように思える。
「もうすぐ向こうのECMが切れる。チャンスは今だよ~!」
「なるほど。ローレライを叩くのか?」
「ううん。アルゴスの範囲内にいるから。1機落としたいけど、まずアルゴスの弾切れを狙おうよ。
だから、何でもいいから、撃ちまくって!」
セイバーの言いたいことは分かる。
でも向こうは緻密に連携しているのに、そんな大雑把でめちゃくちゃな作戦で本当にいいのだろうか。
「ジャベリン、不安?」
見透かされたのか、セイバーが声をかけてきた。
「通じるでしょうか」
素直に、声に出す。
「分からないよ~」
セイバーはあっさりと答えた。
「でもさっき削られちゃったから。もうレーザーで削る作戦じゃ足らないよ」
確かにさっきの交戦で、ミツルギの機銃がセイバーの機体を掠めている。
その削りの端数分だけ、スコアは相手が僅かにリードしている。
「削ろう、なんて考えが最初から間違ってたんだよ」
いつもと同じようなセイバーのふわふわした緩やかな口調。
それでも、少しだけ雰囲気が違うように思えた。
うまく言えないけど、熱がこもっているような。
「だから、みんなで仕留めるよ!まずは1機!」
まだ状況は何も好転していない。
攻撃機会が少ないことも、めちゃくちゃに思える指示も。何も変わってない。それでも。
彼女が自信満々にそう言うならば、きっと実現できるような気がする。
相手の多重の連携を突破できる気がする。
「はい!ダガー、行こう!」
「うん!また、任せて!」
だから、応じる。まだまだ足掻く時間はあるから。
「いいぜ、それでこそ撃墜女王だ」
「だからその呼び方やめてよ~」
残り時間は6分。取り返す時間は充分だ。




