57話 教えてあげて!
「やあ、今回もピンチだね。でもナイスチャレンジだったよ」
「ありがとうございます!」
「ここからだ、ここから」
相変わらず先生はにこやかで、スコア0だったにも関わらず、先輩たち2人にも重苦しい空気はない。
ひばりも緊張の面持ちながら、次のラウンドに向けての意欲は衰えていない。
一方の私は、どうしても落ち着かない。
最初の交戦で動きを封じられ、追い詰められた。
提案した作戦は完膚なきまでに叩き潰された。
先週の『前哨戦』においても。
全部読まれていた。
頭の中身を直接ぶん殴られた感じ。心も思考も揺さぶられている。
次に向けての施策が浮かばない。
浮かんだところで、それを容易く潰される未来が見える。
どうしても項垂れてしまう。
「大丈夫?呼吸整えてね」
背中が温かい。ひばりの手が触れた。
「糖分を取れ。今日は長くなるぞ」
「そうそう。落ち着いて。しっかり休んでね~」
蘭花も月子も、心配してくれている。
言葉に従って、スポーツドリンクを口に含む。長く息を吐き、深く吸う。嫌な気分を吐き出して、身体の隅々に酸素を行き渡らせるように。
「webニュースに、花見川総合のインタビューが載っていてね。
異色の編成で強敵をなぎ倒すダークホース。
『何の才能のない自分たちでも、寄り添えば戦える』。
あえて強い機体を選ばないのも、そんな彼女たちの哲学の現れだ」
「それは分かった。どうやって勝つかを考えてんだよ」
「行動が読まれてます」
先生と蘭花のいつものやりとりに、思わず口を挟んだ。
何も思いつかないけど、何か手をひねり出さなきゃ。関係のない話をしている場合じゃない。
「どうすれば……」
「おいおい。1ラウンド取られたくらいで何を凹んでんだよ」
「そうそう。私たちも寄り添えばいいんだよ~」
「くっつくな、暑い」
蘭花の肩に腕を回した月子を、蘭花が押しのけようとしている。
なんだか、あまり深刻さを感じていないよう。
私はこんなに頭の中をぐるぐるさせてるのに。
次のラウンドで負けたら全部終わっちゃうのに。
那由多にも会えないし、みんなを全国に連れていくって約束も守れない。
「人間の読みなんて万能じゃあない。君たちを徹底して研究したとしても、どんなに想定して対策しても、100%思い通りにいくことなんてあり得ないよ」
先生はそう言うけど。
「とにかく、たくさん手を出してごらん」
「でも!」
「うんうん。分かるよ。不安だよね。お姉さんにはよく分かるよ~」
いつの間にか月子が傍らに立ち、私の肩に手を置いていた。
私を気遣ってくれてるのは理解できるし、有難い。でも。
「あの……何か企んでます?」
月子は県内どころか全国有数の実力者だから。
押し負けて不安になる人の気持ちが分かるとも思えなかった。
どこか胡散臭いというか……どちらかというと、何かいたずらを思いついた子供と言うべきか。
そんな印象を受けた。
「不安だったらさ」
私の言葉を聞いた月子はにやにやとした表情を浮かべた。
「僚機に助けてもらおうよ!」
ひばりの肩がビクッと震えたのが見えた。
* * *
「ターゲットはフォート・タートル。パルスレーザーを撃ち込むよ!」
「それならECMもアルゴスも関係ねえ。各機セイバーを守れ。だがスピードは落とすなよ」
2ラウンド目が始まった。
インターバル中に作戦の話し合いができなかったので、次なる打ち手は兵装選択とラウンド開始冒頭で簡単に話し合う。
結局モヤモヤは晴れないままだけど、時間は待ってくれない。
「とにかく、まずは1発!削るよ!」
早速、相手の機影を遠くの方に確認した。
遠距離で戦える兵装をこのラウンドでは装備していないので接近するしか手はない。
「12時方向3機。多分、メタル・ゴーストが上にいます」
「上方も注意だな。このまま突っ込むぞ」
相手の強力なECM影響化では必然的に攻撃チャンスが少なくなる。
それに、相手の機体は足が遅いことには違いない。
だから基本は一撃離脱。ダガー機が積んだECMポッドが相手の電子妨害を打ち消す数十秒だけ、近距離で殴り合う。
「ECM来たよ~!みんな周りをよく見てね!」
早速、妨害が始まった。レーダーが真っ白に塗りつぶされる。
「起動しますか!?」
「ギリギリまで待て!」
正面に居並ぶ3機。
向かって左には斜めに張り出した1対の垂直尾翼のシルエット、ローレライ。
向かって右には2つのエンジンを背負った直線的な翼のシルエット、フォート・タートル。
その上にプロペラを回しながらミツルギが待機。
寄り添うように飛んでいる。
「ヴァイパーの射程!撃ってきました!」
「フレア使うよ!みんな散開!」
ローレライが放ったミサイルはイバー機のフレアに吸い寄せられ、交戦開始。
セイバーはフォート・タートルの右側に回り込むように、旋回。そのあとをメイスが続く。
相手もそれに合わせて旋回。
「ダガーは離れすぎないでね~。離れたら上から怖い人が降ってくるよ~」
「だ、大丈夫です!ジャベリンがいますから!」
「じゃあ、私たちも行くよ!」
狙いはローレライ。フォート・タートルから離れすぎないようカーブを描き飛行している。その後ろを狙う。
「ダガー、今!」
「はい!ECM起動!」
「早速行くぜ!喰らいやがれ!」
ダガー機から発せられた電波が相手の妨害を防ぐ。その途端、メイスの機体からミサイルの曳光が4つ放たれた。
それぞれからカーブを描きながら白煙が伸びる。
でもそれらがターゲットに接近しようとしたとき、光の筋が走った。爆散。敵の機体には届かない位置で。
防空システム『アルゴス』にミサイルが撃ち抜かれた。やはり固い。
「構わねえ!チャンスは僅かだ、ガンガン行くぜ!」
「ミツルギに邪魔されてるよ~」
「助けます!」
セイバーの機体の周囲にプロペラ機がまとわりついているのが見える。
ローレライからミツルギへ狙いを変える。機体を傾け、機首を引き上げ、進路変更。ダガーも続く。
でも上からの1機の急降下を察知。
「ダガー!ブレイク!」
ミサイルアラートが鳴った。迫る光点は2つ。ダガーに回避を指示。自分もフレアを撒きつつ、急旋回。
目線を上空に。メタル・ゴーストが勢いのまま上空へ去っていくのが見えた。
あちらも一撃離脱のスタイル。反撃ならず。
とはいえ今のアタックは回避成功。私たち2人ともダメージはない。
「なんとか削るから、もうちょっと待って~!」
「急げよ!そろそろECMが切れる!」
セイバーのレーザーは敵の攻撃に阻まれ、まだヒットしていない。
再び助けに向かう。手近にいたローレライに狙いを定める。4時方向に距離を詰める。
上空の1機はまだ降りてこないが、警戒。
今がチャンス。ロックオン……と、ここで時間切れだ。ダガーのECMが効果切れ。レーダーが白く塗り潰されていく。
「失敗!仕切りなおすよ~!」
「仕方ねえ、次だ次!」
「ダガー、逃げるよ!ついてきて!とにかく加速だよ!」
「うん!」
敵は固まっているので、どの方角に逃げても問題ないはずだ。
反転し、加速を開始。
でも嫌な予感がしたので上に目線を送る。
ミサイルスモーク。白煙を噴き上げながら、迫っている。
「また来た!」
咄嗟にフレアを撒き、急旋回。
こちらはロックオンできない。逃げの一手に限る。
でも今度は一撃離脱じゃない。後ろを取りに来た。
悪いことに向こうの方がスピードに乗っている。位置取りは不利。
しばらくもみ合う。相手の速度も落ち着いてきた。でもミサイル射出を確認した。
角度差はある。大丈夫、避けられる。
旋回。ミサイルは回避したが、速度を削られる。
さらに悪いことに。
「正面、ミツルギが!」
進路の先に、プロペラの機体が見える。こちらを向いている。
でもまだ距離はある。機銃の射程まで数秒の猶予はある。左右どちらかに旋回し、そのまま加速して逃げればいい。
「振り切ります!」
でも、前々から付きまとう悪いイメージが。前哨戦で止められた映像が脳裏に浮かぶ。
右か左か。後ろからはメタル・ゴーストが来ている。時間はかけられない。
「出番だよダガー!」
「は、はい!」
セイバーが楽しそうに呼びかけた。
みんなはの機影は見えているが、機銃で妨害をしてもらうには遠い。直接的な支援は期待できない。
ここは賭けるしかない。セイバーの仕掛けるいたずらに。
「教えてあげて!避ける方向を!」




