56話 待ち伏せ
第二波の攻撃に向けて、セイバーを先頭に隊列を組んで雲の上を飛行。
提案した作戦が受諾され、あとは実行あるのみ。
概要はシンプル。
低速の機体が多い中、明らかに異質なメタル・ゴーストを狙い撃つ。
高速での制圧力が売りの機体。反面、低速帯では安定性に欠け、元気よく戦えない。
だから必然的に、他の機体と足並みが揃わない。
装備している特殊兵装は炸裂弾頭ミサイル『サラマンダ』。さっきは散々邪魔されたけど、誘導性能は低い。一撃離脱を安全に繰り返せばいい。
* * *
私の提案を聞いた後。
「なんとなくだけど」
セイバーがこぼす。
「そんな穴を対策してないわけ、ないと思う」
「それは……」
その通りかもしれないけど。
「他にプランはあるか?」
「あるよ~!みんなでバーンって行って、どーんって!」
「ジャベリンのプランで行く」
セイバーは不服の声を挙げるが、メイスが遮った。
「やってみようぜ女王様。まだ1ラウンド目だ。チャレンジするなら今だ」
「も~分かったよ~。あとその呼び方やめて」
* * *
「雲が濃いな」
「ふわふわの地面みたい、ですね」
眼下に広がる真っ白い絨毯を見て、ダガーがメルヘンなことを言っている。
高度はおよそ9000m。
この先に、1機。ターゲットがいることは分かっている。
「ターゲットロック!アーバレストの射程に捉えたよ!」
セイバーの持つ中距離ミサイルの射程圏内に入った。
「シルフィード、あと2000です!」
「ヒュドラ、あと3000です」
ダガーと私がそれぞれ呼応する。
「おっけ~、足並み揃えるよ!」
「他の3機はどこだ」
「……いないですね。雲の下かな」
レーダーでは重なっているように見えるが、周辺に他の敵影はない。
そのレーダーが不意に、真っ白に塗りつぶされた。
「ECMが来た!構わず進め!攻撃に合わせてECMを使う!」
HUDの表示が乱され、相手との距離は目算で測るしかない。
メタル・ゴーストも私たちの方へ向かってきている。ヘッドオン状態。ヒュドラの射程に入るまであっという間だろう。
「そろそろ行くぜ!」
タイミングを見計らい、メイスが叫ぶ。
レーダーがクリアになれば全員でミサイルを叩き込み、そのまま高速で離脱すればいい。
プランに支障はない。
突然、ガガガッという音が左の方から聞こえた。
並行して9時方向を飛んでいたメイスの機体が黒煙を噴き上げている。バランスを崩し、後方へ消えていった。
「くそっ、やられた!」
思わずキャノピー越しに振り返る。
見えたのはメイス機スパイラル・ファングが爆ぜる様と、雲の中から突き上げてきたプロペラ機。
ミツルギのブゥゥゥンという唸りが遠ざかる。
「雲の中で待ち伏せかよ!読んでやがった!」
「作戦失敗!各機反転!ずらかるよ~!」
ターゲットが間近に迫っていても、レーダー使用不可、ミサイルも使えない状況下では圧倒的に不利だ。
セイバー機がループを描いて反転を開始。私もダガーもそれに倣う。
「ダガー、私の後ろに!ついてきて!」
「了解だよ!」
「スピードを落とすなよ!あいつらは追い付けない!」
後方を振り返る。メタル・ゴーストからのミサイルスモークを確認した。
「撃たれた!ブレイク!」
叫ぶように、呼びかける。まだ誰が狙われてるか分からない。
同時にフレアをばら撒く。
でも運が悪いことに、迫るヴァイパーはフレアではなくダガーを追尾している。
「フレア!使って!」
敵ミサイルから出る白煙がカーブを描き、ダガーに吸い寄せられる。
ダガーの機体からオレンジの粒子がばら撒かれる。
「きゃあ!」
その光の粒子の中で、ミサイルが爆ぜた。
「みんな、無事~?」
「なんとか……ダガーもまだ飛べます」
爆風はダガー機ストームエッジの大きな三角翼を掠めたものの、ダメージは抑えられている。でも。
「どっち!どっちにいけばいいの!」
「今行くよ!」
「助けるよ~!」
混乱している。メタル・ゴーストも追撃をしかけようと迫っている。
捨て置けない。ダガーに接近する。
「ありがとう!ジャベリン、見えたよ!」
「よかった!ついてきて!」
「じゃあ、その間ちょっと遊んでくるね~!」
私の横を、セイバーの機体が駆け抜けた。狙いはメタル・ゴースト。
「おい、無理すんな!」
「大丈夫、少し時間を稼ぐだけだよ~!」
この場は任せよう。
レーダーはまだ回復しない。周辺は目視で確認する。
さっき飛び出してきたミツルギも、他の敵機も見当たらない。
今のうちに離脱を図る。
「全速力!雲の下に逃げるよ」
「うん!」
ダガーを連れて、眼下に広がる雲へ突っ込む。
アフターバーナーを焚き上げ、最大速度で。
「きゃあ!何!何!」
「どうしたの!」
視界が悪い。すぐ後ろにいるはずのダガー機すら見えない。
一瞬、ブウウウンと唸る音が響いたような気がした。
急に雲の中が明るく光り、爆発音が響いた。
「やられたよー。ジャベリン気をつけて!ミツルギがいる!」
雲を隠れ蓑に、また狙い撃ったとでもいうのか。
音速で飛び回る私たちを。音速の半分も出せない機体で。
相手はそんな速度だ。当然、追い付いたわけではない。
予め張っていた。来るのが分かって、先回りしていた。
うすら寒さを感じる。背筋が冷えるような感覚。
大丈夫だ。速度さえ落とさなければ、あいつは私に追い付けない。
やがて、雲を突き抜けた。視線の先には海面が広がる。
はずだった。
正面から光の筋が押し寄せてきた。
目の前にあったのは遠く広く広がる海ではなく、
直線的なフォルムの翼と、後方に背負う2機の大きなエンジン。
ブルルルルと音を立てながら、機首の先で高速回転するガトリング。
それがフォート・タートルの弾幕だと分かったときには、愛機アイアン・タロンの主翼がもがれ、青空に破片をばら撒いていた。
言葉にならなかった。
フォート・タートルだって音速には届かない。それなのに目の前に回り込んでいた。
解はシンプル。信じたくない。でも、そうとしか考えられない。
全部、読まれた。
1ラウンド目終了の合図が鳴り響いたとき、私たちのスコアが0だったことを確認した。
それは、機銃の1発も、ミサイルの爆風も、何一つ掠らなかったことを意味している。




