55話 プロペラ
青空の中を2機ずつ分かれて進む。視界良好。でも相手の姿はまだ見えない。
広域のレーダーで相手の位置を確認する。密集しているようだが、変わった動きはない。
進路そのまま。やがてヒュドラの射程に敵を捉える。4機ともロックオン。
「行くよ~!一斉射撃!」
セイバーの合図とともにヒュドラの射出。
同時にセイバーからは中距離ミサイルのアーバレスト、ダガーから高速飛翔ミサイルのシルフィードを射出。
計6発のミサイルは白煙を噴き上げながら空の奥へ吸い込まれていく。
レーダー上、まだ敵はほとんど重なっている。ミサイルを示す6つの光点も1点に重なり、そして消失。
「ヒットなしです」
HUDには『MISS』の文字が表示。
「カス当たりもナシか。運のいい野郎だ」
敵のECMに備えていたメイスが吐き捨てる。
「もう1回行くよ~!」
セイバーの合図でもう一度、先程と同様の一斉射撃。
敵は変わらず固まっている。レーダーはクリア。妨害電波はまだ来ない。
空の奥に飛んでいくミサイルの先、噴煙と光の粒子が撒き散らされるのを見た。
1度のフレアの射出。あれにミサイルが全部吸われた。
「また外れました!」
これじゃあリソースが釣り合わない。
「作戦変更!ヴァイパーの距離まで行くよ~!」
相手チーム『トイボックス』は鈍足の機体を抱えている。
加えて「防御は絶対ではない」「飽和攻撃には弱い」ということが予め分かっている。
だから開幕から遠距離ミサイルの一斉攻撃が私たちの作戦だった。
ミサイルが掠りでもすれば、「あとは時間いっぱい全速力で逃げ回れば私たちの勝ち」という、面白くも何ともない作戦が成立する。
機体スピードが遅いとは、そういうことだ。
「勝ちに拘るなら、その戦いもアリだ」とメイスも主張している。私もその意見は納得している。
でも実際には、「少しのダメージ」が相手に与えられない。
一斉攻撃には固まった状態で対処する。相手も対策済みのようだ。
各機加速。ヴァイパーの射程圏内まで機体を進める。
相手の機体編成も見えてきた。
攻撃機フォート・タートルと電子戦機ローレライは事前情報通り。
でも、それらよりもさらに異彩を放つ機体が1つ。
丸みを帯びた円筒ボディの下部に、やはり丸みを帯びた大きな主翼。主翼からは機関砲の銃身が突き出ている。
そして何よりも注目すべきは、機体前面。
「やっぱりプロペラがついてます!」
「ミツルギ……100年前の戦闘機がモデルだ」
「あれがリーダー機だよ。すごい思い切ったことをするね~」
JF-00『ミツルギ』。使っている人を初めて見た。
ブウウウンという回転音を雲間に響かせながら、攻撃機と電子戦機を守るように、小型のプロペラ機が飛んでいる。
「遅すぎて『戦域にたどり着く頃には戦闘が終わってる』でお馴染みの機体だよ〜」
「だが格闘戦には付き合うな。勝ち目はないと思え」
機体の特徴について端的に、セイバーとメイスから補足が入った。
「一撃離脱で行くよ~!全機フルスロットルで突っ込め~!」
「スピードでねじ伏せろ!ヤツは音速を越えられない!」
「了解です!行くよダガー!」
「うん!」
指示の通り加速し、敵機をロック。
ターゲットはミツルギとは別の、大型のジェット戦闘機。
途中で上に折れ曲がったような主翼。反して下向きに下がった尾翼。
大きく突き出た機首に、コクピットの左右には張り出したエア・インテーク。
AF-04『メタル・ゴースト』。
迎撃担当であろうこの機体はマッハを超えることができる。追い脚がある。まずはこの機体を叩く。
トリガーを引こうとした矢先、ロックオンが遮断された。
レーダーが真っ白に塗りつぶされる。
「ECM来ました!」
「やり返す!」
このタイミングで、ローレライのECMポッドが発動した。
メイスのECMの作動により、2つの電波が干渉しレーダーが回復。
この一瞬で、メタル・ゴーストは私の背後を突こうと移動している。
狙い直す。機体を倒し、機首を引き上げる。
数秒だけ互いの背後を取ろうと追いかけっこが続くが、私のアイアン・タロンの方が小回りが利く。
ロックオンの範囲に捉えた。
「FOX2!」
ミサイルは白煙を噴き上げながら、黒煙を吹き出すメタル・ゴーストのエンジンノズルめがけて走る。
でもそのミサイルは相手に突き刺さることはなく、どこからともなく飛んできた光の筋に撃ち抜かれ、中空で爆散した。
9時方向にはフォート・タートルの姿。その防空システムがヴァイパーを捉えた。
再度ターゲットを狙おうとしたとき、レーダーがまた真っ白に塗りつぶされた。
「くそ、時間だ!」
「みんな、ずらかるよ~!」
敵ECMの方が性能が良い、とメイスは言っていた。干渉した際のECCMとしての効能も普段より短い。
有効なのはおそらく20秒程度。
このわずかな攻撃タイミングで、相手に打撃を与えなければいけない。
今日も忙しくなりそうだ。
みんなの離脱する方角を確認。
方向を合わせ加速。アフターバーナーを点火。
でも目の前に突然、爆風が広がった。
咄嗟にブレイク。機体を90度近く傾けピッチアップ、激しいGをかけながらターン。
何があった?爆風の方向に視線をやる。ミサイルの航跡が見える。
メタル・ゴーストの特殊兵装。たぶん炸裂弾か何か。
咄嗟に反応できたから良かった。機体にダメージはない。
安心したのも束の間。今度は激しい機銃の音。
咄嗟に回避行動をとる。さっきと逆方向に旋回を開始。
機銃の音が鳴りやまない。キャノピー越しに状況を見る。
回転音の唸りを上げながらプロペラ機が迫っている。
両翼に取り付けられた機銃が文字通り火を噴いた。ガガガッと音が鳴り、機体が激しく震えた。
被弾した。機体損傷率50%。まだ飛べる。
「ジャベリン大丈夫!?」
「絡まれました!交戦中です!」
「助けに行くよ~」
「何とかします!」
速度さえ確保できれば振り切れる。
それなのに、機体にまとわりつくようにミツルギが飛んでいる。
何か行動を手を打とうとしても、プロペラの音と、機銃が邪魔をする。
旋回を繰り返す。速度が落ちる。回復のために高度を落とす。
エネルギーが持たない。
「この!」
たまたま、前方にミツルギを捕らえた。ヘッドオン状態。
まだレーダーは使えない。ヴァイパーは撃てない。こちらも機銃で対抗する。
ミツルギは機銃を避けつつ、そのまま横に滑るように右手側に消えていった。
ジェット機ではあり得ない動き。でも前が空いた。加速チャンス。このまま振り切る。
と思った矢先、眼前にまた爆風が広がった。
またも急旋回。でも機体が動かなくなった。アラートが鳴り響く。HUDには赤字で「STALL」と記されている。
目の前の画面が遠のくような感覚。一気に喉が渇くのを感じた。
制御を失った機体の後方から、プロペラ音が近づいてくる。
「はいは~い!お姉さんが助けに来たよ~!」
プロペラに対比するように、ジェットの轟音が響いた。その方向を見る。
上空からセイバーの機体が駆け下りてきた。
軽やかな機銃の音を伴って。ミツルギを強襲している。
ミツルギもたまらず旋回。回避行動に移る。
「今!退避!」
「は、はい!」
降下の勢いを上昇に転用し、そのままセイバー機が離脱。
途中までメタル・ゴーストが追いかけてきていたが、深追いはしないようだ。
こちらも落下によって速度が戻った。機体を水平方向に。さらにスロットル全開。アフターバーナー点火。
高度は100を切っていた。海面が近い。這い出るように離脱に成功。
「振り切ったよ~」
「仕切りなおすぞ。ジャベリン、昇れ」
撃墜は免れたけど、機銃でしっかり削られた。こちらは有効打がない。
「いや~公式戦で珍しい敵と戦えてラッキーだねえ!ジャベリン、どうだった~?」
こちらは肝を冷やしたというのに、スコアは負けてるっていうのに。
セイバーはとても楽しそうに問いかけてくる。
「絡まれると厄介です。連携が特に」
「おっけ~!じゃあ、やり返そう!」
やっぱり声のトーンが高く、テンションが上がっているのが分かる。
思わず苦笑い。でも彼女が楽しそうだと、なんだか私も楽しくなってくる。
そうすると、視界が広がって、次にやってみたいことも見えてくる。
「第二波行くぜ!気合入れろルーキーども!」
「は、はい!」
「了解です!……あ、少し時間を下さい」
1ラウンド目残り4分。
「作戦を提案します!」
例によって、上手くいくかは分からないけど。
ここからが反撃の時間だ。




