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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
8章 県大会準決勝

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55話 プロペラ

青空の中を2機ずつ分かれて進む。視界良好。でも相手の姿はまだ見えない。

広域のレーダーで相手の位置を確認する。密集しているようだが、変わった動きはない。

進路そのまま。やがてヒュドラの射程に敵を捉える。4機ともロックオン。


「行くよ~!一斉射撃!」


セイバーの合図とともにヒュドラの射出。

同時にセイバーからは中距離ミサイルのアーバレスト、ダガーから高速飛翔ミサイルのシルフィードを射出。

計6発のミサイルは白煙を噴き上げながら空の奥へ吸い込まれていく。

レーダー上、まだ敵はほとんど重なっている。ミサイルを示す6つの光点も1点に重なり、そして消失。


「ヒットなしです」

HUDには『MISS』の文字が表示。

「カス当たりもナシか。運のいい野郎だ」

敵のECMに備えていたメイスが吐き捨てる。


「もう1回行くよ~!」

セイバーの合図でもう一度、先程と同様の一斉射撃。

敵は変わらず固まっている。レーダーはクリア。妨害電波はまだ来ない。

空の奥に飛んでいくミサイルの先、噴煙と光の粒子が撒き散らされるのを見た。

1度のフレアの射出。あれにミサイルが全部吸われた。


「また外れました!」

これじゃあリソースが釣り合わない。

「作戦変更!ヴァイパーの距離まで行くよ~!」


相手チーム『トイボックス』は鈍足の機体を抱えている。

加えて「防御は絶対ではない」「飽和攻撃には弱い」ということが予め分かっている。

だから開幕から遠距離ミサイルの一斉攻撃が私たちの作戦だった。

ミサイルが掠りでもすれば、「あとは時間いっぱい全速力で逃げ回れば私たちの勝ち」という、面白くも何ともない作戦が成立する。

機体スピードが遅いとは、そういうことだ。

「勝ちに拘るなら、その戦いもアリだ」とメイスも主張している。私もその意見は納得している。

でも実際には、「少しのダメージ」が相手に与えられない。


一斉攻撃には固まった状態で対処する。相手も対策済みのようだ。


各機加速。ヴァイパーの射程圏内まで機体を進める。

相手の機体編成も見えてきた。

攻撃機フォート・タートルと電子戦機ローレライは事前情報通り。

でも、それらよりもさらに異彩を放つ機体が1つ。

丸みを帯びた円筒ボディの下部に、やはり丸みを帯びた大きな主翼。主翼からは機関砲の銃身が突き出ている。

そして何よりも注目すべきは、機体前面。


「やっぱりプロペラがついてます!」

「ミツルギ……100年前の戦闘機がモデルだ」

「あれがリーダー機だよ。すごい思い切ったことをするね~」


JF-00『ミツルギ』。使っている人を初めて見た。

ブウウウンという回転音を雲間に響かせながら、攻撃機と電子戦機を守るように、小型のプロペラ機が飛んでいる。


「遅すぎて『戦域にたどり着く頃には戦闘が終わってる』でお馴染みの機体だよ〜」

「だが格闘戦には付き合うな。勝ち目はないと思え」

機体の特徴について端的に、セイバーとメイスから補足が入った。


「一撃離脱で行くよ~!全機フルスロットルで突っ込め~!」

「スピードでねじ伏せろ!ヤツは音速を越えられない!」

「了解です!行くよダガー!」

「うん!」


指示の通り加速し、敵機をロック。

ターゲットはミツルギとは別の、大型のジェット戦闘機。

途中で上に折れ曲がったような主翼。反して下向きに下がった尾翼。

大きく突き出た機首に、コクピットの左右には張り出したエア・インテーク。

AF-04『メタル・ゴースト』。

迎撃担当であろうこの機体はマッハを超えることができる。追い脚がある。まずはこの機体を叩く。

トリガーを引こうとした矢先、ロックオンが遮断された。

レーダーが真っ白に塗りつぶされる。


「ECM来ました!」

「やり返す!」


このタイミングで、ローレライのECMポッドが発動した。

メイスのECMの作動により、2つの電波が干渉しレーダーが回復。

この一瞬で、メタル・ゴーストは私の背後を突こうと移動している。

狙い直す。機体を倒し、機首を引き上げる。

数秒だけ互いの背後を取ろうと追いかけっこが続くが、私のアイアン・タロンの方が小回りが利く。

ロックオンの範囲に捉えた。


「FOX2!」

ミサイルは白煙を噴き上げながら、黒煙を吹き出すメタル・ゴーストのエンジンノズルめがけて走る。

でもそのミサイルは相手に突き刺さることはなく、どこからともなく飛んできた光の筋に撃ち抜かれ、中空で爆散した。

9時方向にはフォート・タートルの姿。その防空システムがヴァイパーを捉えた。


再度ターゲットを狙おうとしたとき、レーダーがまた真っ白に塗りつぶされた。


「くそ、時間だ!」

「みんな、ずらかるよ~!」


敵ECMの方が性能が良い、とメイスは言っていた。干渉した際のECCMとしての効能も普段より短い。

有効なのはおそらく20秒程度。

このわずかな攻撃タイミングで、相手に打撃を与えなければいけない。

今日も忙しくなりそうだ。


みんなの離脱する方角を確認。

方向を合わせ加速。アフターバーナーを点火。

でも目の前に突然、爆風が広がった。

咄嗟にブレイク。機体を90度近く傾けピッチアップ、激しいGをかけながらターン。


何があった?爆風の方向に視線をやる。ミサイルの航跡が見える。

メタル・ゴーストの特殊兵装。たぶん炸裂弾か何か。

咄嗟に反応できたから良かった。機体にダメージはない。


安心したのも束の間。今度は激しい機銃の音。

咄嗟に回避行動をとる。さっきと逆方向に旋回を開始。

機銃の音が鳴りやまない。キャノピー越しに状況を見る。

回転音の唸りを上げながらプロペラ機が迫っている。

両翼に取り付けられた機銃が文字通り火を噴いた。ガガガッと音が鳴り、機体が激しく震えた。

被弾した。機体損傷率50%。まだ飛べる。


「ジャベリン大丈夫!?」

「絡まれました!交戦中です!」

「助けに行くよ~」

「何とかします!」


速度さえ確保できれば振り切れる。

それなのに、機体にまとわりつくようにミツルギが飛んでいる。

何か行動を手を打とうとしても、プロペラの音と、機銃が邪魔をする。

旋回を繰り返す。速度が落ちる。回復のために高度を落とす。

エネルギーが持たない。


「この!」

たまたま、前方にミツルギを捕らえた。ヘッドオン状態。

まだレーダーは使えない。ヴァイパーは撃てない。こちらも機銃で対抗する。

ミツルギは機銃を避けつつ、そのまま横に滑るように右手側に消えていった。

ジェット機ではあり得ない動き。でも前が空いた。加速チャンス。このまま振り切る。


と思った矢先、眼前にまた爆風が広がった。

またも急旋回。でも機体が動かなくなった。アラートが鳴り響く。HUDには赤字で「STALL」と記されている。

目の前の画面が遠のくような感覚。一気に喉が渇くのを感じた。

制御を失った機体の後方から、プロペラ音が近づいてくる。


「はいは~い!お姉さんが助けに来たよ~!」

プロペラに対比するように、ジェットの轟音が響いた。その方向を見る。

上空からセイバーの機体が駆け下りてきた。

軽やかな機銃の音を伴って。ミツルギを強襲している。

ミツルギもたまらず旋回。回避行動に移る。

「今!退避!」

「は、はい!」


降下の勢いを上昇に転用し、そのままセイバー機が離脱。

途中までメタル・ゴーストが追いかけてきていたが、深追いはしないようだ。

こちらも落下によって速度が戻った。機体を水平方向に。さらにスロットル全開。アフターバーナー点火。

高度は100を切っていた。海面が近い。這い出るように離脱に成功。


「振り切ったよ~」

「仕切りなおすぞ。ジャベリン、昇れ」


撃墜は免れたけど、機銃でしっかり削られた。こちらは有効打がない。

「いや~公式戦で珍しい敵と戦えてラッキーだねえ!ジャベリン、どうだった~?」

こちらは肝を冷やしたというのに、スコアは負けてるっていうのに。

セイバーはとても楽しそうに問いかけてくる。


「絡まれると厄介です。連携が特に」

「おっけ~!じゃあ、やり返そう!」

やっぱり声のトーンが高く、テンションが上がっているのが分かる。

思わず苦笑い。でも彼女が楽しそうだと、なんだか私も楽しくなってくる。

そうすると、視界が広がって、次にやってみたいことも見えてくる。


「第二波行くぜ!気合入れろルーキーども!」

「は、はい!」

「了解です!……あ、少し時間を下さい」

1ラウンド目残り4分。

「作戦を提案します!」

例によって、上手くいくかは分からないけど。

ここからが反撃の時間だ。

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