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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
8章 県大会準決勝

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54話 トイボックス

「女王は弱体化した……今年の全国行きはセレスティアルで決まりだな……アーモリーの1年生が可愛い、応援してる……ったく、好き放題書いてくれちゃって」

「かっちゃん、何見てるの?」

「月子さんのインタビュー記事に付いてたコメントよ」

「また変なの見て。エンコ終わった?」

「まだよ。あと10分」

部室の隅、PCの席から香取と野田のやり取りが聞こえる。


レッドパイソンとの戦いの翌日。

夏休みの部室は相変わらず地獄のような暑さ。時折吹き抜ける扇風機の風が汗とともに体温を奪ってくれる。それでも。

「全部脱ぎたい……」

「だ、ダメだよー!はしたないよ!先生も来るんだよ!」

うっかり出た本音を、隣の席でコントローラを持つひばりにたしなめられた。


「エアコン最高だぜー!」


ヘッドセットの向こうから、鴨川の嫌味のような声が届いた。


「動きを確認したい。月子、それと鴨川、佐倉、付き合え」

「はいは~い!2人とも、よろしくね~」

「ラジャーっす!」

「ウィルコっす!」

鴨川と佐倉の声はヘッドセットのスピーカから聞こえる。先輩たちの声は間近から、ディスプレイを挟んで向かいの席から飛んでくる。


「あの、まだセレスティアル対策してていいですか?」

「いいぜ、好きにしな」

「ありがとうございます!成田、市原、お願い!」

「了解だ。またナイト・リーパーを出す」


成田の姿もここにはない。

今日の成田たち4人は各々の家で、各々のアカウントから参加している。

こうしないと、私たちの部活の環境では4対4の対戦練習ができないから。

おかげで狭い部室内の熱気は、いつもより少しだけマシな気がする。


私とひばりは、成田・市原ペアと敵チームを想定した対戦。

画面に映る漆黒の機体『ナイト・リーパー』。高丘学院セレスティアルのリーダー、高嶺さんの機体。TACネーム『スピカ』。春大会で私たちを破った相手。苦い思い出が蘇る。


あのとき私たちを苦しめた衛星レーザー『サジタリウス』に対して、私たちは攻略法を確立できていない。

レーザーを撃たれないような対処はできる。でも撃たれたら落ちるしかない。

少しでも避けるヒントを掴みたかったけれど……進捗はないまま。


「なあ風咲。やっぱり避けるのは無理じゃないか?」

「うーん……そうかも」

「焦らないで。土曜までまだ時間あるから。他の対策もしてみる?」

何のヒントもないまま悩むよりも、ここは市原の言葉に乗ってみる。

それに、ふと思ったことがある。

「ナイト・リーパーって他にどんな武器があるの?」

この前は、サジタリウスの他にパルスレーザーを使っていた。

知っておくのも悪くない。

半ば気分転換のつもりで成田に尋ねた。


「味方の機体性能を一時的に引き上げる電子支援があるが、範囲が狭い。あいつら離れて戦うことも多いからな。他には……でもこれは……」

成田の回答は、珍しく言い淀んでいる。


「何よ。いいから使ってみてよ」

「分かった。始めるぞ」


対戦スタート。青空の中に飛び出してから程なくして、レーダー上に赤い円が表示された。私とひばりの周囲一体を取り囲むように。

「これ何?」

と疑問を口にした途端、周辺から爆音が幾重にも響き、目の前が真っ白に染まった。


「きゃあ!何!何!?」

「何これー!」


赤い円の内側にいた私とひばりはパニック状態。爆発に巻き込まれてあっという間に撃墜されてしまった。


「空中の広範囲を焼き払う多段炸裂弾頭『マレフィック』。赤い円の外側が安全だ」

「なっちゃん、私も落ちたんだけど……」

私とひばりだけでなく、成田と一緒に出撃していた市原も、同じく爆発に巻き込まれていた。

「悪い悪い。このように味方にも当たる。私も少し食らった」

「自分で撃ったのに?」

「そうだよ。だからこんなの試合じゃ使えないだろ?やっぱりサジタリウスかパルスレーザーか、そんなところだろうな」


味方も巻き込んで広範囲にダメージを与える兵装。確かにチーム戦では使えないかも。

スピカ対策のヒントが得られるかと思ったが、そう簡単ではないようだ。

ため息をつく私に、「いいから対戦の練習しようぜ」と成田が声をかけたところで。


「動画できましたー!」

野田の明るい声が響いた。ヘッドセットを外し、みんなでPCモニタ前に集まる。


「花見川総合。チーム名『トイボックス』か。どんな戦い方をする?」

「一言で言えば『鉄壁』です」

蘭花からの質問に、香取が動画を止めながら答えた。


画面には、あまり見かけない機体が2つ。

1機は、背中に背負ったような2つの大きなエンジンが目を引く。

分厚く直線的な翼。機首の先からガトリング砲が突き出ている。


もう1機は、少し斜めに張り出した垂直尾翼。主翼の先端には丸みを帯びた筒状のものが取り付けられ、機体や翼の下には小さなプロペラがついたポッドが見える。


「あえての攻撃機AG-10『フォート・タートル』、そして電子戦機AE-18G『ローレライ』。

 この2機がガッチリ防御を固めます。

 あとの2機は度々変わりますが、役割は護衛や遊撃。そして、いわゆる『強い機体』は一貫して使いません」


再び動き出した画面では、可変翼を広げたAF-14『グリフィン・クロウ』が、不用意に近づいた相手を瞬時に刈り取る様子が流れていた。

「私の愛機を弱いって言ったかー!」

佐倉の抗議の声がPCのスピーカから流れてくるが、香取はそれを無視して続けた。

「『機体特性を活かして連携する』と言っていいでしょう」


「ねえねえ……攻撃機とか電子戦機って、何?」

ひばりが小声で聞いてきた。

「攻撃機は、地上を攻撃する機体だよ。爆弾を落としたり。

 電子戦機は、電子妨害とか電子支援の専門家。強力なECMが使えるよ。

 でも機動性が低いから誰かが護衛してないとすぐ負けちゃう。その分、チームの攻撃手段が減っちゃうんだ」

「ありがとう。でも空中戦に爆弾を使うの?」

「そうじゃないけど、タートルは愛好家が多いんだってさ」

「ガトリングの圧倒的火力に魅せられた者は多い。低速での安定性から、そこそこ格闘戦ができるのも人気の理由だな」

「フォート・タートル縛りプレイ動画も人気だね〜」

蘭花と月子がそれぞれ補足してくれた。


動画は進む。

電子戦機『ローレライ』が広範囲に妨害電波を飛ばし、混乱した敵を遊撃部隊が倒しに行く。

かたやローレライに撃ち込まれたミサイルを撃機『フォート・タートル』が発した何かが破壊する様子が映し出された。


「レーザー近接防空システム『アルゴス』。距離は限られるけど、中途半端にミサイルを撃っても迎撃されちゃうみたいです」

「う~ん、堅いね~」

その様子を見て月子が呟いた。

「確かに強力ですが、防御は絶対ではありません。飽和攻撃に対して弱いのは明確です。だから他のチームも、プロでも、こんな作戦は使わない」

「それでも連中は準決勝まで勝ち進んだ、か」


動画を一通り見たところで、「トイボックス対策をするぞ」という蘭花の声に応じて、部室組も自室組も配置に付く。


次の土曜日には、準決勝と決勝戦が行われる。

思い出すのは、昨日の前哨戦。


『私の勝ち』


フェイントを防がれたこと、思い出すと心の中がざわざわする。

ただの前哨戦。試合には何の関係もない。なのに得体の知れない不気味さだけが心に残っている。

余計なことを考えずに、練習に集中しなければ。雑念を振り払うように頭を振る。


このトイボックスを倒せば決勝戦。その先は、いよいよ全国だ。那由多の待つフィールドだ。

でも決勝戦といえば、まだ相手がセレスティアルになると決まったわけではない。


「そういえば、クロウラー対策は?」

「……不要だ」

私の言葉は、蘭花に一蹴されるだけだった。


* * *


そして決戦の土曜日。


ステージ裏手には、既に相手チームが待機していた。

「やあやあ、アーモリーの皆さん!花見川総合『トイボックス』です。今日はよろしくね!」

小手橋さんが手を振りながら軽快に声をかけてきた。彼女含めて相手チームは、やはり白いシャツに縞模様のリボン、チェックのスカート。学校指定の夏服だろう。


「ジャベリンさん、今日もよろしくね!」

小手橋さんは私にも名指しで手を振ってくる。

振り返す気にはならない。会釈だけして見据える。睨むように。


あのとき果たして、私の動きは見切られたのか。それとも、ただの偶然だったのか。

すぐに分かる。

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