51話 2つに1つ
インターバルに入ると早速、山本先生がにこやかに声をかけてきた。
「朧谷くん。動きが見違えたよ」
「はい、ありがとうございます!スッキリしました!」
言葉の通り、表情が晴れやかなのが見た目にわかる。
相棒と2人で散々暴れまわり、気も晴れたのだろう。
一方で。
「さっきのアレは何だ……」
蘭花の顔は険しいまま。
敵リーダー・スカーレットの操る機体RF-37。曲線的な機種やコクピット横の小さな翼が特徴的。通称エグゼキューショナー。
その機体が、後ろを追っている蘭花を撃ち落とした。
真後ろに攻撃……ミサイルを後ろ向きにセットする戦法なら聞いたことがある。
でも、そうではない。
真後ろを向いた。進行方向と真逆の方向を向いた。
その瞬間は、私も目撃した。
あの不可解な挙動を解明し攻略しないことには勝ち目はない。
でも私や蘭花の焦りとは裏腹に、先生は穏やかに言う。
「多分、君たちは既に解を持っている」
「なに?」
「あの技をなぜ、今の今まで隠し持っていたか。いや、それも解に辿り着けば自明だ」
先生は答えを直接言わない。
「あんだよ、それ」
「君たちならすぐに分かるさ。それよりも三条くん、3ラウンド目に入るが体調は大丈夫かい」
「後半は見てるだけでしたから」
私に話が振られたので、少し不満げに答えた。
見てるだけではつまらないぞ、という少しばかりの抵抗。「ごめんね」と言わんばかりに、月子が両手を合わせている。
とはいえ、最大の懸念事項であるはずの後ろ向きの攻撃は、先生にとっては些細なことのようだ。
何かヒントでも聞こうとしたけど。
「あの!つ、次のラウンドはどうすれば!」
ひばりが割って入った。
「ECMもデコイも、効果が薄い気がして……」
確かに、局所的なあの技を破るより戦略を考える方が先だ。
ひばりの機体が装備可能な、ロックオンを防ぐ電子妨害と、ロックオンを優先的に引き受けるデコイ。
ロックオンを使わない彼女たちには、どちらも最大限の効果を発揮できない。
「大丈夫。考えがあるから」
月子は両手を胸の前に合わせ、いつものように微笑んだ。
「まさか、私たちは次も見学ですか?」
「ううん、多分対策されるから。今度はちゃんと4人で行くから安心して」
「よかったー」
さっきの先輩たちの動きを見ていて、うずうずしてたところだ。
また「敵を見ることに集中」と言われたら、命令違反も辞さない。
「おっさんはどう思う」
「月子くんの考えがあるなら、それに従えばいい」
「ありますけど、参考に聞かせて下さいよ~」
「じゃあ、少しだけ」
渋々な素振りを見せながらも、口元はにやけているように見える。
「近距離で仕掛け、レールガンで一点突破する。彼女たちの戦いは、いわゆる『弱者の戦い方』に近い。
君たちが得意とする近距離のドッグファイトは、相手の最も得意とするフィールドでもある。
強者は、兵装や練度に物を言わせて遠距離から叩くのがセオリーだ。つまり」
長話のエンジンがかかってきたところで、先生が自主的に一呼吸置いた。
「距離を置いて戦うか。近距離で勝負するか。2つに1つだ。
相手の嫌がることをする。ゲーマーの鉄則だと前にも言ったね。でも、それ以上に」
それから先生は月子に目線を向け、続ける。
「朧谷くん。どっちが楽しいと思う?」
「ありがとうございます、決めました!」
月子の自信満々の笑みを見て、先生は安心したように目を細めた。
* * *
最後に水を一口飲んでから、VRヘッドセットを装着し、コントローラを握る。
各々が特殊兵装を選択して、3ラウンド目スタートのブザーが鳴り響く。
「大丈夫かな……」
「大丈夫だよ!いっぱい練習したんだから!」
不安そうなダガーを励ましつつ、開幕からフル加速。
「突っ込むぜ!飛ばせ飛ばせー!」
「向こうも2機ずつ分かれて来るね。それぞれ交戦しちゃって~」
アフターバーナー全開で、2機ずつ分かれて敵陣へ突き進む。
向こうも同じ意図で、2機ずつに分かれて全速力で突っ込んでくる。
これならもう数秒で戦闘が始まる。
「射線注意だよ~!」
「了解です!」
「ダガー、ビビるなよ!練習の通りだ!上下左右、空間をフルに使え!」
「りょ、了解です!」
前方の2機。
RF-33『スコーピオン』と、AX-35『ライトニング・アロー』。どっちも赤い。
青いレーザーは飛んでこない。まだ相手は射程外。
こちらはヴァイパーの射程内。
先に撃つ。
「行くよ!FOX2!」
「FOX2!です!」
まずは1発ずつ、短距離ミサイルをお見舞い。
相手はオレンジ色の光でミサイルを避けながら、左右に散る。その後方へ張り付くよう、私とダガーはそれぞれ後を追う。
ダガーはまだ単機で敵を追うのには慣れていない。
少し釘付けにしてもらえればいい。その間にこちらのターゲットを仕留めたい。
だから迷うことはない。
「FOX3!ワスプ行きます!」
敵の後方、まだ角度はある。それでも高性能誘導ミサイル『ワスプ』を射出。
目の前には、双発エンジンに2つの垂直尾翼のスコーピオン。
オレンジの光の粒子が再びバラまかれるも、相手のタイミングが悪かった。
ミサイルは構わず敵機後方、2つのエンジンノズルの間へ吸い寄せられ、爆ぜた。
「1機やりました!」
「いいぞ、ナイスキルだ!」
開幕で数の有利を作った。これを活用したい。
ダガーの位置を確認しようとして、青い光が飛んできた。
ガンッと鈍い音がしてHUD画面に映る数値が揺れた。
急ぎ旋回し、状況確認。
ダガー機に追われつつ、ライトニング・アローの滑らかなボディが私に迫っていた。
回避の先に、別方向からレーザーが走る。
すぐ近くで先輩たちが戦っている機体のはずだが、数の不利を見て敵が合流を始めたか。
あちらの戦い方は変わらない。
レーザーで追い立て、必殺の『トールハンマー』でトドメを刺す。
2機のレーザーが私に向かっているということは。
「気をつけろ!狙いはお前だ!」
「妨害するよ~!」
メイスがレーザー使いの機体を追い、セイバーがリーダー機を追う。
それでもレーザーは降り注ぐ。
特にスカーレット機の機首方向に注意を払うが、幸いなことにセイバーの妨害が効いている。
このまま一緒に敵リーダーを追うか。
「セイバー!合流します!」
10時方向、やや上空を飛んでいる。機体を傾け、機首を上げる。上昇。
セイバーの後ろに付くように。2機で追い立て、仕留めればいい。
敵の位置を確認しつつ、方向を変える。
そこでスカーレット機が旋回を開始。機体を横に倒しピッチアップ。
機首がどんどん上がり横方向にカーブを描く。
それにしても、機首、上がりすぎじゃないか。
相手と目があったような錯覚。
旋回中のはずなのに、機首が私を向いた。期せずしてヘッドオン状態。
敵の機体下部、レールガンの砲塔からスパークが見える。
咄嗟の急旋回が間に合わず、真正面からレールガンの砲弾が私の機体を貫いた。
VRだとわかっているのに体がビクッと震えるような、衝撃。思わず目を閉じてしまった。
「今のは……!」
間違いない。さっきのラウンドで、真後ろのメイスを打ち抜いた芸当。
「コブラ・ターンだ!」
その不可解な機動について、解はメイスが出した。
「あいつ、失速機動で無理やり方向転換してやがる!」




