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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
7章 県大会~準々決勝

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51話 2つに1つ

インターバルに入ると早速、山本先生がにこやかに声をかけてきた。

「朧谷くん。動きが見違えたよ」

「はい、ありがとうございます!スッキリしました!」

言葉の通り、表情が晴れやかなのが見た目にわかる。

相棒と2人で散々暴れまわり、気も晴れたのだろう。


一方で。

「さっきのアレは何だ……」

蘭花の顔は険しいまま。


敵リーダー・スカーレットの操る機体RF-37。曲線的な機種やコクピット横の小さな翼が特徴的。通称エグゼキューショナー。

その機体が、後ろを追っている蘭花を撃ち落とした。

真後ろに攻撃……ミサイルを後ろ向きにセットする戦法なら聞いたことがある。

でも、そうではない。

真後ろを向いた。進行方向と真逆の方向を向いた。

その瞬間は、私も目撃した。


あの不可解な挙動を解明し攻略しないことには勝ち目はない。

でも私や蘭花の焦りとは裏腹に、先生は穏やかに言う。


「多分、君たちは既に解を持っている」

「なに?」

「あの技をなぜ、今の今まで隠し持っていたか。いや、それも解に辿り着けば自明だ」


先生は答えを直接言わない。


「あんだよ、それ」

「君たちならすぐに分かるさ。それよりも三条くん、3ラウンド目に入るが体調は大丈夫かい」

「後半は見てるだけでしたから」


私に話が振られたので、少し不満げに答えた。

見てるだけではつまらないぞ、という少しばかりの抵抗。「ごめんね」と言わんばかりに、月子が両手を合わせている。


とはいえ、最大の懸念事項であるはずの後ろ向きの攻撃は、先生にとっては些細なことのようだ。

何かヒントでも聞こうとしたけど。


「あの!つ、次のラウンドはどうすれば!」

ひばりが割って入った。

「ECMもデコイも、効果が薄い気がして……」


確かに、局所的なあの技を破るより戦略を考える方が先だ。

ひばりの機体が装備可能な、ロックオンを防ぐ電子妨害と、ロックオンを優先的に引き受けるデコイ。

ロックオンを使わない彼女たちには、どちらも最大限の効果を発揮できない。


「大丈夫。考えがあるから」

月子は両手を胸の前に合わせ、いつものように微笑んだ。


「まさか、私たちは次も見学ですか?」

「ううん、多分対策されるから。今度はちゃんと4人で行くから安心して」

「よかったー」

さっきの先輩たちの動きを見ていて、うずうずしてたところだ。

また「敵を見ることに集中」と言われたら、命令違反も辞さない。


「おっさんはどう思う」

「月子くんの考えがあるなら、それに従えばいい」

「ありますけど、参考に聞かせて下さいよ~」

「じゃあ、少しだけ」


渋々な素振りを見せながらも、口元はにやけているように見える。


「近距離で仕掛け、レールガンで一点突破する。彼女たちの戦いは、いわゆる『弱者の戦い方』に近い。

 君たちが得意とする近距離のドッグファイトは、相手の最も得意とするフィールドでもある。

 強者は、兵装や練度に物を言わせて遠距離から叩くのがセオリーだ。つまり」

長話のエンジンがかかってきたところで、先生が自主的に一呼吸置いた。


「距離を置いて戦うか。近距離で勝負するか。2つに1つだ。

 相手の嫌がることをする。ゲーマーの鉄則だと前にも言ったね。でも、それ以上に」


それから先生は月子に目線を向け、続ける。


「朧谷くん。どっちが楽しいと思う?」

「ありがとうございます、決めました!」


月子の自信満々の笑みを見て、先生は安心したように目を細めた。


* * *


最後に水を一口飲んでから、VRヘッドセットを装着し、コントローラを握る。

各々が特殊兵装を選択して、3ラウンド目スタートのブザーが鳴り響く。

「大丈夫かな……」

「大丈夫だよ!いっぱい練習したんだから!」

不安そうなダガーを励ましつつ、開幕からフル加速。


「突っ込むぜ!飛ばせ飛ばせー!」

「向こうも2機ずつ分かれて来るね。それぞれ交戦(エンゲージ)しちゃって~」


アフターバーナー全開で、2機ずつ分かれて敵陣へ突き進む。

向こうも同じ意図で、2機ずつに分かれて全速力で突っ込んでくる。

これならもう数秒で戦闘が始まる。


「射線注意だよ~!」

「了解です!」

「ダガー、ビビるなよ!練習の通りだ!上下左右、空間をフルに使え!」

「りょ、了解です!」


前方の2機。

RF-33『スコーピオン』と、AX-35『ライトニング・アロー』。どっちも赤い。

青いレーザーは飛んでこない。まだ相手は射程外。

こちらはヴァイパーの射程内。

先に撃つ。


「行くよ!FOX2!」

「FOX2!です!」


まずは1発ずつ、短距離ミサイルをお見舞い。

相手はオレンジ色の光でミサイルを避けながら、左右に散る。その後方へ張り付くよう、私とダガーはそれぞれ後を追う。


ダガーはまだ単機で敵を追うのには慣れていない。

少し釘付けにしてもらえればいい。その間にこちらのターゲットを仕留めたい。

だから迷うことはない。


「FOX3!ワスプ行きます!」


敵の後方、まだ角度はある。それでも高性能誘導ミサイル『ワスプ』を射出。

目の前には、双発エンジンに2つの垂直尾翼のスコーピオン。

オレンジの光の粒子が再びバラまかれるも、相手のタイミングが悪かった。


ミサイルは構わず敵機後方、2つのエンジンノズルの間へ吸い寄せられ、爆ぜた。


「1機やりました!」

「いいぞ、ナイスキルだ!」


開幕で数の有利を作った。これを活用したい。

ダガーの位置を確認しようとして、青い光が飛んできた。

ガンッと鈍い音がしてHUD画面に映る数値が揺れた。

急ぎ旋回し、状況確認。

ダガー機に追われつつ、ライトニング・アローの滑らかなボディが私に迫っていた。


回避の先に、別方向からレーザーが走る。

すぐ近くで先輩たちが戦っている機体のはずだが、数の不利を見て敵が合流を始めたか。


あちらの戦い方は変わらない。

レーザーで追い立て、必殺の『トールハンマー』でトドメを刺す。


2機のレーザーが私に向かっているということは。


「気をつけろ!狙いはお前だ!」

「妨害するよ~!」


メイスがレーザー使いの機体を追い、セイバーがリーダー機を追う。

それでもレーザーは降り注ぐ。

特にスカーレット機の機首方向に注意を払うが、幸いなことにセイバーの妨害が効いている。

このまま一緒に敵リーダーを追うか。

「セイバー!合流します!」

10時方向、やや上空を飛んでいる。機体を傾け、機首を上げる。上昇。

セイバーの後ろに付くように。2機で追い立て、仕留めればいい。


敵の位置を確認しつつ、方向を変える。

そこでスカーレット機が旋回を開始。機体を横に倒しピッチアップ。

機首がどんどん上がり横方向にカーブを描く。


それにしても、機首、上がりすぎじゃないか。


相手と目があったような錯覚。

旋回中のはずなのに、機首が私を向いた。期せずしてヘッドオン状態。

敵の機体下部、レールガンの砲塔からスパークが見える。


咄嗟の急旋回が間に合わず、真正面からレールガンの砲弾が私の機体を貫いた。

VRだとわかっているのに体がビクッと震えるような、衝撃。思わず目を閉じてしまった。


「今のは……!」

間違いない。さっきのラウンドで、真後ろのメイスを打ち抜いた芸当。


「コブラ・ターンだ!」

その不可解な機動について、解はメイスが出した。

「あいつ、失速機動で無理やり方向転換してやがる!」

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