50話 女王様とダンスだ!
「いいも何も、リーダーはお前だ」
セイバーの問いかけには、メイスが真っ先に答えた。
相変わらず降り注ぐ敵のパルスレーザーを掻い潜りながらも。その声は穏やかだ。
「好きなだけ命令すればいい」
「ありがとう。じゃあ……」
「いつでも頼って下さいよ!」
「何でも!頑張りますから!」
私もダガーも、当然に続く。
2ランド目の残り時間は4分を切った。
ここまで撃墜数は双方1。
削り点の差で、スコアは負けている。
敵の戦いは変わらず。
パルスレーザーで追い立て、レールガン『トールハンマー』を叩き込む意図。
メイスとダガーが交戦中だが、機体損傷率は50%程度。まだ戦える。
ここはメイスたちに合流して、一暴れしてやろう。
加速用のボタンに指をかけ、セイバーに呼びかけようとしたところで。
「ジャベリンはここから敵の位置を見て」
釘を刺された。
「え、なんで!」
「向こうの攻撃はミサイルアラートが鳴らないから。
気がつけば撃たれちゃう。位置を見て警戒してほしいの」
「そういうことなら……」
やる気満々だったのだが、渋々ながら了承する。
「誰かが危ないときはヒュドラで援護を。ダガーはジャベリンを守って。ECMはガンガン使って。少しでも視界を潰そう」
「わかりました!」
私とダガーの2機は敵の攻撃範囲から離れる。
じゃあ攻撃は誰がするのかというと。
「あたしらだけか?」
「うん」
「正気か?」
「攻撃は直線。狙いが分かった方が対処しやすいの」
一撃必殺のトールハンマーも、射線をずらせば当たらない。
理屈はわかるけど、近距離で撃たれれば反応が間に合わない。
それでも、避けて対処する気満々だ。言葉からは自信を感じる。
「できるでしょ?あなたなら」
「ハッ、舐めんな!」
とにかくプランは決まった。作戦開始だ。
「じゃあ、いっくよ~!」
「いつでもいいぜ!女王様とダンスだ!」
「ECM、作動です!」
「復帰した1機、高速接近中です!気をつけて!」
セイバーが機体を左に傾け、方向転換。アフターバーナーを点火。
青い光の飛び交う戦闘空域へ突っ込む。
入れ替わりにダガー機は離脱。無事、私の後方に付く。
見る役に徹する。
周辺を回り込むように飛びながら、敵の位置、敵の機首の向き、注意を払う。
先輩たち2機の航跡が絡み合うように曲線を描き、敵の直線攻撃を透かし、ミサイルを放り込んでいく。
レーザーを翻弄するように。
そこに1機。少し離れた位置から機首を先輩たちに向ける機影。
「セイバー!狙われてます!」
「了解!」
視線の先、ほとんど重なって見えていた先輩たちの機影が、左右にバッと開いた。
その隙間をレールガンが駆け抜ける。白い航跡だけがハッキリと残った。
もう少し避けるのが遅かったら……見てるこちらの方が肝が冷える。
「ナイス回避です!」
「助かったよ、ありがと~!」
あの場所で一緒に暴れたい衝動を抑える。
「すごいね、先輩たち」
後方を飛ぶダガーが、戦闘の様子を見ながら呟く。
「動きがピッタリ。本当にダンスみたい」
「そうだね。綺麗……」
複雑に入り組む飛行機雲から、射線を合わせないよう必死に回避しつつ打撃を与えている様子が窺い知れる。
「メイス!5時方向!スカーレット!」
「あいよ!」
敵リーダーのレールガンの射線から逃れるため、メイスが急旋回。反対方向に同じような角度でセイバーも旋回を開始。
左右対称にヴェイパーの白線が引かれる。
ときにピッタリくっつきながら、ときに対称的に散開しながら。
有効打はないながらも、少しずつ押してきている。
反面、先輩たちの機体ダメージは増えない。
状況は有利に見える。
ここで敵の動きが変わった。先輩たちから一斉に離れる。位置取りに変化が見られる。
「セイバーへ!2時に2機、10時に2機!」
「了解!」
改めて画面に集中。
狙いは十字砲火か。
各機、まだ機首は先輩たちに向いていない。適切な位置取りを探っているのか。
「スカーレットは10時方向、奥側、上です!」
警戒を促すつもりで注意を発したが。
「じゃあ、スカーレットを叩こう!」
「任せろ!」
セイバーたちのターゲットが、敵リーダーに変更された。
セイバーたちの向かう先、小さくシルエットが見える。
敵AF-22の滑らかなボディと、その奥に曲線的な機首のRF-37。
敵リーダー、スカーレットの機体。
やはり機首は先輩たちに向いていない。
恐らく、パルスレーザーで避ける方向を制限した先に、必殺の一撃を置く狙い。
だから多分、レーザーを無視した相手に咄嗟に狙われると弱いのかも。
「アーバレスト!いっけ~!」
「女王様のお通りだ!どきやがれ!」
「その言い方やめてってば~」
セイバーから敵リーダーへ、相手の射程外からのミサイルのプレゼント。
メイスはAF-22の方へ4連発のミサイルを叩き込む。
どちらも撃墜には至らないものの、回避を強いて十字砲火の陣形を崩した。
先輩たち2機は、レーダー上ではほぼ重なるように、スカーレットを追う。
その背後、敵の3機が追う形。
「援護します!FOX3!」
私のヒュドラなら、範囲外から複数機を狙える。
先輩の後ろに付く3機をロック。3本のミサイルスモークが走る。
「も、もう1回!ECM行きます!」
さらにダガーのECMポッドが作動。
これで敵はミサイルを把握できない。
複数の光の粒が放射される。敵がフレアを発した。それでもヒュドラの1つは敵機後方へ食い込んだ。
オレンジに広がる爆炎を、小さく確認。
「1機撃墜!」
「やる~!ナイスキル~!」
「でもまだ!2機追ってます!」
残った敵の2機が進路変わらず先輩たちの後ろに食らいつく。
どちらも滑らかなボディと斜めに張り出した2枚の垂直尾翼。AF-22『ファントム・ホーク』とAX-35『ライトニング・アロー』だ。
青い光の筋は、変わらず先輩たちを追い立てる。
「反転しよ~!」
「了解だ!」
「せ~の!」
合図に合わせて、先輩たちがターンを開始。互いが交差するようにカーブを描く。
後ろの2機へ狙いを変更。
でもそれは、逃げていたスカーレットに背を向けることになる。
その隙は相手も狙っていたに違いない。
スカーレット機の機首が反転。方向は間違いなく、味方の青い三角形を狙っている。
「セイバー!7時にスカーレット!」
「おっけ~」
セイバーが、迫っていたAX-35にミサイルを射出。
自身は螺旋を描くような機動に移行。
その螺旋の中を突っ切るように、トールハンマーの航跡が真っ直ぐ通り抜けた。
オレンジの光が広がり一瞬肝を冷やしたが、なんてことはない。
セイバーの放ったミサイルがAX-35の滑らかなボディに刺さり、叩き落とした。
「ナイスキルです!」
私とダガーの声が重なった。
「こっちもやった。あとはアイツだけだ」
メイスの方も4連装ミサイルからのヴァイパー射出でAF-22を追いやり、とどめを刺していた。
「さすがメイス。インファイトの喧嘩ならお手の物だね」
「何言ってやがる。あたしはどっちかっていうとアウトレンジ……馬鹿なこと言わせんじゃねえよ!」
メイスが物騒なことを言ってるけど……先輩たちに軽口が戻った。
形勢は一気に逆転。
今の戦闘空域にはスカーレットしかいない。
残り時間を踏まえれば、敵機が復帰しても援護はほとんどできまい。
完全に私たちの優位だ。
「あと1機!みんなでいきましょうよ!」
私も一緒に飛んで戦いたい。それでも。
「ダメだ」
メイスが冷静に止めた。
「恐らくレールガンの残弾がある。囲めばむしろ危険だ」
4対1に持ち込めばさらに有利になると思ったが、メイスの言うことももっともだ。
1機の撃墜ならスコア差はひっくり返らないけど。わざわざ危険を冒す状況でもない。
「ここはあたしに任せな」
「おっけ〜。ジャベリンは引き続き射線警戒。私とダガーで復帰の邪魔をしとくよ」
残り1分を切った。
目視圏内で、メイスとスカーレットが戦っている。
メイスが完全にスカーレットの背後を取っている。
勝敗が決するのは時間の問題だろう。
メイスの機体から、ヴァイパーの曳光が飛んでいく。
敵は後方へオレンジ色の光の粒を乱射しつつ、旋回して回避行動を取る。
フレアの残数も恐らくもうあるまい。
このラウンドは完全勝利。
敵の機体下部。砲塔のスパークが見えた。
トールハンマーの航跡が光った。
衝撃波のような派手なエフェクトが広がるその先。
メイスの機体が爆ぜた。
「なんだと!」
「え?え?」
なんで?
旋回中だった。メイスに背を向けていた。
なのに。なんで今、機首はメイスを向いていた?
間違いなくスカーレットの機体はメイスから離れていく。
回避行動を取っている。
それなのにその曲線的な機首は、後方を、メイスの方角を向いていた。
進行方向と、真逆の方向に。
「撃たれた……?なんでだ、なんで今、落とされた?」
2ラウンド目終了のブザーが響いた。
メイスが撃墜されるアクシデントはあったものの、スコア差は歴然。揺るぎない勝利を収めた。
ただ1つ、得体の知れない不気味さだけが残る。
敵はまだ、何かを隠し持っている。




