49話 あのね
兵装の選択画面に入っても、月子はどこかふわふわしている。
「兵装はどうします?」
「えっと……じゃあ、さっきと同じで」
「待て。さっきと同じなら、さっきと同じような結果にしかならねえ」
「そっか……じゃあ……」
私の問への回答も、なんだか煮え切らない。
蘭花が割って入り議論を進める。
「あたしはスウォームを使う。それでいいか」
「ええと、それで」
「あの、私、ECM持ちますか?」
「うん、お願い」
蘭花が攻撃に加わり、ひばりがECMで隊を支えるパターン。
月子の中距離ミサイル『アーバレスト』、私のマルチロックミサイル『ヒュドラ』はそのまま。
ここまでは決まったものの「どう立ち回るか」など細かな動きを詰める間もなく、
2ラウンド目開始のブザーが鳴った。
* * *
レッドパイソンの4機はやはり全速力で接近中。
複数機を同時に狙えるヒュドラを警戒して、密集陣形ではなく2機ずつ分かれて飛び込んでくる。
「距離8000!アーバレスト射程内!FOX3!」
左翼の2機に向けて1発ずつ、セイバーから中距離ミサイルのプレゼント。
遠くにフレアの光が見える。2機は僅かに回避行動を取りつつ、進路変わらず。今回も勢いで押し切るか。
その2機がヒュドラの射程に入ったところで波状攻撃を仕掛ける。
「FOX3!」
右側2時方向からの2機は無視することになってしまうけど、確実に数を減らしたい。
爆風でダメージは与えたものの撃墜には至らず。
格闘戦に備える。
「スウォーム、射程圏内だ!落ちろ!」
先に到達した右側からの2機。パルスレーザーを掻い潜り、メイスが4連発のミサイルを叩きつける。
フレアに遮られ、ここでも撃墜には至らない。
すぐに左からの2機もヴァイパー射程圏に入る。
私も楽しい格闘戦のスタートだ。
一度呼吸を整え、迫るシルエットを観察する。
最初にロックしたのはRF-33。曲線的な機首のフォルムに、2枚の垂直尾翼。
正面を飛ばないよう、敵の進路から角度を取る。
ロック完了。レーザーを撃たれる前にヴァイパーで牽制する。
「敵ECM、来ません!」
私の後方にいるダガーが、回避中のRF-33にヴァイパーで追撃しつつ告げる。
確かに容易くロックできる。レーダーにノイズも現われない。
「やられたな。ライトニング・アローがレーザーを撃ってる」
メイスの言葉通り、さっきはECM要員であった敵AX-35ライトニング・アローから、青い光の筋が走る。
3機がパルスレーザーで私たちを狙っている。
ECMを持たない。「ロックオンなど恐るるに足らず」とでも言いたいのか。
こちらのダガーがECMを持った意図は、敵の電子妨害を妨害するため。ECCMとして。
こちらが一方的にECMを使ったところで、ロックオンを一切使わない相手チームに効果は薄い。
兵装の選択で読み負けた。
「ラウンド毎に択を強いるのは、私たちの方なのに」
思わず声に出てしまう。
「今更仕方ねえ、目くらましに使っとけ!」
「了解です!起動します!」
敵のレーダーを封じることはできる。
目視可能なクロスレンジでは尚更効果が薄そうだが。
「ご、ごめん……」
「謝る暇があるならあいつらを落とせ!」
ECMの選択にGOを出したセイバーが責任を感じている。
でも、メイスが言う通り凹んでる暇はない。
クロスレンジで張り付いてくる敵機、追い立て飛び交うレーザーからは目を離すことができない。
「ドンマイですよ!さっさと、やっつけちゃいましょうよ!」
さらに敵は、射線さえ合えば相手を一撃で落とせる大砲を持ってる。
尚更に周囲警戒が必要だ。
「ダガー!ブレイク!トールハンマーだ!」
不意にメイスが警告する。
後ろを飛ぶダガーが反応し急旋回。
直後に、空気を切り裂く轟音が後方を通り抜けた。
思わずキャノピー越しに振り返る。ダガーの無事を確認。
青空の中に一筋の白い線。レールガンの残した航跡だ。
「た、助かりました!」
間一髪。
でもダガーが狙われたということは、その近くを飛ぶ私は危ない。
案の定。青い光が飛んできた。
「狙われました!」
敵のパルスレーザー。2方向から。
機体を掠めた。HUDが揺れる。大丈夫、単発ならダメージは大したことない。
機体を深く傾ける。機首を上げる。高いGを掛けての急旋回。
斜めに下降し、速度を得る。
パルスレーザーの追撃が来る。さらに旋回。攻撃の手薄な方向へ。
レーダーで位置関係を確認。
変わらず2機が近距離で私を狙い、うち1機の背後にはダガーが張り付いている。
少し離れた位置、4時方向から機首を向けている機影が1。間違いなくRF-37。スカーレット機。
セイバーたちがスカーレットに妨害を仕掛けている。ミサイルを示す線がスカーレットに向かっているのも見える。
それでも砲弾は飛んできた。ミサイルに狙われながらも、目視で合わせてきた。
右方向への旋回中にも関わらず、自機が爆ぜた。
「嘘でしょ……旋回中を……」
旋回の先にレールガンを置かれた。なんて腕だ。
「ごめん……落とせなかった」
セイバーがまた謝っている。
「大丈夫ですって!自分の失点くらい、取り返しますから!」
「ダガーを守るぞ!セイバー来い!」
「どうしよう……どうしたら……」
私の声もメイスの声も、明らかに届いていない。
「セイバー!元気出して下さいよ!」
もう一度、呼びかける。
「落とせばいいだけじゃないですか!いつもみたいに!」
いつもの調子じゃない理由までは分からないけど、そのきっかけは何となく見えている。
少し、カマをかけてみるか。
「スカウトの人に何を言われたか知りませんけど!」
「……何で知ってるの?」
否定しない。当たってしまった。
去年の大会で大活躍した新星。当然今年も注目されているし、実際に取材にも応じている。
十分にあり得る話だと思った。
「この前、スーツの人と話してたから……」
それにあのスーツの男の人は、報道の腕章を付けていなかった。
「スカウトの話は断ったから……安心して」
「え……」
でもスカウトって……スカウトってこと?
プロ野球のスカウトみたいな?
プロって……プロってこと!?
断ったの?なんで?どうして!?
自分で聞いておきながら頭の中をハテナが飛び交う。
戦線への復帰中、言ってしまえばただの移動中で良かった。
続く言葉が出ない。頭が働かない。
「今その話はナシだ。勝つことを考えろ!」
「あのね」
メイスの制止にも関わらず、セイバーは続ける。
「許せないことを言われたの」
「おい」
「『今のチームは鳥籠だ』って。『相応しくない』って。
『あなたが実力を発揮できるチームを用意しよう』って」
セイバーは震える声で呟く。
それでも器用に立ち回っているが、もちろん敵は待ってはくれない。
「レーザーが!来てます!」
「スウォームだ!くらいやがれ!」
メイスのスウォームが、ダガーを狙っていた敵の1機を落とした。
「ナイスキル!です!」
まだ空域まで距離があるけど、レーダーとログで確認。
「くそ、おしゃべりは程々にしとけよ。ダガー援護しろ!取り巻きのレーザーどもをやるぞ!」
「了解です!」
私もアフターバーナー全開で、1人飄々と立ち回るセイバーのもとへ向かう。
「『そんなことないんだ』って。私は今のチームで思いっきり戦えるって。証明しなきゃ」
だから変に力んでいたのか。
セイバーの言葉は断片的だけど、察することはできる。
要するに私たちのことを「女王の部隊として相応しくない」と。
「足枷になっている」と。
言ってのけたわけだ。そのスカウトは。
「許せないですね!!」
真っ先に怒りを顕にしたのは、ダガーだった。
「確かに私は下手ですけど!でもみんなは!きゃあ!」
「いいから!お前は喋ってないで集中しろ!斜線警戒しろ!」
同時にメイスにたしなめたれているけど。
「だったら」
言いながらも、メイスも乗っかってきた。
「お前がやることはシンプルだ、女王様」
「そうですよ!」
私もすかさず続く。
「大暴れしてやりましょうよ!みんなで!スカウトの人がビックリするくらい!」
私たちはセイバーの 、撃墜女王・朧谷月子の足枷じゃない。
試合で見せるんだ。
あのスーツの人はきっと、この試合も見てるだろう。
戦闘空域が目視圏内に見えてきた。
ロックオンマーカーが手近な敵に狙いを付け始める。
「あのね」
そのとき、セイバーは少し落ち着いた様子で零した。
「試してみたいことがあるの。いいかな」




