48話 ノーロック・ノーライフ
「方位045!4機!真っ直ぐ突っ込んできます!」
「上等だ!叩き落としてやる!」
1ラウンド目のスタートから程なくして、接近する機影を4つレーダーに捉えた。
最速で懐に潜り込み、射程の短い無誘導兵装を叩き込む。意図は分かりやすい。
「アーバレストで牽制するよ~。ジャベリンは射程に入ったらヒュドラをよろしくね」
こちらの作戦もシンプル。
懐に入られる前に撃ち落とす。
「レーダーロック!FOX3!」
セイバーの放つ中距離ミサイル『アーバレスト』を回避したところへ、マルチロックミサイル『ヒュドラ』を合わせる。
4発のミサイルが白煙の尾を引きながら、各々の獲物に迫る。
「1機落としました。3番機、RF-33」
「ナイスキルだ、ジャベリン!」
ヒュドラの1つが敵に刺さり、爆ぜた。
開幕早々のキル。喜ぶべきだが。
敵の勢いが衰えない。
散開した敵3機が再び集結。
速度そのまま突っ込んでくる。
再度、アーバレストとヒュドラで牽制。
フレアは使わせたものの、少しの回避行動だけ。やはり勢いを削ぐことができない。
「来るよ~!」
「各機!ヴァイパーを叩き込め!」
4対3、数の上では私たちが優位。
このまま突っ込んでくるなんて無謀すぎる。
迫る敵機をミサイルの射程に捉える。ロックオン完了。
射出、しようとしてレーダーにノイズが走った。
ロックが途切れる。
「敵!ECMです!」
「問題ねえ!撃ち返す!」
メイス機からECM発動。
ノイズをかき消したものの、この僅かな隙に敵の接近を許した。
青い光の筋が飛んでくる。敵パルスレーザーの射程内。
「各機、散開!」
「射線を合わせるな!」
青い光線から逃れるため、機体を傾け、機首を上げる。
各機同様に回避に入り、散開。
みんな少し被弾している。
「うしろ!付かれました!」
敵の1機がダガー機に狙いをつけた。
「助けるよ!」
「ジャベリンよろしく~!」
「こっちの2機は任せろ!」
幸いなことに私がフリー状態。ダガーを狙う輩を排除する。機体をひねり、加速。敵機の5時方向を位置取る。
斜めに張り出した2枚の垂直尾翼。ずんぐり気味の滑らかなシルエット。AX-35『ライトニング・アロー』。
レッドパイソンの名に違わず、機体を赤に染めている。
この機体はECM要員。レーザーを装備していない。
機銃でダガーを狙っている。攻撃面はまだ手ぬるい。
とはいえ、悠長なことは言ってられない。
今なお、機銃掃射のバラララという音が断続的に聞こえる。
「FOX2!」
ロック完了。必殺の角度を待たず、即、ヴァイパーの射出。
これで脅し、引き剥がす。
眼前の単発エンジンの機体は、オレンジの光の粒子をばら撒いた。
ヴァイパーの狙いが逸れ、光の1つに吸い込まれ炸裂。
「外した!もう1回!」
敵はそれ以上の回避行動を取らない。変わらずダガーの背後。
あえて大回りな旋回でダガーを追っている。
機銃の音、それがヒットする音、入り混じる。
「ピッタリ張り付かれてます!」
「落ち着いて!上下も使って!」
ダガー機の機体損傷率がじわじわと増え続けている。
焦りからか、ダガー機の動きが単調になっている。
さっきから平面的に、同じ方向への旋回を繰り返している。
「FOX2!」
再度ヴァイパーの射出。また、すぐさま敵のフレアがバラ撒かれる。
やっぱり避けない。ダガーの背後を取ったまま。
追撃を。
でもヴァイパーはクールタイム中。
射程外だが機銃で牽制するしかない。
加速し少しでも近づこうとしたところで。
「デコイを……きゃあ!」
ダガーの機体が黒煙を噴き上げ、オレンジの炎に包まれた。
「ごめんなさい、落ちました……」
「大丈夫だよ!取り返すよ!」
僚機を落とされた。このまま逃してなるものか。
敵機は勢いのままさらに加速し、上空へ。
追う。フルスロットル。機首を上げる。
「ジャベリン追うな!来てるぞ!」
レーダー上で近づいてくる機影を確認。
さっき落としたRF-33『スコーピオン』。
進路を見るに、私の6時方向に回り込む意図。
この機体もパルスレーザーを装備してる。
背後を取られるのはまずい。
「助けに行くよ~……きゃ!なに!」
「『トールハンマー』だ!油断すんな!」
レーダー上で、先輩2機は敵の2機ともみ合っている。
あちらも忙しそうだ。
「大丈夫です、何とかします!」
方針変更だ。
ずんぐりアローを追わず、迫るRF-33を迎え撃つ。
上昇を止めて、機体を反転。空を下に見る。背面状態から機首を上げ、降下。
迫る敵の1時方向を目掛け強襲。
兵装をヒュドラへ。ヴァイパーよりも射程が長い。
レーザーの範囲外から狙い撃つ。
「FOX3!」
ヒュドラを1発だけ射出。
わずかに相手の軌道を逸らすものの、速度を緩めず向かってくる。
多少の被弾は気にしない。そんな意志を感じ取る。
降下の勢いを殺さず、上昇し高度を得る。
距離を離し、次のアタックを狙う。
敵も上昇してきた。
敵機のシルエットが判別できる。
2つの垂直尾翼。機体はやはり赤。
曲線的な機首のフォルム。そのコクピットのすぐ横に小さなカナード翼。
今は、この機首がどこを向いているかが重要だ。
普段ならここからヘッドオンで差し合いたいところだが。
真正面、相手の射線上は一方的にレーザーを浴びることになる。
角度を取り、誘導兵器の恩恵を活用するしかない。
「キルしたよ~!」
「合流する、待ってろ!」
セイバーが敵の1機、AF-22を落とした。ログから確認。
「ナイスキルです!」
「わ、私も!もうすぐ着くよ~!」
復帰したダガー機も、もう10秒もすれば合流できそうだ。
敵の勢いに面食らったけど、これなら仕切り直せる。
その前に眼前の赤い曲線美の機体はここで叩き落としたい。
降下のエネルギーを機体に乗せる。
ヴァイパーの射程圏内に捉える。
敵の1時方向。斜めからミサイルを突き刺し再び上空へ戻る算段だ。
曲線的な機首が、不意にこちらを向いた。
機体を左に傾け旋回。回避行動を取る。
青い光の筋がいくつも機体のすぐ横を走り抜ける。
そのうち1つは掠った。ダメージは低い。まだ大丈夫。
後ろから機銃の音。
AX-35、近づいてきた。
まだ距離はある。通常の射程圏内じゃない。ただの牽制だ。
青い光の方を注意すればいい。
合わせに来る敵の機首から射線をずらす。目で敵の動きを追いつつ、ヴァイパーを叩き込むチャンスを狙う。
でも。
「あたしらをスルーした!」
「FOX3!アーバレスト!間に合って~!」
「ジャベリン!狙いはお前だ!」
レーダーを確認。9時方向から敵の急速接近。数は1。
先輩たち2機を振り切って突っ込んできた。
セイバーの放ったアーバレストに追われつつ、気にする素振りも見せない。
目視でもその方向に注意を払おうとして、青い光の筋がキャノピーの横を通り過ぎるのを見た。
レーザーの射線を避けるため、機体を傾け、降下。
その先。
何かが飛翔してきた。速すぎて一筋の線にしか見えない。
ガンッと衝撃音。画面が大きく揺れた。
自機アイアン・タロンが主翼をもがれながら落ちていく。
撃墜の演出が画面に映し出されていた。
「……『トールハンマー』。やられました」
画面に、私を落とした敵の1番機の姿が映った。
蛇神さんこと、TACネーム・スカーレット。
使用機体RF-37『エグゼキューショナー』。
シルエットはRF-33と大きく変わらず。曲線的な機首に、カナード翼、2つの垂直尾翼を確認。
機体カラーは鮮やかな赤。
機体下部から覗く砲塔から、スパークがほとばしっている。
あれがたった今、愛機アイアン・タロンを落とした兵装。
マッハ6以上の弾速で砲弾を撃ち出すレールガン『トールハンマー』。
「ノーロック・ノーライフ。侮れねえ」
「ごめんなさい!急いで戻ります!」
「どうしよう……取り返さなきゃ」
セイバーが小さくつぶやいた。
いつもなら「どんまいだよ~」とか、緩やかに言ってくれるのに。
何だか違和感があった。
「あいつ、戻って来る!今度はお前だ!ぼさっとするな!」
「え……」
「くそ!」
その様子は見えない。音声とレーダーで窺い知るしかないけど。
スカーレット機の進路の先、セイバーとの間にメイスを示す三角形が割り込んだ。
直後にその三角形が、レーダー上からスッと消えた。
「ちょっと!何を!」
「あいつらに調子に乗られると厄介だ。お前を落とさせるわけにはいかねえ」
キルログでは、スカーレットがメイスを落としたことが記されている。
トールハンマーの射線に割り込み、セイバーを庇った。
敵の士気を上げさせない、メイスの咄嗟の判断だ。
「ダガー、デコイを使ってセイバーを守れ」
「了解です!」
復帰したダガーとセイバーは無事合流できた。私もアフターバーナーを全開。急いで向かう。
合流して、今度こそ仕切り直しだ。
「ごめんなさい、私……」
「少しは目が覚めたか?女王様」
その後はセイバーの働きで敵機1を撃墜。
撃墜数は双方3。だけど削り点の差で僅かに届かず。
1ラウンド目を落とした。
* * *
「やあ、いきなりのピンチだね。慌てず取り返そう」
「うるせえ、当然だ」
山本先生の呼びかけに、蘭花は苛立ちを隠さず答えた。
「後ろにぴったり張り付かれているみたいでした……」
ひばりが、肩を落としながら率直な感想を述べる。
「ラグ・パーシュートだね。敵の後方を追うように、あえて大回りで旋回し、追い越すことなくチャンスを伺っている」
そういう用語があるのか。
でもそれだけのことで、先生が割って入るのは珍しい。
「彼女たちの強さは何だと思う?」
突然、先生が私たちに問いかける。
「速攻だろ。システムの裏をかいた」
「あと、被弾を怖がってません」
「そうだね」
先生は蘭花と私の意見を頷きながら受け入れる。
そのまま続けた。
「彼女たちは失敗を恐れない」
先生は僅かに、対戦相手側の席に視線を移した。
私も自然と、その方向を見る。
蛇神さんたちは、互いに肩を小突いたり頭に手を置いてワシャワシャしたり。
次のラウンドに向けた話し合いの時間のはずなのに、なんだか楽しそうに見える。
「レーザーも、決め技のレールガンも何発も外している。
仕方ない。無誘導兵器なんて、そう簡単に当てられるものじゃない。
それでも彼女たちは、軽口を言い合いながらも団結している」
先生の目線が私たちに戻った。
「君たちはどうだい。いや……」
私たちというより。
「君はどうだい。朧谷くん」
月子に視線が向けられている。
「この前から、動きが固いようだ」
月子は黙ったまま、俯いている。
「先週のことをまだ気にしてるんじゃないか、と思ってね」
「いえ……だって、断りましたから」
先週……多分、開会式の日こと。
先生と月子が、スーツの男の人と話していた光景を思い出す。
「君は今、楽しいかい?」
「……大丈夫です。やれます」
月子は質問に答えなかった。




