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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
6章 練習試合

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44話 何やってんのよ!もう!

空の向こうではみんなが戦っている。

その戦闘空域に飛び込むのに、二の足を踏む。

加速しようとしても、中指が動かない。震えている。


「どうした!早く来い!」


レーダーを見る。

敵4機が隊列を組み、味方3機の前方に対峙している。

見れば分かる。

そこからどう動くのか、分からない。見えない。


「次のアタック!来るよ!」


相変わらず、外の音が聞こえる。

カナカナカナと、ジージーと、セミの声が響く。

熱気を感じる。時折扇風機からの風を感じる。

椅子の金属部分が腿の裏側に当たっている。

口の中が乾いている。


「ジャベリン!私を見て!」


頭が回らない。

みんなの力になるって決めたのに。

ここまでみんなで頑張ってきたのに。

あと一歩で目標をクリアできたのに。

「お前が決めろ」って託されたのに。

また、私のせいで?


このまま遠巻きに見ていた方がいいんじゃないか。

今飛び込んでも足を引っ張るだけなんじゃないか。

こんな私が向かっても、落とされるだけ。スコアを稼がれるだけ。

ただの的だ。

だったら大人しくしてた方がいい。


余計な気持ちが、戦わない方がいい理由が、頭をグルグルし始めた。


「風咲!」


急に名前を呼ばれたことで、グルグルがいったん止まった。

目線が画面内の空に戻った。


「私を見て」


1機、ぽつんと。味方から飛び出て、空の青の中にいる。


「お返事は?」

「は、はい!」


静かな語り口調なのに妙に圧を感じて、思わず返事をしてしまった。

「うん、よくできました!」

満足げなその声は、隣から聞こえた。

この声はダガーのもの。単機で飛んでいるのもダガーの機体。


その機体の前方から、当然のように敵が迫っている。

上側から2機。下側から2機。


「それ、デコイ?」

「ううん。もうないよ」


デコイじゃない?敵の目の前でぼーっと飛んでる?何を言ってるの?何のため?

撃ってくれって。落としてくれって。言ってるようなものじゃないか。


「だ、だめだよ!スコア!取られちゃう!」

「そうだよ。でも」

これ以上点差が開いたら、残り時間で取り返すのはもう……。

「守ってくれるでしょ?」

「な……」


本当に何を言っているんだ。


「おいダガー」


そうだ、メイスからも何か言ってあげて!こんなのあり得ない!


「落ちるなら全弾撃ち尽くしてからにしろ」

「はい!了解です!」

「ほらほら。早く行かないと。かわいいダガーが落とされちゃうよ~」

「な……な……」


肝が一気に冷えた気分。

ダメだ、この人たち。


「何やってんのよ!もう!」


中指でコントローラのトリガーを押し込む。

スロットル全開。アフターバーナーを焚き上げる。

トップスピードまで一気に加速。

真っ直ぐに。突っ込む。

上昇。敵がいた。2機。

装備をワスプに。上から迫る2機のうち近い方。白い大三角、ミストナイトに狙いを絞る。


敵の攻撃の方が速い。ミサイルは既に放たれている。

白煙がゆるやかにカーブを描き、ダガーに伸びている。

「ダガー!危ない!」

「大丈夫!まだフレアはあるから!」


ダガー機が上昇しながらオレンジ色の光の粒を撒き散らす。

その中を突っ切るようにして、高高度から迫るミストナイトをロックオン。


「FOX3!」


ワスプを撃ち出すも。目の前には別の光の粒子が広がっている。敵側のフレアに阻害された。

このアタックは双方失敗。

敵はまだいる。上からのファントム・ホークが、下からの2機が、まだいる。

……いるはず。下が見えない。


「下の2機は任せろ!」

「ダガーをよろしくね~!」


見えない。いや、見なくていい。

まだ頭が働かない。戦場を見渡すことはできない。

だから見る方向を絞る。それならまだ飛べる。まだ戦える。

他は見ない。ダガーを見る。ダガーを守る。敵は撃つ。それだけ。


「ファントム・ホーク!敵の1番機!叩きます!」


目の前。滑らかな曲線を描く双発エンジンの機体に、ダガーが追われている。

不運なことに、今はレーダーに映っていない。

まだロックオンができない。


「あえてステルス機を狙うのか!」

「ダガーを追ってる!だから仕留めます!」

「わわ、いいな~!そっちの方が楽しそう!」

「贅沢言うな!こっちも1機やるぞ!」


私の後方を、さっき回避したミストナイトが狙うはず。

大丈夫、復帰したばかりの私はフレアをしっかり装備してる。

アラートが鳴ったらばら撒けばいい。

あれこれする余裕はない。

後ろは見えない。だから見ない。前だけ見る。

できることだけを見る。


「ダガーそのまま!攻撃されて!その瞬間にロックするから!」

「分かったよ~!絶対守ってね!」

「もちろん!」


敵のウェポンベイが開いた。

レーダーに機影が表示された。

HUD上、ロックオンのための緑色のコンテナが、敵機に重なった。

レーダーロック。完了。


「FOX3!」


ファントム・ホークはすぐさまフレアを展開。回避だけじゃない。ヴァイパーも放った。ダガーに向けて。

「ブレイク!」

「大丈夫!まだ!」

ダガー機もフレアをばら撒いている。光の粒子や爆炎が視界に満ちる。

その中をファントム・ホークが旋回している。

ワスプは避けられた。でも狙いをダガーから逸らすことには成功。

これでいい。追う。急旋回。

急激な加速度の負荷に、視界の端が黒ずむ。

ターゲットを視界正面に捉える。

敵の旋回の終わり、その7時方向に機体をねじ込む。

もう一度。


「FOX3!」


この距離、この角度。ワスプは刺さる。決まった。落とした。

そう思った。正面から何か。割り込んだ。デルタ翼の機体。

ワスプは敵のリーダーではなく、ミストナイトに突き刺さった。

爆音とともに、大きな翼が散る。

身を挺して守った……それだけじゃない。

ミサイルアラート。目の前にミサイルスモーク。散り際に放った最後の一撃。

敵のミサイルは眼前。迫る。

両のスティックを強く押し込む。フレアの射出。

機体をひねり、急降下。フル加速。アフターバーナーを全開。ミサイルの進路から距離と角度を稼ぐ。

回避しきれない。機体の間近でミサイルが炸裂した。

HUDの画面が、手元のコントローラが大きく揺れた。


近接信管による爆発。辛うじて直撃を避けた。

機体損傷率は一気に80%まで上がった。


「スパイク!まだ!追われてる!」


急降下で退避中の私に、ファントム・ホークが食らいつく。

ミサイルアラート。鳴り止まない。ビープ音の間隔がどんどん短くなる。

何発来てる?見る余裕がない。


「メイス!ラスト30秒~!」

「OK!最後のECMだ、受け取れ!」


けたたましいアラートが止んだ。ミサイルは私の旋回を追ってこない。

この局面までECMを温存していたのか。

試合終了までの残り時間、敵はロックオンができない。レーダーが使えない。


反撃の。最大のチャンス。


機体を引き起こす。機首を、背後から迫るファントム・ホークに合わせる。

フルスロットル。上昇。


青い閃光が機体を掠めた。HUDが揺れた。

慌てて左旋回。射線から逃れる。視界の端、自機が黒煙を噴いていた。

敵にはパルスレーザーが残ってる。執念が残ってる。

でも大丈夫。私もまだ残った。まだ落ちるときじゃない。まだ飛べる。


相手の機首は未だ、私に照準を合わせに来る。

あと1回レーザーが掠れば、今度こそ間違いなく撃墜される。


「援護!するよ!」


敵の後方。上空からダガー機が降ってきた。

ヴァイパーの白煙を伴って。


ファントム・ホークが急旋回を開始。主翼の先が青空を切り裂き、雲を引いた。

その間近で、ダガーの放ったヴァイパーが炸裂。

敵機の、斜めに張り出した垂直尾翼のあたりから、黒煙が噴き上がる。


その様を、私は後方から見ている。間近に。

双発のエンジンノズルから、青を伴ったオレンジの炎が噴射している。

ハッキリ見える。

そしてHUDは、眼前のターゲットをロックしたことを告げている。

だから叫んだ。


「FOX2!」


痛いほど、右手の親指を押し込んだ。

手前から奥に、自機からターゲットに、白煙が伸びた。

敵は機体をロールさせ、ピッチアップし、なおもヴァイパーから角度を取ろうと動いた。ターゲットに向けて、白煙は緩やかにカーブしていた。

ミサイルは敵機のすぐ近くで爆ぜた。

直撃じゃない。

それでもその衝撃は、ファントム・ホークの滑らかな主翼を剥ぎ取った。

オレンジ色の爆炎が広がった。

主翼が、尾翼が、破片が飛び散り、翼を失ったボディが、浮力を失い落ちていく様を確認した。


試合終了を示すブザーが鳴っていた。


* * *


息を大きく吐き出した。身体から一気に力が抜けた。

パイプ椅子の背もたれに体重を預ける。

頭が割れるようだ。


最終局面で2機を落とした。

それだけなら削り点の差で負けもあり得るけど、杞憂だった。

先輩たちがきっちりと敵の1機を落としていたから。


勝った。

やり切った。

さらなる脱力に見舞われた。背もたれから上体が滑った。


「ご苦労様。あなた達は下がりなさい」


その声でハッとする。そうだ。これで終わりじゃない。


桐崎さんの声は相変わらずのトーンだった。

仲間が負けたことへの驚きも憤慨も見せず。

2軍からも格落ちしてしまうメンバーへの情けも哀れみも見せず。


こちらは息も絶え絶えなのに、随分と涼しげだ。


「いいわ女王(クイーン)。見せてあげる。

 ベクター、アクシス、インフィニティ。準備なさい」


それがセント・ローズ正規メンバーのTACネームというわけだ。


ベクターとアクシスは何のことか分からないけど。

インフィニティが何を示す言葉か。

英語が苦手な私でも、それくらいは知っている。

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