表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
6章 練習試合

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/52

43話 カキーン

「2機来ます!いや……4機とも!」

「こっちもロックされてます!」

第3ラウンド開始早々、敵の4機は私とダガーに狙いを定めた。

「過剰火力上等ってか。待ってろ、ECMを使う!」

「後ろ、取るよ~」

敵のミサイル射出に合わせてメイスがECMを発動。

回避には成功したものの違和感が残る。


「ECMを打ち返して来ない」


違和感の正体はメイスが指摘した。

ECMの効果時間をずらしているのか。

それとも別の狙いがあるのか。


先輩2機が私たちの後方を飛ぶ機体の背後を取り、1機ずつ引き付けている。

ECM担当のライトニング・アローが依然として私の6時方向に付いている。

機銃の射程ではない。離れている。ECM有効下なのでロックオンもされない。

つまり脅威ではない。

このまま振り切ればいい。


直後、青い光の筋が通り抜けるのが見えた。

画面が揺れた。HUDが赤く明滅する。甲高い音が鳴り響いた。

コントローラの振動が止まない。反応が遅れた。急旋回。距離を置く。

「パルスレーザー!撃たれました!」

レーザーの連続ヒットを許してしまった。一瞬だ。機体耐久値の50%を持っていかれた。


「うそ!ECMを捨てたの!?」

「正気じゃねえな」

先輩たちも驚きを隠せない。


私たちのECMは依然として敵のレーダーを封じている。

状況は圧倒的に優位。一方的に攻撃を仕掛けられる。

もはや敵チームは勝負を捨てたに等しい。

なのに、この不安はなんだ。


「余裕だと思うか?」

そんな心中を察してか、メイスが問いかける。

「いいえ!怖いです!」

直感が告げている。今日一番の脅威だと。


「そうだ、それでいい!兵装の差が勝敗の全てじゃねえ!」

「ど、どういうことですか?私たちが有利なんじゃ……」

ダガーの当然の疑問には、そのままメイスが答える。


「ECMはトータルで試合時間の1/4を支配できる。

 だが残る3/4はECMの効果時間外だ。あいつらの攻撃の方が重たい!」


普段なら、それを差し引いてでもECMの恩恵が大きい。

だからこそ「1ラウンド中にECMポッドを持ち込めるのはチームで1機だけ」というルールが存在する。


その優位を、あえて投げ捨てた。

敵が捨てたのは勝負じゃない。捨てたのは逃げ道。安穏に安全に勝つという甘さ。

怖いのは兵装じゃない。そこまでして攻撃の意志を、勝利への執念を示す、彼女たちの覚悟だ。


「ファントム・ホークもレーザーだよ!掠っちゃった!」

「電子妨害を見越した兵装だ!お上品なお嬢様集団にしては、いい根性してるじゃねえか!」


ECMの有効下なのに、青い光の筋に追い立てられ防戦一方だ。


「どうすれば!」

「ステルスどもの射線に入るな!ミストナイトを狙え!」


レーダーに目をやる。状況を確認。

後ろにはライトニング・アローが1機。ダガーの後ろにミストナイト1機。

先輩たちが敵の2機を引き付けている。


後ろの敵を振り切り、ダガーの救援に向かう。腹は決まった。


ロックオンアラートが鳴った。

最初のECMの効果が切れたことを意味する。

アラートが甲高いビープ音に変わった。ミサイルアラート。後方にミサイルの航跡を確認。ヴァイパーが迫っているはずなのに、アラートの間隔は間延びして聞こえる。落ち着いてスティックを押し込み、フレアを射出。

左スティックを傾け機体を回転させ、旋回を開始。ミサイルに背を向ける。


目線を動かす。ダガー機を目視。

敵機を振り返る。追ってきてる。旋回半径のさらに内側にいる。このままだと向こうが有利だ。

咄嗟に機体を180度回転させる。機首を上げる。アフターバーナーを全開。

旋回ルートを変えるフェイント。この隙にダガー機に接近する。

これで振り切れる相手とは思えないけど。距離は稼いだ。


呼吸を整える。息を大きく吸い、肺をリフレッシュさせる。


ダガーの方はデコイを飛ばしてミサイルを回避したところだった。

合流して、ダガー後方の大きな三角翼の機体、ミストナイトを叩きたい。

でも。

デルタ翼の敵機が機銃を掃射した。何もない中空に向けて。

空の青の中に銃弾が吸い込まれる。甲高い音が鳴り響く。

やがて黒煙が吹き上がった。オレンジ色の爆炎が広がり、主翼が散った。

露わになったダガー機がバラバラに砕けながら、重力に引かれ力なく落ちていく。


「なんで!見えないはずなのに!」


光学迷彩で周囲に溶け込んだダガーを撃ち落とした。闇雲に撃ちまくったわけじゃない。明らかに狙っていた。


「光学迷彩も絶対じゃない。ジェットの炎やヴェイパーは誤魔化せない」


メイスの指摘は尤もだけど。

亜音速で飛行する見えない標的を、こうもあっさりと。


「ごめんなさい!急ぎます!」

「どんまいだよ~。落ち着いて戻ってきて!」

「3機で凌ぐぞ!離れるなよ!」

「了解!取り返します!」


ダガーを撃ち落としたミストナイトは、今度は私に迫っている。

後方はライトニング・アロー。挟まれている。

息を長く吐き、強く吸う。止める。

レーダーに目を落とし位置を再確認。

機首を上げる。上昇。機首を上げ続けループを描く。


「いっけ~!アーバレスト!」

変わらず追ってくる2機に、セイバーからのミサイル射出。

敵は2機とも一時反転。フレアの射出。また私に機首を合わせてきた。

あくまで狙いは私か。振り返り、キャノピー越しに見る。

白い大三角形が先行。その後方の滑らかな機体の下部、ウェポンベイが開きミサイルが並んでいる。仕掛けてくる。


「もう1回!いっけ~!」

私を狙う敵機の妨害に、アーバレストの第二波。

敵が再度、回避行動に入った。距離が少し開いた。

そこへ。

「ジャベリン、チャンスだ!ビースト野郎をやるぞ!」

自身も後ろに2機を連れながらも、メイスは進路をこちらに取った。

あくまでも攻撃の意志を崩さない。


「了解です!」


ライトニング・アローに狙いを定める。

機体を背面状態まで回転させ、機首を上げる。急降下開始。


「じゃあ、こっちの2機は相手しといてあげるよ!」


メイス機を追う2機の正面から、セイバーが突っ込んだ。

しばらく抑えてもらう。


「FOX2!行ったぞ!回避の先にワスプを叩き込め!」


メイス機の射出したヴァイパーを、ライトニング・アローがフレアを撒き退避。

その進行方向に合わせる。大丈夫、動きは見えてる。このまま正面。捉えた。ロック可能に。

ならない。敵のウェポンベイが引っ込んでいる。

レーダーから消えた。敵がステルス状態に入った。

戸惑っているうちに。青い光が一瞬、眼前を覆った。

ガンッという衝撃とともに、画面が揺れた。次いでミサイルアラートが激しく鳴り響く。

反射的にフレアを撒き、急速旋回。


正面からのパルスレーザーだ。さらに削られた。

視界の右下、機体損傷率は65%を示している。


「アタック失敗です!」

「そう簡単にはいかねえか。回避に専念しろ!」


レーダーを確認。ライトニング・アローと共にミストナイト、また私の後ろを取ろうと方向転換中。

「1機押さえる!」

後方を確認。メイス機がライトニング・アローを牽制。ミストナイトが追ってきている。

またミサイルアラートが鳴り響いた。振り切れない。


「お待たせ!」


アラートが立ち消えた。

突っ込んできたダガー機が、ミサイルを吸い寄せた。

鮮やかな爆炎が広がる。

直撃したはずのダガー機は悠々と飛んでいる。

デコイか。助かった。


ダガーが飛んできた方向を見ると、確かにデコイから離れた位置に飛行機雲が伸びている。

「気をつけて!本体の位置はバレてる!」

「了解だよ!」

「仕切り直すぞ!ECM発動!」


大きく息を吐く。肺の中の空気を交換し、リフレッシュさせる。

レーダーで状況を確認。


敵が進路を変えた。離れていく。

ECM効果中に、安全な位置に退避するつもりか。

いや。今の彼女たちがそんな消極的行動を取るとは思えない。

2ラウンド目後半のような、波状攻撃のセットアップと見て良い。


させない。阻止する。ダガー行くよ!

叫んだつもりが、声になっていないことに気づいた。


カキーン……と。金属音が聞こえた。


今の音、なんだ。

「風咲危ない!」

「避けて!」

スピーカー越しじゃない生の声。

一瞬気持ちが逸れたのを、その声でゲームに戻された。

敵機が、ミサイルが、迫っていた。


「ジャベリン、お前だ!ブレイク!」


今の音、なんだ。

グラウンド。ボールを金属バットで打ち返す音。

気づいた。身体の内側から、焦りが湧き出る。


「今、ソフト部のバットの音が」

「こんなときに何言って……なんだと?」


扇風機の音、セミの声、グラウンドからの遠い喧騒、

目の前に集中したいのに。全部入ってくる。

喉の渇きがはっきりと分かる。部室の生暖かい空気がまとわりついてくる。

汗が吹き出る。手元が滑るほど。

落ち着こうとすればするほど、呼吸が荒くなっていくのが分かる。


「ジャベリンを援護しろ!」

「ダメ!間に合わない!」


どこからか飛んできたミサイルが突き刺さりHUDの表示が激しく揺れるのを。

翼をもがれたアイアン・タロンが為す術なく墜落していくのを。

どこか遠くから見ているようだった。


「まだだ!まだ3分ある!」

「おっけ〜!戻っておいで〜!」

「ドンマイだよ!取り返そう!」


味方の声も外の喧騒に押され、どこか遠くから聞こえるようだった。

この感覚。セレスティアル戦の終盤と同じだ。


『それだけの集中状態があって初めて、敵のエースと対等に戦える』


思い出したのは先生の言葉。

ゾーンが。集中が。途切れた。

それはつまり、エースパイロットでいられる魔法が解けたことを意味している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ