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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
6章 練習試合

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41話 ちょっといいかしら

セイバーの撹乱、ダガーのサポート、メイスのアタックが噛み合った、私たち全員でもぎ取った1キル。

沈みきった部室の雰囲気が、重苦しい空気が、一気に書き換わった。

VR空間越しでも、それは充分伝わった。


1ラウンド目は数的優位を得たままに、メイスがもう1機の撃墜に成功。

2ラウンド目もエコーチーム2番機の回避の癖に付け入り、撃墜。

この1戦を通して、メイスこと蘭花が3機を撃墜した。


文句なしの、本日初勝利。

VRヘッドセットを机に置く音が4つ重なったところで、

みんなが今まで堪えていた喜びの声が一気に噴出した。

中でも、雄叫びにも似た歓喜の声を上げたのは、もちろん蘭花だ。


「うんうん、頑張った!頑張ったよ蘭花!」

「か、かっこよかったです!」


拳を握りしめ勝利を噛みしめる蘭花に月子、ひばりが声を掛ける。

私も続く。

「さすがです!えっと……ハットトリックですね!」

もうちょっと気の利いたことが言いたかったけど、戦いで頭を使ったあとは言葉がなかなか出てこない。


観戦していた他の1年生たちも蘭花の周囲に集まり、労いの言葉が飛び交う。

先生は腕を組んだまま、うんうんと頷いていた。


蘭花は、不意に私たちに視線を向けた。

「礼なら全部終わってから言ってやる」

「はい!待ってます!」

「午後も勝つぞ!」


* * *


撃墜することができる。相手は無敵の存在じゃない。

その事実が、私たちを潜在的に鼓舞した。


続く2戦、

私やダガーが落とされビハインドを負ったものの、先輩たちの連携が取り返した。

2つのドロー。

ここまでの戦いを通して、相手の出方に慣れてきたのもある。

私たちが敵2機を押さえ、その隙に先輩たちが敵を落とす流れの精度が上がってきた。

その後の2戦で、どちらも勝利を収めることができた。


『1軍を引きずり出す』という約束の勝ち越しまで、あと1勝。

続くエコーチームとの2戦目に勝てば条件はクリア。目標は随分とシンプルになった。


時刻は既に15時に差し掛かろうとしていた。

部室の空気は、いい感じにヒリヒリしている。

誰もが緊張を保ち気が休まらない。

交代しながら戦っていた私も同様。

ひばりも同じだろう。元気がないように見える。隣で座って休むひばりにうちわで風を送ると、彼女は目を細めた。

さすがの蘭花にも疲れの色が見える。汗を拭く回数が明らかに増えた。口数も減ったように思う。

月子だけは、むしろ活き活きとしているように見える。

戦いの最中もゲーム外でのやり取りも、声のトーンがずっと落ちない。


直前の戦いでコントローラを握っていた成田たちと交代し、席についてVRヘッドセットを装着したところで。

「エコーチーム、ちょっといいかしら」

ずっと淡々と進行していた桐崎さんが、出撃前の選手たちを呼び止めた。

珍しい。激励の言葉でも掛けるのだろうか。


「勝つ気はあるのかしら」


思わず背筋が伸び、息を呑む。

寒気が走った。背中に氷でも詰め込まれたんじゃないかと思うほど。


「2回負ければ、そのチームは解散。練習試合といえどルールは同じよ」


相変わらず感情を感じさせない淡々としたトーン。他の選手の声は聞こえない。

私に向けた言葉じゃないのに、嫌な汗が出てくる。


「コントローラ磨きからやり直したくなければ、せいぜい頑張りなさい」


凛とした声でえげつないことを言うものだ。

同時に、どこか納得した。王者の王者たる所以を垣間見た。


「なんだか怖いところだね……」

隣に座るひばりが小声で耳打ちしてきた。


「うちにも怖い人いるでしょ」

「そうだけど……」


相手は優勝校だし、しかも私立。

試合出場の権利を得るための倍率は、私たちと比べ物にならないくらい高い。

他のライバルに勝ち続けてきたからこそ、今日の対戦相手は画面の向こうで操縦桿を握っている。

でも、その座は危うい。蹴落とした相手に、いつ蹴り飛ばされるか分からない。

勝負の世界って、そういうものだから。


だから私もみんなに厳しくあたり、強くあろうとした。

全ては勝つため。例え部員が半数まで減ろうとも、だ。

昔の話。それが正解だったのかはさておき……少しだけ胸がキュッと詰まる。


「ちょっと可哀想になるね」

でも。

「同情しちゃダメだよ。勝負なんだから」

「分かったよ……」

というか同情してる余裕なんてない。

「死に物狂いで来るよ」

ただでさえ強い相手が、もっと本気になるんだから。


* * *


ラウンド立ち上がりから程なく、レーダー圏内に相手を捉えた。

向こうも見えているはずだ。でも中距離ミサイルを撃ってこない。


「戦い方を変えてきやがったな」


本来は先に見つけ先に撃つべきもの。教科書的にはそうあるべき。

先んじてミサイルを撃てば強制的に相手を動かせる。試合を動かせる。

その一手は限りなく有利。

でもここまでの9戦を踏まえて、今は必ずしも有効な戦術でないと判断したのだろう。


「クロスレンジに勝負をかけるつもりですね」

私も応じた。さらにセイバーが注意を呼びかける。

「各機、離れないで!カバーできる距離を!」

「了解です!」


相手の機体編成は1戦目と変わらない。

2機のEF-3k『ミストナイト』に、AX-35『ライトニング・アロー』、そしてAF-22『ファントム・ホーク』。

その編成が中距離ミサイル『アーバレスト』を使わないのなら、装備する特殊兵装は恐らく。


「ワスプが来るぞ!後ろを取らせるな!正面も論外だ!」


メイスの声を合図に、急速接近する敵から角度を取る。

機体を45度ロール、機首のピッチアップ。

ダガーも私に続く。

そこに敵機が張り付いた。

「ジャベリン、エンゲージ!剥がします!」

ダガー機の後ろに白い大三角形、ミストナイト。

その少し後方には、ややずんぐりした曲線を描く機影、ライトニング・アローが控えている。


進路反転。ミストナイトに狙いを定め加速。

敵機ロックオン。退避行動を促す。

これで相手はすぐ逃げるはずだ。すぐ剥がせるはずだ。

……違う。退避しない。

さっきまでと明らかに違う。やる気だ。


「ダガー!ブレイク!」


ミストナイトからミサイルの射出。多分、高性能誘導ミサイルのワスプ。

ダガーからフレアの射出を確認。

こちらからもワスプの射出。白い煙を噴き上げ、ミサイルが白い大三角に吸い寄せられる。

そこに、白煙を伴いながらオレンジ色の光の粒子がバラ撒かれる。

最初のアタックは双方の回避成功に終わる。


「ダガー無事?」

「うん、大丈夫!でもまだ狙われてる!」


三角翼の機体は悠々と旋回している。

私たちに背面を向け、次のアタックに備えている。

今時点、あの位置からダガーは狙えない。


ダガーに迫るのはライトニング・アロー。

位置が近い。急旋回し、機首を向ける。横向きの敵機、その進路上に機銃掃射。

相手は避けない。弾が金属を削る甲高い音がいくつか鳴った。

多少のダメージなど気にしない、ということか。

機体を上方向に向ける。ループを描き、反転。

ライトニング・アローを狙い直す。

曲線美の機体に向け、加速。


警告音。横っ腹をミストナイトにロックされた。

戦い方が変わっても『僚機を守る』という意図は健在か。


一瞬、レーダーに目をやる。状況を確認。


各機がそれぞれを狙っている。

ダガーが私の後方にいる敵機を狙えれば、狙い狙われのループになる。

でもダガーは回避に必死だ。

つまり白い三角形は今、フリー。誰からも狙われてない。攻撃は阻害されない。

先輩たちは少し離れた範囲で交戦中で、すぐには助けは期待できない。


「ECM!使って!」


叫ぶ。ダガー機のECM発動。敵2機がミサイル射出。私は急旋回を開始。

ほぼ同時に起きた。

ECMの効果で敵ミサイルは標的を見失い、青い空の彼方に消えていく。


ここで敵からのECCMが展開。

ダガーへの追撃が続く。

状況が変わらない。

いや、非常にまずい。

ミサイルの数よりフレアの弾数は少ない。単純な算数だ。

2機からのミサイルを受け続ければ、必然的に撃墜される。


相手はさっきまで、私たちのロックオンに反応して回避行動に入っていた。

でも今は違う。殺意が違う。リスクを負ってでも刺しに来る。

執念。その言葉がふさわしい。

『お高く止まるのは終わりだ。2機で1機を落とす』

そう言いたいのだろう。よく伝わった。

向こうは生存が懸かっている。必死だ。


ミサイルの曳光とフレアによる光の粒子が度々交錯し合い、とうとうミサイルの1つがダガー機に突き刺さった。

ECMの恩恵と僚機と回避兵装を失ったことで、私のアイアン・タロンもあえなく撃墜される。

そして。


「くそ、やられた!」


少し離れた空域から、メイスの悔しがる声が聞こえた。


生き残ったセイバーが辛うじて避け切り、復帰した私たちが大した活躍もできないところで、1ラウンドが終了。


* * *


「2番機から回避のクセがなくなった。向こうも覚悟が決まってやがる」

2ラウンド目に向けたセットアップ。

1ラウンドを取られはしたものの。

「面白くなってきやがったぜ」

「うんうん、楽しくなってきたよ!」

私たちの闘志は衰えていない。


「4機でカバーし合おうよ!」

勝つための話し合いが、インターバルで自然と湧き上がる。

「私はアーバレストに変えるよ。離れてても助けられるから!」

セイバーはやっぱり活き活きしてる。声の様子が明らかに楽しそう。

「みんなを守っちゃうよ〜!」

「分かった。ダガーはデコイを使え。あたしがECMを持つ」

「了解です!」


4機での連携を強める。次のテーマはそれだ。それなら。


「じゃあ私はヒュドラでいきます。射程もあるし、まとめて狙えるし、カバーに有利です」

「待て。それじゃあ決め手に欠ける」

「それは……そうですけど」

じゃあどうするのか、と言おうとしたところで。

「このままワスプを持って」

セイバーに先に言われた。

「頼んだよ、ジャベリン!」


あと1勝。勝利条件は、残り2ラウンドを取ること。

敗北も引き分けも許されない。

その状況で、敵を落とすのに最も有効な兵装を私が装備する。

決戦の一打が私に託されたことになる。


心臓の鼓動が速まる。喉の渇きを感じ、唾を飲み込む。

悪い気はしない。何だか口元が自然と緩む。

身体の奥が熱くなるよう。でも、頭の中はクリアだ。


「了解。撃墜します!」

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