40話 ぶちのめすんです!
画面は既に兵装のセットアップ段階に入っている。
各自が装備すべきものを手短に指示し、作戦概要を簡単に伝える。
「相手は敵を倒すことより、『負けないこと』に重点を置いてます。
特に、セイバーを必要以上に警戒しています」
「え、そうなの?」
「根拠を言います」
思いつきのハッタリ大作戦といえども、
そこだけは唯一絶対、自信を持って事実と言える。
「レーザーで削られたのはブラボーチームなのに、チャーリーもデルタも、セイバーに狙われた瞬間に回避に入っていました。
狙われて回避に入るのは敵の基本ですが、回避行動までのフレーム数が明らかに違います。もはや異常です」
「そっか~。だから当てられなかったんだね~」
「で、それが分かったところでどうするんだ」
「なので」
なので……どうしようか。返答に少しだけ詰まった。
でも行くしかない。次の言葉をひねり出す。
「セイバーに大暴れしてもらいます」
「待て!だからそれは……」
案の定、メイスからの突っ込みが入る。だから。
「違います!」
言い終える前に、即座に反論する。
「違います。セイバーは囮です。絶対に落ちないデコイです」
これが作戦の核。……ということでいいだろう。
「セイバーがターゲットAを狙えば、Aは回避し僚機Bがカバーに入ります。
このBを狙えば、今度はAまたは別エレメントC・Dがカバーに入るわけですが。
C・Dは私とダガーが抑えます。その間、セイバーがA・B2機を交互に狙うことで混乱を起こします。そして」
我ながら良さそうに思える。
まだ戦闘前なのに頭の中はフル回転だ。
「混乱に乗じて決めるのは、メイス。あなたです」
「なんだと?」
「そのためにスウォームを持ってもらいました。
セイバーを利用して、あなたが敵を落とすんです!」
伝えた。作戦の大筋を言い切った。もう後戻りはできない。
ダメ押しだ。
「間違えました」
ここはメイスの言葉を借りることにする。
「あなたが、ぶちのめすんです!」
* * *
まずは戦闘前のデモ映像。ここで可能な限り情報を拾い、予測を立てる。
聖フィオーレ学院特有の、白い4機編成。
うち2機はEF-3k『ミストナイト』。
無尾翼の描く巨大な三角形のシルエットが目立つ。
細長い機首や白い機体カラーも併せて、紙飛行機を彷彿とさせる。
射程の長い中距離ミサイル『アーバレスト』で押す意図だろう。
残りの2機は、
ECM要員であろうAX-35『ライトニング・アロー』。
対エース要員であろうAF-22『ファントム・ホーク』。セイバーと同じ機体。
どちらもコクピット後方両脇のやや角ばったエアインテークに、滑らかな曲線のボディが特徴。
似た形のステルス機だ。
ファントム・ホークがよりシャープで、ライトニング・アローは少しずんぐりむっくりな印象。
エンジンが双発か単発か、の違いもある。
1ラウンド目の開幕。
程なくしてレーダーに機影を捉える。相手は11時方向、1時方向に開こうとしている。
アーバレストの射程ギリギリで、私たちを十字砲火で狙い撃ってくる意図だろう。
「私はどうすればいいの?」
「セイバーは何も考えず突っ込んで下さい!」
「了解~!じゃあ11時!行ってきま~す!」
「メイスはセイバーに続いて!」
「了解だ!」
セイバーの突進によって、中距離ミサイルで先手を撃つという相手の意図は崩れた。
何も考えず突っ込んでくる相手なんて、本来なら華麗に対処できるだろう。
でもそれは、相手が規格外のエースパイロットでなければ、の話。
「反対側の2機を押さえます。ダガー、方位060!行くよ!」
「うん、了解!」
1時方向から2時方向へ展開する敵を、私たちは迎え撃つ。
私たちは、射程外から襲ってくる敵のアーバレストに付き合わなければいけない。
ただでさえ格上の相手、気を抜く暇なんてない。
つまりセイバーたちの動きを悠長に目で追う暇はない。
レーダーだけ確認。
セイバーたちは敵と交戦開始。あとは信じる。
そのレーダーが直後、真っ白に変わった。
「敵ECM発動!私も使いますか?」
「ダガー待って!メイス、レーダーなしでも、しばらく敵を追えますか?」
「OK、目視圏内だ」
そこに、ミサイルアラート。
「ジャベリン!来たよー!」
ダガーからの呼びかけで慌ててフレアを撒き、散開。
ダガー機が雲を引いた。
敵ミサイルは2発。私とダガーをそれぞれ狙ってきた。
その航跡は、フレアに吸い込まれ爆散。
「ありがとう、助かったよ!」
レーダー使用不可の状況下でも、目で警戒してくれたダガーに感謝。
第一波は凌いだ。
セイバー、メイスが優位になれる時間帯を少しでも作りたい。
そのためにECM発動の時間をずらしたい。
当然その分、私たちの危険度は跳ね上がる。
でも、これくらいのリスクを侵さなければ勝機は掴めない。
「敵、狙えそうですか?」
敵の動きを目で追いながら、メイスに声をかける。
「くそ、ダメだ!速すぎる!」
「敵の回避には、規則性があります!」
「なに?」
正確には『あったらいいな』と思っている。
事実と願望が混ざるのは危険。そんなこと分かってる。
それでも。
「メイスならできます!観察して下さい!」
「ジャベリンまた来た!」
ダガーから再び警告。アーバレスト第二波。私も捉えた。
同時に、機影1が私に接近中。角ばった、少しずんぐりした白い機影。ライトニング・アローか。
「絡まれた!」
「ECM展開します!」
レーダーのノイズが回復。ほぼ同時に、敵のウェポンベイが開いた。
ミサイルの曳光が迫る。
「忙しいのに!」
愚痴のような言葉を吐きながら急旋回を開始。45度にループを描きながら降下。
「ジャベリンは回避に専念して~」
「何とかします!セイバー、メイス、お願いします!」
いよいよ先輩たちを気にかける余裕はなくなってきた。
この敵ライトニング・アローに反撃したい。
ロックオンを狙ってライトニング・アロー後方の単発エンジンを視界に捉えに行く。
ワスプを叩き込んでやる。
でもミサイルアラートが鳴った。敵アーバレスト第3波。来る。
ライトニング・アローへの追跡を断念。
急ぎフレアの射出。機体を背面までロール。機首を上げ一気に加速。急降下。
アーバレストはこれで回避できる。一方、ライトニング・アローの滑らかなシルエットが後ろに付いてくる。
「ロックされた!」
ロックオンのアラートが焦りを加速させる。コントローラが手汗で湿り気を帯びている。
でも生き残らなきゃ。メイスがせっかく1機を落としても、私たちが落とされたら意味がない。
背後を振り返る。ウェポンベイに内蔵されているはずのミサイルが、機体下部にずらりと並んでいる。
『モード・ビースト』。大量に撃ち込むつもりだ。一気に口の中が乾くのを感じた。
「FOX2!だよ!」
後方の敵機の横っ腹へ、2の白煙が迫った。
ダガー機からのヴァイパーが2発。
アラートが鳴り止んだ。ライトニング・アローが旋回開始。武器を格納するのが見えた。
「ありがとう!助かったよ!」
「でも狙われてるー!」
今度はダガーに曳光が1つ、急速接近。
その奥には大きな三角形を持つ白い機影。
今度は私が妨害に入る。進路反転、機首を白い三角形に向ける。このまま突き上げてやる。
ワスプ射程内まで加速。
ロックした。けど、撃つ間もなく回避行動に入られた。相手は機体を傾け、斜めに上昇。
その私の8時方向。またライトニング・アローが迫る。
背後に回られないよう、10時方向へ旋回。敵との角度を大きく取る。
目まぐるしい。
「やつらに規則性はないかもしれねえな」
なんとか敵の猛攻を捌いている中、メイスが淡々としたトーンで告げる。
やっぱり、ないか……。
落胆。緊張が途切れそうになる。
言ってみたはいいものの、そんなにうまい話は……。
「だが」
メイスが続けた。
「コイツのクセは分かった」
「ええ!?ほんとですか!?」
「なんでお前が驚いてんだよ」
驚きのあまり、ロックオン状態でもなんでもないヴァイパーを1発射出してしまった。
当然誰に当たるでもなく、空の彼方に吸い込まれた。
「敵ECM、そろそろ効果切れです!」
「OK、あと3秒ってとこだ」
私の驚きをよそに、ダガーがECMの残り時間管理をしてくれていた。
自身はECMを使用していないのに、さすがメイス、有効時間が染み付いているようだ。
「チャンスだ。ターゲットはエコー2。回避は右方向へのスライスバック!こいつを叩く!
セイバー頼む!」
「2番機だね?おっけ~行くよ!レーザー照射!」
「来たぜ、狙い通りだ!」
メイスたちの様子を目で追う余裕はない。
レーダーと2人の声から、状況を知るしかない。
私たちは目の前の2機に集中する。
「2機が進路変更!セイバーたちに!」
危機を察知したのか。救援に向かうつもりだ。
「させない!ダガー、追うよ!」
「うん!」
私たちに背を向ける敵2機を追う。
敵のエンジンから青い炎を吐き、翼が空を裂き白い蒸気を残していく。
背を向けた。今なら叩ける。こちらも全速力。アフターバーナーを全開。
2機を追い背後からワスプを射出するもフレアに阻害され、あえなく回避された。
それでも、敵に急旋回を強いた。合流を阻止したことは大きい。
「喰らいやがれ!」
ここでメイスがスウォームの射出。
レーダー上に4つの光点が走る。
視界の先でも、4つの航跡を確認した。
「まだだ!」
……いや、4つじゃない。6つだ。
4連装のミサイルを放ったすぐあと、メイスが兵装を切り替え、ヴァイパーを2発射出した。
「何が何でも敵を落とす」という意図。まさに執念の6連撃。
敵のフレア射出が見えた。
航跡の5つはフレアに吸い込まれたものの、1つは敵に突き刺さった。
この距離からでもハッキリ見える。オレンジ色の光、吹き上がる黒煙、飛び散る大きな三角翼。遅れて届く爆音。
今日の試合を通して、初の直撃。初の撃墜。
「ナイスキル!メイス!」
私は渾身の声で叫んでいた。




