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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
6章 練習試合

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38話 お願いします!

VRヘッドセット越しにも分かる、部室内の沈んだ空気。

でも相手は待ってくれない。

反省の時間も、立ち直る時間も、作戦を立てる時間も与えてはくれない。

相変わらずよく通る声が、スピーカの向こうから淡々と告げた。


「次。ブラボーチーム、出なさい」


勝利を収めたアルファチームに労いの言葉をかけることもなく。


「待て!感想戦がまだだ!」

「こちらで勝手にやるわ。次よ。始めましょう」


蘭花の意見も聞くことなく、

感想戦を行うこともなく、

流れ作業のように進行していく。


試合開始前の機体や兵装選択画面が、目の前に展開されている。

このあとはすぐ、第2陣、ブラボーチームとの対戦が始まる。

相手の連携をどう切り崩すか、落ち着いて話し合う暇が取れない。

今この瞬間を。機体と兵装選択に許された僅かな時間を有効活用するしかない。


「ごめんなさい、私……」

「大丈夫だよ。まず生き残ることを考えよう」

さっきの戦いで2ラウンドとも真っ先に落とされたひばりと、続いて狙われ撃墜された私。

だからあまり偉そうなことは言えない。でも、何か言わないと。切り替えないと。

室温は高いはずなのに、手足が冷えるような感覚。身体の奥が震えるようだ。

自分の呼吸が浅いことに気づいた。意図的に、大きく息を吸って、長く吐く。


「風咲の言う通りだ。あたしがECMを持つ。ひばりはデコイを使え。自分と風咲を守れ」

「は、はい!」


防御寄りの兵装選択。

ホログラフィック・デコイなら、数秒の間目眩ましが可能だ。

本体の位置を機銃で狙われなければ、という前提はあるものの。


問題は攻撃面。


「あれだけすぐに逃げ回られると、なかなか当たらないよ~。どうしよっかな~」

「ワスプを持ちます。1機だけでも確実に……」

「うん、今回はそれで行ってみようか」

「月子さんは?」


月子の乗るAF-22ファントム・ホークは特殊兵装として、中遠距離ミサイルのアーバレストの他に、高性能誘導ミサイルのワスプ、そして無誘導兵器のパルスレーザーの3種類を装備可能。この3種類から1つを選択するわけだが。


「あんまり得意じゃないけど。たまにはレーザー使おうかな~」


彼女が選択したのはパルスレーザー。高速どころか光速の兵器。

ゲーム内では速度が設定されているため、亜光速とでも言うべきか。

射程が短く威力は低いものの、射線さえ合えばヒットする。

「当てに行く」こと、それが次のラウンドのテーマとなる。


* * *


ブラボーチームの編成はアルファチームと少しだけ違うが、意図は同様で、明白だ。

EF-3k『ミストナイト』が2機、遠距離戦でアーバレストを担当。

AX-35『ライトニングアロー』がECM担当。

近距離戦になだれ込んだとき、RF-29『ブラックマンバ』が火力を担当する。


「まずは遠距離戦を凌ぐよ!」

「10時と2時、2手に分かれてます!」

「撃ってきたぞ!狙われてる!」

「わ、私もです!」


まずは遠距離ミサイル・アーバレストにどう対処するか。

今の私たちは撃ち返すことができない。全ての兵装の射程外だから。


「落ち着いて、無理な旋回はしないでね」

最初は耐え凌ぎながらエネルギーを温存する。

「距離がある。ダガー、高度を下げて回避だ、あたしを真似しろ!」

「はい!」

「あたしらは回避に専念する。ジャベリン、動きを読んで伝えろ」


HUDに映るレーダーから、敵機を示す三角形を見る。

左右からの十字砲火。射出した2機は少し角度を変えて進行。

距離を保ったまま。

敵の三角は、回避行動中のメイスとダガーに向きを合わせつつある。


「第二波来ます!気をつけて!」

「第二波を待つ必要はないよ。ジャベリン、付いてきて〜」


おもむろに、セイバーが加速。進路は9時方向を飛ぶ敵エレメント。


「妨害しちゃうよ~!」


敵もすぐに察知した。ミサイル第二波を撃たず、方向転換。


ここでレーダーにノイズが走る。

敵のECMが作動した。


「こっちも使うぞ、ECM」

「メイス、もうちょい待って~!タイミングをずらすから!」


今は敵をロックできない。でも、目視している。

セイバーの持つ無誘導兵器なら、視界に入れてさえいれば問題ない。


「レーザー射程内!いっけ~!」


眼前の2機はすぐに散開を開始。それでも、削った。

貴重な先制ポイントだ。


散った2機のうち1機、遠距離攻撃要員のEF-3kに進路を合わせる。


「逃げられちゃった。そっちは平気?」

「平気じゃねえよ、ECM使うぞ」

「またミサイル来ました!デコイ出します!」


平気じゃないと言いつつ、被弾は最小限に抑えているようだ。

白く塗りつぶされたレーダーが回復した。

すぐさま敵機を狙いに行く。2時方向。でもロックオン圏内に入ったと思ったら、すぐ外されてしまう。

同時に、もう1機のRF-29がすぐさま圧力をかけてくる。

そこにセイバーが攻撃を仕掛けようとして、敵はまた回避行動に入る。

その回避の先を私が狙い……この繰り返し。

最初の先制点を除いては、互いにスコアが取れない。


「なかなか反撃ができねえ。だがこっちはしばらく引き付ける」


状況はメイスたちも一緒だ。

いや、むしろ防戦一方な分、旗色が悪い。


「目が回りそうだけど。まだ持ちそうです!」

「そっちの2機を頼む!」


当人たちの闘志は衰えていない。

だからダガーとメイスの言う通りに、目の前の敵に専念する。


兵装をワスプに切り替える。

でも高性能誘導ミサイルといえど、ロックオンできなければ意味がない。

ロック圏内に捉えるんだ。読んで。先回りして。

一度息を短く吸う。短く吐く。

レーダー上と目視で、状況を観察する。


敵の意図は至ってシンプル。徹底した危機の排除だ。

私を狙いに来るが、何かあれば即座に退避。

僚機がカバーに入り、また私が狙われる。


敵をロックして攻撃を仕掛けようとしても、ロックオン状態を必殺の距離・角度まで維持することが困難。

ここまで、まともにミサイル射出ができていない。


でも相手にとってのイレギュラーは、セイバーが装備する光速の兵装。

『射線を合わせれば被弾する』性質を、相手はあからさまに嫌がっている。


それなら、更に嫌がらせをするまで。

セイバーの射線上に追い込むんだ。


「敵のECM切れまで、あと5秒ってとこだ」

「了解だよ~!行くよジャベリン!」

「チャンス到来、ですね!」


1機に狙いを付ける。3時方向を旋回中のRF-29。

急旋回し、加速。横っ腹を抉るつもりで。

高負荷なGの演出でコントローラが震え、視界の四隅が暗くなる。

すかさず、相手も方向を変える。上昇。

レーダーが機能を停止していても、さすが強豪だ。

たぶん目で見られている。

一瞬にしてロックオンを断ち切られたが、辛うじてワスプは射出した。

同時に相手のフレアも確認。速い。

ミサイルはあえなくフレアに吸い込まれ、何も無いところで爆散。

ターゲットはS字を描くように進路を転換。


後を追う私の8時方向から敵機EF-3kが接近。

カバーも速い。

でも相手のレーダーは妨害されている。ロックオンはできない。

できることは接近しての機銃。斜線に注意すれば大きな脅威ではない。

前方の敵を追いながら、後方の敵を引きつける。

いい状況だ。これなら!


「お願いします!」

「おっけ〜!」


後方の機体の背後は、セイバーが狙っている。

相手にとってレーダーが使えない状況下。そこにアラートすら鳴らない無誘導兵器。

後方から、甲高い音が鳴り響いた。敵機は急旋回で退避するものの、削った。僅かな追加点。


「ナイスです!」

「落とせればよかったんだけどね。避けるの速いよ〜」


レーダーに視線を向ける。

1機、私に向かっている。その後方に敵の僚機が続く。

もう一度同じような展開になるだろう。


でも再度組み合って分かった。レーザーを警戒して余計に退避が速くなった。

削りすらさせない。そんな意図を感じる。


一方で。相手の動きを観察し起動を読む。しかも普段よりも速い相手。その繰り返しだ。自分でも分かった。呼吸が浅くなっている。


スコアは僅か優位。このまま逃げ切った方がいいのでは。

そんな考えが頭を過ぎる。


「ジャベリン!ブレイク!」


後方から来ていた。目に入ってなかった。

咄嗟にフレアの射出とハイGターン。

直撃は避けた。でも爆風は機体を掠めた。


セイバーが稼いだ削り点は、これでチャラになってしまった。

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