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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
6章 練習試合

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37話 嘘でしょ

VRヘッドセットを装着して、ゲーム機の席で待機中。

月子も蘭花もひばりも、スタンバイ中である。

目の前に広がるVR空間は、ハンガーの様子を映し出している。

手を伸ばせばアイアンタロンに触れられそうな錯覚を起こすが、

実際には空気にふれるだけで感触はない。


他の1年生たちと山本先生は、ゲームの様子を映し出すモニタの前で試合開始を待っている。


扇風機が温い風を押し出している音だけが響く。


通話開始時刻の09:00まで、あと3分。

ポロンと効果音が鳴った。

対戦相手が通話に参加したことを意味している。


「都希乃、今日はありがとう!」


まずは部長の月子から、相手に挨拶。


「馴れ馴れしくしないで、女王クイーン


それが私たちが聞いた相手の第一声。

マイク越しでも通る声に、思わず背筋が伸びる。

凛とした、という表現が相応しい。


桐崎都希乃。

去年の王者。当時、2年生ながらにチームを率いて優勝に導いた絶対的エース。

月子のことを女王と呼びつつも、

自信に満ち溢れた声は、むしろ己が女王として君臨していることを感じさせる。


月子の弾むような声と桐崎さんの淡々とした声が交互に飛び交い、今日の流れの確認作業が進んでいく。

相手の他のメンバーはミュート中か。


この通話の向こう……電気信号の向こうには那由多がいるかもしれない。

いないかもしれない。

……いやいや、集中しなければ。


部長同士の簡素なやり取りが終わって、さあ試合開始というところで。

「去年のあたしらと同じと思うなよ。去年の雪辱を晴らしてやる」

蘭花が会話に割り込んだ。


「威勢がいいわね。結構だけど、勘違いしないで」

その蘭花に対して、桐崎さんが突き放すように告げた。


「今日の相手は私たちじゃないわ」

「なに?」

「控えの部員たちよ」


ヘッドセットを外し机に置く音が聞こえた。

そして、密やかな話し声。


「おい、どういうことだ。話が違う」

「え~、2軍とならOKって言ってくれてたし」

小声でのやり取りだけど、狭い部室内だから十分聞き取れる。


「不満かしら」


その声は相手にも聞こえたらしい。


「退屈はさせないわ。その辺の地方大会なら優勝を狙える力はあるもの」


「す、すごい自信だね……」

隣に座るひばりが小さく呟いた。

ここまで自信満々に言い切られると、「そんな馬鹿な」と思う余地すらなくなる。

でも。


「うちの部員たちはお上品すぎるのよ。

 たまには弱小校のハングリー精神を体感させないと。実戦で足元を掬われるわ」


今、「弱小」と言ったか?私たちのことを?

私たちはいざ知らず。去年の全国大会3位を勝ち得た先輩たちのことを?


「舐めやがって」


私の目の前には相変わらずハンガーが映っている。だから蘭花の様子は見えない。でも表情は容易に想像がつく。


「うちの控えは5チーム。それぞれ2戦してもらうけど」


ヘッドセットから聞こえる相手の声は、相変わらずの調子だ。

蘭花の反応など意に介さないまま。


「万が一あなた達が勝ち越すようなことがあれば。1ラウンドくらいなら相手してあげてもいいわ」

そう付け加えた。


「時間が勿体ないわ。アルファチーム、出なさい」


通話はいったん終了。

機体編成や特殊兵装のセットアップに入る中で、やっと喋れるのと、先輩たちを小馬鹿にされて収まりが付かず、思わず口が開いた。


「引きずり出しましょう!1軍を!」

「当たり前だ!ぶちのめすぞ!」

「まあまあ、勝ち負けは関係ないよ。胸を借りようよ」

「うるせえ!負けていい勝負なんかねえんだよ!」


月子には悪いけど、ここは蘭花に賛成だ。

私にも明確に、勝たなければいけない理由ができた。


この前読んだwebニュース記事によれば、『地方大会で優勝したメンバー』の機体に無限のマークが描かれていた。

『セント・ローズ』というチーム名が彼女たちの1軍メンバーを示すなら、これから戦う2軍チームたちに勝たなければ、那由多との再会は叶わない。


さっきの桐崎さんと月子との打ち合わせで聞こえたけど、今日は大会ルールに準じたレギュレーション。

つまり1ラウンド8分の2ラウンド先取。ただし3ラウンドで決着しなければ引き分け扱い。サドンデスの4ラウンド目は発生しない。

単純化すれば、3チームに勝てばいい。決して悪い話ではないはずだ。


……いや、そんな弱気な計算に何の意味がある。全チームに勝つんだ。


でも。

『2軍であっても優勝を狙える』と豪語した、傲慢とも呼べるその自信。

試合が始まった途端に、それが誇張でも何でもないことを思い知らされた。


* * *


「ごめんなさい!やられました!」

「大丈夫!落ち着いて~」

「くそ、ECMが潰された!敵を見失うな!」


試合開始早々の遠距離戦。

続けざまに飛来するアーバレストの1つがダガーに刺さり、爆ぜた。

それはつまり、ダガー機から発していたECMポッドの妨害電波が機能しなくなったことを意味する。

敵のECMだけが有効に。レーダーが白く塗りつぶされる。


「ジャベリン、離れるな!狙われるぞ!」

「分かってます!10時方向、来ます!」


孤立しないよう、近づきすぎないよう、セイバーとメイスから少し離れて後方に付く。

その横腹から食いついてきた。


「カバーするよ~、任せて!」


ロックされたと思ったけど。

相手はセイバーに狙われると察するや否や、即座に方向転換。


「あ、逃げた~!」


ロックオンのアラートはあっという間に鳴り止んだ。


「判断が速いな。追うか?」

「深追いは危険ですよ!」

「じゃあ、メイスに代わって暴れてくるよ~」


敵は、そんなセイバー機からは逃げの一手。

蜘蛛の子を散らすように。敵の各機が散開する。


「バラけた!チャンスです、行きます!」


その散った1機を狙いに進路を取る。

加速。アフターバーナー点火。

でもすぐに、再びロックオンアラートが鳴る。

いや、即座にミサイルアラートに代わった。


コントローラのスティックを強く押し込む。

フレアの射出。同時に急旋回。後方から迫るミサイルに背を向けるよう弧を描く。


『何が何でも僚機を守る』、相手からそういう意図をひしひしと感じる。

敵ヴァイパーはフレアに吸い込まれたものの、まんまと引き剥がされた。


レーダーを確認。

まずい。ただ引き剥がさたんじゃない。

攻撃に転じられている。

2機が私の後方に付こうとしている。


早速、次のミサイルアラートが鳴った。

僚機を失った私に、追い打ちの波状攻撃が仕掛けられている。


「う~ん、当たらないよ~」

「すまねえ!こっちも張り付かれてる!」

「持ちこたえます!」

「ご、ごめんなさい!もう少しで戻ります!」


ダガーが復帰するまでの間にフレア残数が0に。

やっと合流できる……と思った矢先に、とうとう私の機体に敵のヴァイパーが突き刺さった。


悔しさが胸いっぱいに広がりながらも、ヴァイパーもヒュドラも相手に届くことはなく。

互いが役割を発揮できないまま、アルファチームとの戦いはあっさりと2ラウンド先取されてしまった。


「嘘でしょ……」


呆気に取られたまま呟いた香取の声が、ヘッドセットの外から聞こえた。

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