表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
6章 練習試合

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/45

36話 どうでしょう

「今日はありがとうございました!ほらほら、みんなも挨拶して〜!」

画面の向こうの対戦相手に月子が頭を下げながら、私たちにも挨拶を促す。

私たちはカメラがなくて音声通話だから、お辞儀をしても相手に見えないけれど。


通話終了を示す短い電子音が鳴ったところで、月子が短く息を吐いた。


「いい部長っぷりだったぞ」

「からかわないでよ〜」


6月。

ゲーム機やモニタやPCの排熱が、部室の気温をしっかり上げている。

扇風機の出力全開にしても、汗が滲み出る。

冷感シートで額を拭き、除菌シートでコントローラを拭く。いつもより丁寧に。


夏の大会に向けてチームとして再始動した私たちは、他校との練習試合を行うことになった。

といっても、相手の高校に赴くわけではない。

試合がオンラインで完結するのもゲームの強みである。

eスポーツの場合は学校に十分な設備がないことも多く、双方の学校にわざわざ赴くメリットがない、と言った方が正しい。

他校のアウェイ感、普段の環境と違った緊張感も嫌いじゃなかったけど。

残念なことに、いつもの狭い部室から移動することはなかった。


練習試合のセッティングは先生がしてくれたものと思っていたが、月子の交渉によるものらしい。

中学時代のバスケの練習試合は、顧問の先生が決めていた。

高校生ともなると、こんなところも自分たち主導で進めるんだ、と素直に感心した。


「しかし、こう言っちゃ何だが……」

「なんだか申し訳なかったですね」

「圧勝でしたものね」

蘭花が言い渋ったところに、ひばりと私が順に続いた。


去年の全国大会3位のチーム。

ギャラリーやメディアを沸かせた撃墜女王率いるチーム。

そこから練習試合の誘いが来たら、相手はどう反応するだろうか。


手の内を明かしたくない、自信を砕かれたくない、と強烈な拒絶を示す。

あるいは「あの強豪に挑める」「せっかくだから全国レベルを体感したい」と、

半ば記念受験のように快諾する。

反応は2極化した。


「ランク制は偉大ですね」

「野良だとフィードバックがなあ」


固定の相手と密に感想戦ができるのが練習試合の強みだった。

よりレベルの近い相手がいれば、双方もっと有意義に時間が使えただろう。

野良試合はほとんど同じレベルの相手と戦う仕組みだけど、一期一会だ。


近いレベルといえば、

春大会で苦戦したクロウラー、私たちを破ったセレスティアルが頭に浮かぶ。

でも2校とも、オファーを出したあと10分も経たず断りの連絡が届いた。

夏の大会で再戦する相手に手の内を明かしたくない。当然の判断だ。


「県内じゃなくて、他県の学校にも当たってみるよ〜」

「そうだな。頼む」

「みんなは、どこが強いか知ってる?」


香取と野田からは、全国大会に複数回出場した高校の名前が挙がる。

5年前の第1回大会から去年の大会まで、すごい情報量。頼りになる。


成田や市原からは「最近調子がいい」と言われている学校の名前が挙がる。

鴨川と佐倉は、尖った戦略が注目を集めて「ネットで話題になった」学校を挙げている。

必ずしも強いとは限らないと、蘭花に一蹴されているけど。

彼女たちらしい着眼点。


私もひばりも他校の情報には疎い。

でも、この流れなら言える。


「えっと、じゃあ……」


個人的な目的で申し訳ない気持ちはあるけど。

あの記事には『地方の大会で優勝した』と書かれていた。

実力は申し分ないはずだ。筋は通るはずだ。


「セント・ローズなんてどうでしょう」


和気あいあいとした話し合いがピタリと止まった。

みんなの表情がそのまま固まった。

視線だけが私に向けられる。


急激な場の変化に戸惑っていると、不意に蘭花の眉間にシワが寄った。


「お前……それがどこか分かって言ってるのか?」

「どこ……?」


しまった。チーム名しか見ていなくて、高校名を見ていなかった。


蘭花の声は低く落ち着いているが、目線は真っ直ぐ私を捕捉している。

いつでも狩猟できるという圧力を感じる。

思わず唾を飲み込む。


そんな私のジャージの端をひばりが掴んで、軽く引っ張った。そっと耳打ちをする。


「聖フィオーレだよ。去年の優勝校。先輩たちの因縁の……」

「も、もちろん知ってますよ!聖フィオーレです!去年の優勝校!先輩たちの因縁の……」

「理由を説明しろ」


間髪入れず次の追求が入った。

その細く鋭い目は、変わらず私を捉えている。

逃げたい。


「や、やっぱり!全国1位の実力を知りたいじゃないですか!」


何とか言い繕った。

蘭花は黙ったまま。私は身動きが取れないまま。私の表情はきっと、引き攣った愛想笑いで固まっているだろう。


「まあまあ、いいじゃない。聞いてみようよ」


その沈黙は月子が破った。この人はいつも緊張を壊してくれる。

安堵から長い息が漏れる。


「向こうも対戦相手に困ってるんじゃない?」

「あいつがあたしらに構うとは思えねえ。向こうにメリットはあるのか?」

「分からないけど〜。聞くだけならタダだから」

「……失礼のないようにな」


蘭花の視線がまた、私に突き刺さった。


「みっともねえ戦いしやがったら、承知しねえぞ」


* * *


1年生が集まって、試合のハイライト動画を視聴している。

流れているのは去年の全国大会のアーカイブ。

そのうち聖フィオーレ学院の試合の様子だ。


「出たよクルビット!」

「おお、かっけー!」

当然、対戦した月子たちの様子も映っている。


この戦いで『クルビット対策は確立された』と蘭花は以前語っていた。

月子のクルビットに合わせて、的確にミサイルが撃ち込まれていた。


「今の……ロックオン間に合ってなくない?」

「手動で合わせたってこと?すご……」


月子をして為す術なく撃墜されている様子が、その映像にはしっかり記録されている。


「これが『撃墜女王を撃墜した女』かー」

「何それ」

「相手のエース、桐崎さんのこと。この試合のあと、そう呼ばれるようになったのよ」

「でも、ほんとうにすごいのは組織力。高校Aces' Trail界の教科書とも言われてるねー」


月子1人を狙い続けたという試合。

いとも容易く撃墜を成し遂げているように見えて、よく見れば極めて組織的だ。

セント・ローズは、2機編成が入れ替わりながらミサイルで威嚇し、巧みに追い込む戦法が主流と見える。

追い込まれた先には、エース桐崎都希乃が操る1番機が待ち受けている。


「ほんとにこんなチームと試合するの?」

「なんだー?ビビってんのか?」

「お前は出ないんだから、イキるなよ」


思い思いに感想を述べつつも、別の事実も見えてくる。


「優勝校の割には動画再生数はそんなに多くないな」

「先輩たちとの試合と、決勝戦だけ、桁が違うね」


着目しているのは、再生数という別の数字。

強さとは必ずしも結びつかない別の要素。


「たぶん、こういうことだろ」

成田が聖フィオーレ学院の対戦動画の1つを開き、画面をスクロールさせて1つのコメントを映した。


『どうせセント・ローズが勝つんだろ』


みんなが「あー」と声を漏らした。


「教科書なんて、読んでてもつまらねーもんな」


鴨川は冗談のつもりで言ったのだろうけど、この場合は案外、的を射ている。


「『逆転劇もドラマ性もないからおもんない』かー」

「盛り上がらない……塩試合製造マシン……随分な言われようね」


どれも、優勝したチームに向けて言う言葉とは思えない。


「どう思いますか風咲選手!勝てますか?」


佐倉が軽く握った手を私に向けた。マイクを持ったインタビュアーのつもりだろう。


「分からないけど……基本に忠実で、ちゃんと強い。1番戦いたくない相手だよ」


下手な作戦は全て通用せず、実力差がそのまま試合展開に反映される。

試合がいつ公開処刑に変わるか、分かったものじゃない。


「あと、塩試合っていうのも分かるかも」


同格の相手なら、1点を大事にする堅実で地味な展開になるだろう。

格下の相手なら、ただ差が開くだけ。

大量の点差をひっくり返す、取って取り返しての戦術の応酬、そんな展開は起きようがない。

試合をショーとして見た場合は、面白いとは言い難い。


「月子先輩だけを狙ったり、月子先輩だけをスルーしたり。去年の先輩たちとの戦いはちょっと異質だったね」

「決勝戦は2ラウンド目を相手に取られてる。たぶんここだけだよ、セント・ローズが負けたの」

「だから伸びたのかも」


せっかく優勝したのに、視聴者からは否定的な意見が目立ってしまう。

異質な部分にだけ注目が集まる。当事者にとっては不名誉なことだろう。

たぶん聖フィオーレ学院の悲劇はただ1つ。

同レベル以上の相手がいなかったことだ。


* * *


「都希乃から返事あったよ」

月曜日。日課のトレーニングを終えて、皆が部室の扇風機の前を占拠し合っているとき。

月子がそんなことを言い出した。


「おっけー、だって!」

「マジかよ。あの堅物がよくOKしたな」

「次の土曜日だよ〜」


扇風機で涼むのも忘れて、立ち尽くした。

この瞬間、私にとって試合云々は関係なくなっていた。


あの子に……那由多にまた会える期待。

でも全然違う人だったらどうしよう。

ドキドキと、ソワソワと、緊張と、不安と。

そんな感情が入り交じってフリーズしそうだった。


* * *


この週はいろんなことが上の空。

凡ミスが多くて皆に心配されたけど。

過ぎてしまえば、あっという間。


金曜日もなかなか寝付くことができずに、

眠い目を擦りながら、土曜日の朝を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ