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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
5章 部内戦

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幕間05 潮見野高校競技ゲーム部の日常

潮見野高校競技ゲーム部。

我が強く個性豊かなメンバー揃いの1年生には、それをまとめる強力なリーダーが必要である。

私たちの間には、1年生の期待の星、エースオブ1年生ズである三条風咲をキャプテンと信奉する風潮がある。

私もそこには異論はない。強い者が上に立つ。必定。


しかし。


その1年生ズを裏から統べる陰のリーダーはこの私。

だったらいいな、と常々考えている。


風咲、成田、市原の3人は間違いなく実力者。

これらの怪物に勝てる気がせず、私は第一線から身を引いた。

今では、動画の分析や戦術の立案といった裏方仕事の担当である。


だが、この方が性に合ってるとさえ感じている。

我が頭脳を最大限に活かすポジションは、まさにここだ。まさに天職。

この頭脳を以て脳筋だらけの1年生ズを支配し、意のままに操るのだ。


自ら動くのは陰のリーダーの仕事ではない。

動かすのだ。他者を。


「かっちゃん、これバッテリ切れてるよ。充電しといてー」

「おい香取!もうSSDがパンパンじゃねえか。整理しろ!」

「香取ー!さっきの動画取っときたいから、いい感じに切り抜いといてー!」

「しまった。ホワイトボードのマーカーが切れていたよ。香取くん、すまんが補充をお願いできるかい」


……動かすのだ。他者を。


* * *


5月の春季大会に向けて、出場メンバーのTACネームが決まった頃。

風咲がその鋭い機動から『槍』と称されたことをきっかけに、

ジャベリンとダガーという名称が決まった。

先輩2人もルナー、オーキッドという名を捨て、

セイバー、メイスという新たな名が付けられた。


「メンバーが決まったらモチーフを統一したかった」という理由だった。


4人それぞれが武器である、という理由から

チーム名として武器庫『アーモリー』という名が付けられた。


このチーム名を提唱したのは私だということを、付け加えておく。


そう。アーモリーの名付け親はこの私。

和英辞典を片手に複数あげた候補の中で、これが最も好感触だった。

我ながら、いいセンスだ。


私が名付けたチームが全国大会に向けて飛び立つ……いいじゃないか。

心躍る。これぞ陰のリーダーの仕事だ。


さて。

TACネームという空での名前が決まったことで、

パイロット諸君の次なる関心は、その個人に紐付くマークにある。

いわゆるパーソナルマークと呼ばれるもの。

拘らないプレイヤーも多いが、

こと高校生大会においては、個人の象徴、ひいてはチームの、学校の象徴にもなり得る。

そのため、大会ではバリエーション豊かなパーソナルマークが入り乱れるのだ。


何よりテンションが上がる。

力の入れどころであることは言うまでもない。


「月子さんのマークは……猫ですか?」

「風咲、何言ってるの~。どう見ても兎でしょ!」


セイバーこと月子先輩には、去年から使い続けているマークがある。

本人は兎と言い張っているが……耳が丸く、ほんの少し長いかもしれない。

丸い鼻の下には、かわいい生き物の口元を表すオメガ記号。


このマークに描かれている生き物は一体何なのか。


撃墜女王に魅了された高校eスポーツファンの間でも、ここに関しては意見が割れている。

が、昨今では「あれは猫だ」という意見が支配的だ。

一部では「猫の女王」とひっそりと呼ばれているらしい。

それが実は兎だった。学会に衝撃が走ることだろう。


と、そこへ。

「先輩。兎はもっと……こうですよ」

長身で細身、細めの眼鏡を掛けている市原が割って入る。

市原はホワイトボードにササッと何かを描き始めた。


それを見た部員一同、感嘆の声が漏れる。


「絵。うまっ」

「私、中学では美術部でしたから。これくらいは」


描かれたのは兎のイラスト。

簡素な輪郭のみだが、特徴を捉えている。


長い耳に短い尻尾はもちろん。

跳躍を可能とする力強い後ろ足。

草食動物だから、目は前面ではなく外側に寄っている。

口元は安易なオメガ記号ではない。

鼻から口にかけてのラインは、オメガよりもむしろ、Y。


シンプルな線ながらも、記憶にある兎と照らし合わせ「兎ってこうだった」と納得させる力がある。

誰がどう見ても、これは兎だ。


「セイバー、つまり剣ということですので。先輩の名前の『月』もモチーフに反映させて……」

市原は空いたスペースに、別の兎を描き始めた。


後ろ足で大地に立ち、月に向けて剣を掲げている兎。


「こんな感じで、どうでしょうか」

「す、すごい!かっこいい!採用!ねえねえ!早速機体に描いてよ!」


月子先輩も興奮気味だ。

市原にこんな才能があったとは。私も驚いている。

それなのにゲームも上手いし身長も高いとか。

神は才能の分配を誤った。やり直しを要求したい。


「おい待て。市原。次はあたしだ」

今度は蘭花先輩がホワイトボードに絵を描き始めた。

「メイス、つまり鈍器だ。こんな風にしたいが、どう思う」


蘭花の絵は決して下手ではなく、ダイナミックな絵心を感じさせる。

細い持ち手。叩く側が太くなり、そこから多くの棘が伸びている。

力強いタッチで描かれるそれは。


「これ釘バットですよ。メイスというなら、もっと……こう」


またも、部員一同の感嘆の声が響く。

粗野な釘バットから一変。

気品すら漂わせる、ファンタジーRPGで見るような西洋の鈍器が描かれていた。


「先輩のお名前の、『猪』をお借りすると……」

今度は別のスペースに、がっしりしたキャラクターを描き始めた。

それはメイスを肩に担いで不敵に笑う猪のマークだった。


仮に私の画力が神絵師レベルだったとしても、

こんなデザインは思いつかないだろう。

蘭花先輩のキャラにも合致している。


「おお、やるじゃねえか!いいぞ、気に入った!」

何より、かっこいい。

蘭花先輩も嬉しそうだ。


「市原さん、私もお願いしていいかなあ」

「いいよ。ひばりは初心者だから……」


ヒヨコ。両方の羽の先に短剣を構えている。

モチーフは可愛らしいのに、表情は少しニヤリとしていて、何だか少し悪い顔をしている。

『近寄ると怪我するぜ』と、その顔が物語っている。


「じゃあ、私は?」

「風咲は名前に動物がないけど……機体のことを考えると、鷲かな」

今度は投槍。つまりジャベリンを爪で掴んだ鷲のマークが描かれた。

隙あらば鋭い機動で鋭い一撃を叩き込む。風咲の戦いを体現したかのようなデザインだ。


こんなにサラサラと多様なデザインができるなんて。

美術部ってすごいな。


「皆、これで大丈夫ですか?OKなら、一度スケッチブックにまとめるので」


市原は鞄を手に取り、中からスケッチブックを取り出した。

しかし、手が滑って床に落としてしまった。

私の足元に来たので、拾い上げて市原に手渡す。


……拾うときに、少し違和感のある絵が見えた気がした。


市原は慌てた表情を浮かべ、私の手からスケッチブックをひったくるように受け取った。

市原の表情が笑顔に切り替わり、感謝の言葉を口にするが

スケッチブックは胸の前で両腕で抱えている。


警戒心が行動に表れている。


* * *


ある日、市原が席を外しているときに

彼女の鞄から件のスケッチブックが覗いているのが見えた。


周囲には誰もいない。


私の中で疑念がムクムクと膨らみだした。

あのとき市原が大事に抱えていたスケッチブック。

拾うときにチラッと見えたもの。あれは……。


いや。そんなこと、あるはずがない。

あれは何かの見間違いだ。

そう言い聞かせつつも私の手はなぜか、スケッチブックの端に伸びるのを止められなかった。


恐る恐る手に取り、ページをめくる。

そこには……。


目を細め頬を赤らめる裸体の男性と、

それに絡みつくように腕を回し抱き寄せる別の裸の男性が描かれていた。


私は驚き手を離し、後ずさっていた。

スケッチブックが鞄の上に落ち、軽い音を立てた。


いやいや、そんなはずはない。

今のは見間違いだ。そうに違いない。

確認しなければ。


私は再びスケッチブックを拾い上げ、ページに手をかけ、一気にめくった。

するとそこには……。


目を細め頬を赤らめる裸体の男性と、

それに絡みつくように腕を回し抱き寄せる別の裸の男性が描かれていた。


「わあ!」


叫びながら手を離し、スケッチブックがまた市原の鞄の上に落ちた。

それを慌ててチャックの隙間から中に押し込む。


心臓がドキドキする。

汗をかいているのが分かる。

喉がカラカラになっていくのを感じる。


落ち着いて。落ち着いて、私。

見間違い。そう、見間違いよ。


もう一度。もう一度見れば全部ハッキリするから。


三度、恐る恐るスケッチブックに手を伸ばす。

部室のドア付近に人影があることに、私は気づいていなかった。


「……見たわね」


私の記憶はここで途切れている。

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