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蒼空トレイル-Aozora Trail-  作者: ふらっとん
5章 部内戦

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35話 寝不足です

またしても届かなかった。

せめて、あのとき動きを追わず警戒していれば。すぐに回避に専念していれば……。

前のように、何をされたのか分からず撃墜されたわけではない。

だから尚更に悔しい。


大きく息を吐く。頭が割れるように痛い。

他の2組との戦いも頭を使ったけど、この1戦は特別に思考を巡らせた。

虚脱感が身体を襲う。しばらく立てそうもない。


そんな私を見兼ねてか、ひばりがスポーツドリンクを手渡してくれた。さっき成田からもらったものだ。

残りを一気に飲み干す。深呼吸のように、長く息を吐く。


「2人とも、すっごく上手になったね!楽しかったよ〜!」


月子が立ち上がり、対面から私たちを覗き込んだ。

両手を胸の前に合わせ、いつものように微笑んでいる。

こちらは激戦のあとで疲労困憊だというのに。


「特にひばり!本当に強くなったね!」

「あ、ありがとうございます!」

「誰かさんに、勝っちゃったし」

月子は「ぷぷーっ」と声に出して、わざとらしく笑っている。

蘭花の顔がいつもより険しく、真っ赤に見える。


「おい」


その蘭花は座ったまま、低い声で、あくまでも落ち着いたトーンで問いかける。


「ブルーコメットではなく、ストームエッジを選んだ理由を説明しろ」

「はい。理由は2つ」

呼吸を整えながら、答える。

きっと理由も聞かれると思ったから、そこは準備してある。


「1つは、ひばりが強くなりたがっていたから、です」

だからこそ今日に向けて、新しい翼を手に入れた。

「ブルーコメットのスモークは強力な反面、本体の性能も他の特殊兵装も強いとは言えません」

だから新たな3種の特殊兵装を扱えるよう、練習を繰り返した。

「ストームエッジなら、敵を欺きながら戦えます」

ひばりが本来持つその献身の心を、味方を守るためだけでなく、

敵を騙しチャンスを得るためにも使う。

それが1つの解だ。今日、試合内容を以て示せたと思う。


蘭花は腕を胸の前で組んだまま、続けて尋ねる。

「だが、ストームエッジのECMはあたしと役割が被る。

 ルール上、ラウンド毎にECMは1つしか持ち込めない」

「それです」


ストームエッジの持つECMには、この前のセレスティアル戦で苦しめられたばかり。

でもこの機体の売りはECMだけじゃない。


「2つめの理由。ひばりを読み合いの核にすることができます」


その多種多様さも、今日の部内戦で示した。


「蘭花さんとひばり、どっちがECMを使うのか。その時点で読み合いが発生します」

試合途中で機体は変えられないが、ラウンド間のインターバルで兵装の変更は可能だ。

ここで読み合いの種まきができる。


「蘭花さんは攻撃役か、防御役か。

 ひばりはデコイを装備しているのか、シルフィードを積んでいるのか。

 ラウンドごとに、相手に択を強いることができます」

「おお、それは厄介だね~!」

「なるほど」


月子は楽しそうに私の話を聞いてくれている。

蘭花も納得したようだ。目を瞑り、頷いている。


「ECMとホログラフィック・デコイの防御型。

 あたしが攻撃に参加し、ひばりがECMを使う攻撃型。

 あたしがECMを持ち、ひばりがシルフィードを隠し持つ、騙し討ち型……」

「騙し討は強力だったね~!ね!」

月子は蘭花の顔を覗き込みながら、ニコニコというより、ニヤニヤしている。

「ねえねえ!どんな気持ち?」

蘭花はその額に素早くデコピンをした。月子がうずくまって額を押さえている。


私とひばりの2人のときですら、蘭花に読み合いの択を強いる作戦が機能した。

4人になったとき、さらに大きなシナジーを産む。

そういう算段だ。


ひばりが「強くなりたい」と願ったから、翼が新しくなった。

「一生懸命に頑張りたい」という願いをより適切に叶えられる形に。

その翼が、選択肢を増やした。

その選択肢が、チームの強さに繋がる。


月子には届かなかったけど……この考えの一端を、結果を以て今日の戦いで実証できたことが誇らしい。


「1週間もなかったのに、よくここまで仕上げたね~」

月子が額を押さえながら立ち上がり、涙目のまま私たちに微笑みかけた。

もちろん頑張った自負はあるけど、その分代償も大きい。


「ひばりと夜遅くまでずっと特訓してましたから」

「おかげで、寝不足です……」


この1週間は眠くて眠くて、授業が本当に辛かった。それに。


「……1週間、家でゲーム禁止を言い渡されました」

毎日遅くまでゲームをして遊んでいる……当然、母からはそう見える。

言い訳のしようもない。紛れもない事実だ。むしろ、1週間で済んだだけ良かった。

それでも。このペナルティを負ってでも、やれることを全部やりたかった。

『2人で一緒に強くなろう』って約束したから。


「まだだ」

蘭花は目を開き、静かに続けた。


「まだまだ、大会で通用するとは思えねえ」

蘭花が立ち上がり、刺すような視線が私たちを見下ろした。


「その3択、夏までに仕上げるぞ!」

口元を緩ませながら、力強く宣言した。


「約束しちまったもんな。夏のレギュラーは決まりだ。

 お前らも、文句はねえな」


蘭花は、今度は他の1年生たちを見回しながら告げた。

誰からも反論はなかった。


「ひばり」

蘭花が名指しで呼ぶ。


「よくも騙してくれたな」

「あ、あの……その……」

まっすぐひばりを見据えるその目線に、ひばりは俯いて黙ってしまった。

そのまま、3秒の後。蘭花はひばりに背を向けて、落ち着たトーンで呟いた。

「よくやった」

「は、はい!」


表情は見えなかったけど、きっと口元は緩んでいただろう。

ひばりは満面の笑みで答えていた。


* * *


特訓の弊害。今日から1週間、家に帰ってもAces' Trailをプレイできない。

今日のところは、倒れるようにベッドに飛び込んだ。

学校にも遅刻しそうになり、授業中は眠い目をこすり、部活が終わってから急いで家に帰り、ひばりと通話しながら深夜まで練習漬けだった1週間。

ペナルティは負ったものの、無理して特訓して良かったと今は思っている。


とはいえ……今まで日課になっていた自主練習ができないというのも、退屈だ。


「そうだ」


暇になってふと、蘭花から送ってもらったニュース記事のことを思い出した。

寝っ転がったまま携帯端末に手を伸ばす。


『強い1年がいるなら、メディアはほっとかない』


大会……1年……無限大のマーク……黄色……。


思い当たるキーワードで記事を検索してみたけど、

あの子についての情報は見つからなかった。


そう簡単には出てこないか。ガッカリというより、納得。


次の日以降も、

家でゲーム禁止の期間中は、ふと思い立ったときにキーワードを検索するようになっていた。


那由多が記事になっている保証はない。

どこに住んでるのかも分からないのに、本当に高校でeスポーツ部に入ったかも分からないのに。

そもそも、入学から1,2ヶ月程度で1年生が試合に出るわけないのに。

何をやってるんだ私は、と。

それでもニュースは毎日更新されるから。

SNSは毎日賑わっているから。

少しだけなら……。


そんな風に思いながらもニュースを検索していた、ある日のこと。


『あのリボン。見たことあるぞ』


SNSで、そんなコメントがヒットした。

付随する周辺のコメントが目に入る。


『セント・ローズに入った?』

『中学のガキに負けてたのか、わいは』


ドクンと。鼓動が跳ね上がる。


親記事のURLを開く。

そこに書かれているのは、とある強豪校が地方の大会で優勝を収めたという簡素な内容。

そこで活躍した1年生選手が、次代を担う注目選手として記載されれいる。

個人情報保護の観点から選手の実名は書かれていない。


試合の様子のスクリーンショットが何点か、一緒に掲載されている。

それらを順々に開きながら、手が止まった。


1年生ながら大会に出場し、優勝に貢献したというその選手について。

機体の尾翼には、見覚えのある無限大のマーク。

通称、『黄色いリボン』が描かれていた。

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