14 この小説は国立天文台におんぶにだっこです
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クルミ
「ねえ。その目、どうしたの?」
アルビレオ
「貴女には関係ないでしょう!」
器用さ (D)対抗ロール
クルミ
[3D6]+3 → [五、六、五]+3 → 19
アルビレオ
[3D6]+? → [五、二、六]+? → ?
【クルミ勝利】
クルミは問答無用でアルビレオが左目にしていた眼帯を剥ぎとった。
そこに青く澄んだ瞳はなく、あるのは灰色のガラス玉を思わせる無機質な光の残滓。
[魔法知識]:知覚(A)orオーラ(P)
(当たりをつけたことによりボーナス)
[3D6]+0-2+5 → [六、四、六]+3 → 19
≧TN:12
【成功】
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蒼の邪眼
自分よりレベルの低い生物の短時間の洗脳が可能
限界を超えて使用すると失明する
橙の魔眼
自分よりレベルの低い機械の操作に補正
限界を超えて使用すると失明する
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悲しい予感が当たっていることは直感的に分かった。
右眼は大丈夫なようだが、左眼の方は既に手遅れ、蒼く綺麗だった瞳はもう光を映さない。
アルビレオはもう不退転の覚悟を決めて、引き返せない場所まで突き進んでしまった。
クルミ
「ううん。私は七夕を壊そうとした犯人を捕まえる義務があるよ。アルビレオちゃんはどうして脅迫状なんて回りくどいことしたの?」
アルビレオ
「何? 探偵のつもり?」
自身が関わる正当性を説く。
今から白鳥の少女を傷つけないといけない。
既にアルビレオに勝ち目はなくなった。
それでも不敵に哂う。
しかし、その仮面は剥がれつつあった。
クルミ
「あれ、私たちを呼ぶためのものだよね」
アルビレオ
「……」
クルミ
「そのあとサドルと闘わせたのは私たちの力を測るため。ミルキィリザードとミルキィスパイダーにやられちゃうような人だとアルビレオちゃんの目的が達成できないもんね」
アルビレオ
「私はただ、織姫様と彦星様のために」
クルミ
「嘘だよ。だってそれならこんな回りくどいことしなくてもいい」
クルミ
「貴女は織姫さんと彦星さんがすれ違ってることに気付いてた。でも、表立って助ける訳にはいかなかったんだ」
アルビレオ
「違う!!」
クルミ
「違わない」
叫ぶ少女と冷静に返す少女。
どちらが真実を語っているかなんて火をみるよりも明らかだ。
クルミ
「織姫さんと彦星さんは別れない方が都合が良かったのは事実だけど、それは二人のためじゃない」
アルビレオ
「やめて」
クルミ
「二人が別れるならそれでも良かったんでしょ。そうじゃないとこんな穴だらけの作戦立てない」
アルビレオ
「やめてったら!」
クルミ
「もし別れたなら私達の所為にすればいい。言い訳が欲しかっただけ」
アルビレオ
「どうして! そこまで分かっているなら」
クルミ
「死なせない! 絶対に死なせない!!」
最後まで剣を向けることはしなかった。
できなかった。
危うさなら最初から感じていた。
ここまで後手に回ってしまったならできることはもうないのかもしれない。
でも、このままだとアルビレオは単なる罪人となってしまう。
真意を一人隠し、失敗した計画に殉じることになる。
クルミ
「……カササギちゃんのため、だよね」
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「アルビレオちゃんは去年の七夕でカササギちゃんが倒れたことすっごく気にしてました。でも、今年の様子を見る限り、倒れそうなほど忙しい描写はありません」
「なるほど。だから魔法の行使が相当負担を強いるものなんじゃないかと思ったんだ」
「でもそういう魔法なら織姫と彦星が納得しないと思う」
「うーん。何か思い出せる情報ある?」
「ゆーちゃんは?」
「……、ポーション瓶。が何かなって思いました」
「あ、忘れてた。確かに気にしてなかったけど空瓶の描写あったね」
「デメリット付きのバフポーションかな。推測でしかないけど」
「まぁ何にせよ一見分からないように無理してることは確定しておこ。じゃないと決められない」
「そうだね。それで、どうしたい?」
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クルミ
「……カササギちゃんのため、だよね」
それは疑問ではなかった。
確信を持った発言。
アルビレオ
「なんで、言っちゃうかなぁ」
敗北宣言が天の川にむなしく響き渡る。
まだ認めないことはできたかもしれないが、もう手遅れだ。
仮にここで否定し続けたところで何も意味はない。
ただ、それを悟るだけの冷静さがまだ残っていたことはアルビレオにとって不運なことかもしれない。
カササギ
「知ってたの? アルビレオちゃん……」
架け橋の魔法を展開しながら幼馴染の一挙手一投足を見守っていたカササギはどうしてこういう結果になってしまったかをようやく思い至る。
クルミ
「隠そうとしたって意外と分かるもんだよ。特に幼馴染にはね」
付き合いの長い幼馴染だけでなく、出会ってまだ数日の冒険者にまで見抜かれた。
実際は仮定に仮定を重ねた結果とはいえ隠しきれなかった動揺もあって全てを見透かされた気になる鳥人の二人。
クルミ
「カササギちゃんにはアルビレオちゃんの想いをどうしても知っておいて欲しかった」
アルビレオ
「私は、知られたくなかった」
クルミ
「うん、ごめんね。それは無視しちゃった」
あっけらかんとした態度で謝罪になっていない謝罪をする。
全てを救えない。
こみあげてくる無力さを無理矢理押し込み、それでも自分の信じたものを守るための戦いを続ける。
カササギ
「私は……」
????
「すまない。この魔法は私が引き継ごう」
その時、この場の全員の死角から、一人の男が現れた。
クルミ
「サジタリウスの店長さん?」
カササギ・アルビレオ・彦星
「天帝様!?」
織姫
「お父さん!?」
天帝
「織姫、彦星。お前達を信用せずに黙って見張っていたこと、その非礼を詫びよう」
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ここから先はちょっとした後日談。
物語としてはサドルが墜ちた時点で結末はほぼ決まっていた。
アルビレオはちゃんと断罪された。
カササギがこれ以上無茶しないように監視することを言い渡された。
要するにほぼ無罪だ。
天帝は、今回の元凶はカササギに無茶をさせた自分だと言い、織姫と彦星の願いを一つ叶えると言った。
つまりは年に一度しか会えないという誓約をなかったことにしていいと。
二人はこれを拒否。
私たちの贖罪はまだ終わっていないとこれからも七夕を続けることになった。
代わりに要求したのはアルビレオの目の治癒。
ちなみにアルビレオは拒否してカササギが使った薬の副作用からの回復を提案。
どちらも難しくないとのことで二人とも癒して貰った。
さらに架け橋の魔法を改良してアルビレオとカササギの二人で扱うようにしたことで七夕自体にも変化があった。
天帝の計らいで織姫と彦星は年に二回会えるようになったのだ。
「この二度目の七夕ってやっぱり現実に準拠?」
ウサ耳カチューシャを外しながら今まで忘れていた、というより意識の表面まできてくれなかった知識を思い出す。
今の七月七日は雨が多いから星空を見上げるのに少々都合が悪い。
だから、本来の日付で七夕をするところもある。
「どういうことですか?」
「二度目?」
首をかしげる金子さんと立花さんの疑問に応えるために星那ちゃんが資料を取り出す。
ゲームじゃなくて本当にある神社だ。
あと月も知らなかったっぽい。
やっぱりダイスで負けたからといって織姫ルートを譲ったのは失敗だったかもしれない。
星那ちゃんと目があった。
別に私が知ってることは多くないから先に知ってることだけ言う。
「七夕って本当は梅雨の時期じゃないんだよ」
「はい、その通りです。旧暦の七月七日なんで今の夏まっさかりの時期ですね。今の暦で七月七日に七夕まつりをする神社も多いですけど、旧暦に合わせて八月七日に七夕まつりをする神社もあるんですよ」
すぐに星那ちゃんの補足が入り、さらに全国各地の七夕祭りの写真が出てきた。
なるほど、今日はこれを紹介するつもりでこんなシナリオにしたのか。
さすが七夕の節句。
いろんな場所でお祭りをやっている。
笹竹の節句とも言うらしい。知ってることもそこそこあるけど知らないことも多いなぁ。
今日は七夕をそこまで詳しくないことに気付く良い機会だ。
五節句についてはひな祭りとGWが有名。
七夕は三番手かな。
あ、節句について書いてある資料あった。
そうそう、他は人日の節句と重陽の節句だ。
今年はどっか神社行ってみようかな。短冊になんて書こう。
せっかく月と恋人になったのだからやっぱり恋愛関係かな。
「だから織姫と彦星が会う機会は年に二回あることになるんですよ」
新暦と旧暦で二回。
年に一度しか会えないはずの織姫様と彦星様は今までの倍の日数会えることになる。
今までが少な過ぎただけだけど。
「ちなみに旧暦七夕をきっちり定義するとこうです」
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太陰太陽暦にもとづく七夕を「伝統的七夕」と呼んでいます。
もともと七夕の行事は、7月7日といっても現在使われている暦ではなく、旧暦など太陰太陽暦の7月7日に行われていました。これは、月齢およそ6の月が南西の空に輝く夏の夜になります。現在の暦での7月7日は、たいてい梅雨のさなかで、なかなか星も見られません。そこで国立天文台では2001年から「伝統的七夕」の日を広く報じていくことにしました。
太陰太陽暦は、明治6年に現在の暦が採用されるよりも前の暦で、現在は公には使われていません。このため、伝統的七夕の日は、太陰太陽暦による7月7日に近い日として、以下のように定義します。
二十四節気の処暑(しょしょ=太陽黄経が150度になる瞬間)を含む日かそれよりも前で、処暑に最も近い朔(さく=新月)の瞬間を含む日から数えて7日目が「伝統的七夕」の日です。
国立天文台(NAOJ)ホームページ
質問3-10)伝統的七夕について教えて から抜粋
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「出た、国立天文台。今日大活躍だね」
これは知らなかった。
でもそっか。
今まで特に意識したことがなかったけど、旧暦はぴったり一ヶ月遅れな訳がない。
閏月なんて概念は今の暦にはないからそこを合わせようとすると難しい言葉を使うしかなくなるんだ。
「ちなみに今年の伝統的七夕は八月二十二日です。来年は八月十日ですね。この神社はこの日に七夕まつりをするんですよ」
「あ、それじゃあ二回どころか三回会えることになりませんか?」
「ふっふっふ。その通りです。七夕の歴史は長いんですよ。この追加で会える日は織姫と彦星が二人で暮らせる日を諦めずに戦い続けた結果とも言えます。確かに二人は昔罪を犯しました。今なお償い続けている最中です。ですが赦されない罪なんてないんですよ」
今は一年に一日か二日。多くて三日。
未来ではそれが一週間になるかもしれない。
それが一ヶ月になるかもしれない。
「月先輩、七夕に短冊を吊るすようになったのはいつか分かりますか?」
「知らないけど江戸じゃない?」
「……はい」
「ぽいもんね」
識字率の関係で少なくとも大衆に流行るのは江戸以降の話なのは確定。
そもそも江戸は長期に渡って平和な時代だからそういう文化が発達しやすい。
月に分からないと言わせたいなら問題が悪いよ。
意外と歴史が浅いみたいな方向性の方が一泡吹かせられる可能性は高いんじゃないかな。
「んんっ。そもそも伝承は時を経て遷り変わるものです」
物語が時間とともに変化するのは自然なこと。
時代に合わせて様々な面を見せてくれる。
七夕の場合、もともと宮中行事だったものが大衆に広まって短冊を吊るすようになった。
太陰暦が太陽暦に変わり、暦と季節がずれるようになったことで開催期間にブレができた。
「例えば他の物語、さるかに合戦やカチカチ山ではサルやタヌキの生存ルートが確立しました。もちろん、最初に犯した罪を軽くしたことが一番の原因ですけど、今の時代は免罪がトレンドなんですよ」
?
たぶんだけど、星那ちゃんのこの言葉は月に向けられたもの。
このシナリオを通して月に言いたかったこと。
「うん。面白かったよ、星那」
「ぅしっ」
星那ちゃんが小さくガッツポーズ。
よっぽど嬉しかったらしい。
「まぁそういう訳でTRPGサンドキャッスル、『棚機女の贈り物』終了です。お疲れさまでした」
夢中になって遊んだ時間もこれで終わり。
アルビレオもカササギも、織姫も彦星も全員幸せにすることができたと思う。
「うん。星那ちゃんもお疲れ様。楽しかったよ。ありがとう」




