15 実は私も嫌いなんです
気付けばもう七夕。なんとか終わりそうです。最終話は午後7時7分(予定)
「良かったら打ち上げがてら晩御飯行きませんか。シナリオに盛り込めなかった七夕の話とかどうです?」
「あー」
私の方は結構気になっている。
もともとは乞巧奠だったと思うけど、そっち関連は全然なかった。
だけど、と金子さんの方を見る。
確か、相談室に来たときに気になることを言っていたような。
「あっと、アタシ……というかくーちゃんもちょっと門限があって」
やっぱり。
じゃあ残念だけど
「だからちょっと親に連絡してきますね」
おぉ。
成長を感じる。
前は始まる前に逃げ出してたけどあの時月がおまじないをかけた影響が出てる。
これがいい方向に繋がるといいな。
「ゆーちゃん」
「うん、分かってる。どうせくーちゃんのママも一緒にいるだろうしついでに話しとくよ」
「ありがとう」
「ううん、くーちゃんのママも私のママみたいなもんだもん。気にしないで」
立花さんがフリーズする。
私は幼馴染について詳しくはないけど、家族ぐるみで相当仲が良いようだ。
バタン
金子さんが電話するために生徒会室から出て行った。
復活した立花さんは肩を落として愚痴る。
「ゆーちゃんいっつもあんな感じなんですよ」
私から見たら二人とも似たようなものだ。
なんなら月も似たようなもの。
仲間はずれは私だけだ。
「でもよく分かったね。あのアルビレオの目的の奴。私も月も全然気づかなかったよ」
今回アルビレオの目的が分かったのは立花さんのおかげだ。
話を逸らすために話題を変えようとしているのは事実だけど、賞賛すべきことに変わりはない。
今日のMVPは間違いなく立花さんだ。
「ゆーちゃんには内緒にしてくれますか?」
今日でだいぶ打ち解けてもらえたのか、今までは見せてくれなかった悪戯っぽく笑う。
少し迷った様子だったけど、なんでわかったのか教えてくれた。
「実は私も嫌いなんです、陸上」
マネージャーとはいえ陸上部とは思えない発言に衝撃を受けた。
「ゆーちゃんのことは応援してますし、そのまま走るのが好きなゆーちゃんでいて欲しいですけど、やっぱり私はゆーちゃんの一番でいたいんです」
それを聞いた瞬間、私の中の瑕疵を見つけた。
なるほど、月が私の感情を友愛と呼んだのはこれか。
これが恋愛という感情なら確かに私に欠けているものだ。
――無償の愛なんて認めない
あの時月に言われた言葉を思い出す。
「もちろん、走ることより私を優先する姿を見たい訳じゃないんですよ。矛盾してますね」
その狂った感情が欲しい。
なんて下級生の感情――それもどちらかといえば負の感情――を羨ましがっていることを悟られる訳にもいかない。
「矛盾なんてしてないと思うけど、もしそうなら今日はそれに助けられちゃった」
月はすぐに気が付いていたから何か切欠さえあれば思い至ることができたかもしれない。
でも私じゃアルビレオの目的にたどり着くことは不可能だった。
「だから、これからもその感情を大切にしてね」
これは代償行為だ。
自分にはできないことを後輩にさせる、虐待に近い言葉。
でも、仮令それが自縄自縛な感情だったとしてもそれを肯定したかった。
「良いんでしょうか……」
「? 駄目だったら諦めるの?」
綺麗とは程遠いことは分かっていて、それでも憧れた。
月に言わせたら欠けているのは月の方らしいけど、そんなことは関係ない。
月には悪いと思っているけど、私はその程度で諦めない。
「……いいえ、諦めきれないと思います」
良かった。
私としても目指す場所にたどり着く道は多い方がありがたい。
「不安だよね、相手が嫌な自分を受け入れてくれるのか。でも、恋人になるってそういうことだと思うんだ」
「はい。ありがとうございます」
お礼を言われると困る。
けど、それを表に出せない。
私は、今立花さんに善意とは異なる感情で勧めた地獄への道を駆け抜けていかないといけない立場だ。
「ただいま。くーちゃんの分も言ってきたよ」
「ゆーちゃん、好き!!」
ん? あれ?
私何か会話の流れ聞き逃したかな。
私の時間が周囲と同じならいきなり告白したように感じる。
「ェ。……? ……ふぇ!? ~~~~!!!!????」
反射、認識、理解、驚愕と百面相を見せてくれる。
ドアから入ったばかりのタイミングでこれをされたら月でもこうなる。
……私の場合はありがと、って言いながら平然としてるかもしれない。
「あ、先輩! ひょっとして謀りました!?」
あ、ごめん。
途中から完全に忘れてた。
月とアイコンタクトを交わして向こうも同様だったことを知る。
思ってたよりずっとTRPGに夢中になっていたようだ。
月と揃って首を横に振る。
謀らなかったというより謀れなかった。
(いや、さっき胡桃を焚きつけてたからそれ見て思い出した)
(焚きつけてた気はないんだけど)
(茜なら半々くらいでそう言うと思った)
けどまぁ、ひょっとしたらこうなったのは私の所為かもしれない。
「くーちゃん?」
立花さんは墓穴を掘った幼馴染を問い詰めようと無理矢理逸らした視線の先に回り込む。
咎めるような雰囲気で見上げ、無言で責め立てる。
今更だけどこの二人をどうやって決着つけさせるか考えてなかった。
なるようになれ、で今この状態になっている。
なってるかなこれ。
「あのっ。実は先輩達と組んで……」
「悠夏、まず最初に応えてあげて」
月の言葉で金子さんがはっとする。
すぐさま一番近くにいる女の子に向き直り、気持ちを受け止めるために、何より気持ちを伝えるために言葉を紡ぐ。
「アタシもくーちゃんが好き」
目を丸くしたのは立花さん。
いや驚くことではないよ。
「あの、私の好きは、幼馴染としてじゃないんだよ。もちろん幼馴染としても好きだけど、私はゆーちゃんとデートとかしたい。ちゅーとかも、したい」
蚊の鳴くような声で確認をとる。
最初の勢いはどこにいったのか。
「うん、しよう。アタシもくーちゃんのこと、そういう意味で好きだよ」
金子さんの方はさっきまでタジタジだったのにもうこれだ。
覚悟一つでこうも変わるのか。
不安そうな顔から一気に破顔一笑、コロコロ表情が変わる二人を見てるとこっちまで気恥ずかしくなる。
「その、よろしくお願いします」
「うんっ、よろしく!」
……。
改めて自分の過去が酷過ぎる気がしてきた。
私の場合、月からの告白をそういうこともあるか程度の、言ってみれば日常の延長線上のように扱ってしまった。
最低なのは、過去に戻ったとして同じことを繰り返しそうだということ。
「え、くーちゃんも相談してたの!?」
「ゆーちゃんこそ」
打ち上げ会場のファミレスで楽しい楽しい(月と星那ちゃんの主観。私がどうだったかは黙秘します)ネタばらしタイムが終わり、七夕そっちのけで二人の話題で盛り上がる。
お互い意識し合っているのが大きかったと思うけど、絡み合った状況をここまで見事に隠し通せるとは思わなかった。
星那ちゃんは最後まで気づかれずに解散しちゃうんじゃないかって不安になっていたそうだ。
後輩の方がしっかりしてるは禁句。
「でも良いんですか? 付き合いたてなのに二人っきりにならなくて」
「はい。皆さん祝福してもらえるのも嬉しいので」
「先輩達がいなかったらアタシ達未だにすれ違っていたままでしたから」
「星那、野暮。どうせ二次会で二人っきりになるんだから」
「あっ、すみません」
「「二次会……」」
「ちなみに私はこのまま茜の家にお泊りだよ。着替えとかは茜の家に常備されてるからね」
「ベッドの上でむつみ合うんですね。先輩のどすけべ!」
「私何も言ってないんだけど」
まぁ同じ布団で眠るから合ってる。
最近だいぶ暑くなってきたらそろそろつらい。
でも朝とか冷えると抱き心地良いんだよね。
いけないいけない。
抱き心地とか考えてることがバレたら本当にどすけべと思われてしまう。
……冗談だよね?
まさか本気で言ってる訳じゃないよね?
訊くのが怖かったから話題を変える。
幸い続けるような話題でも面子でもないからすんなり成功した。
「そういえばこれテストプレイなんだよね。まだ完成じゃないんだ」
「はい。良かったら感想お願いします」
「じゃあ私から。分断は良いと思うけどやっぱり連絡手段ほしいなぁ。回数制限つけても良いから」
私が提案して月が先陣をきる。
なんだか懐かしい流れだ。
「やっぱりそうですよね。連絡手段なしは身内用の高難易度用にしときます」
「あ、そういうのじゃなくてさ。んー。私は、茜が失敗しても特に嫌な感情は湧かない。茜も、私が失敗しても笑って許してくれる。心からね。それを信じられる。でも私達並の信頼を他の人に求めるのはちょっと酷っていうか。特に今回の場合どっちでも正解ルートにはたどり着くんだよね」
月が失敗することなんて想像もしてなかったけど、もしそうなってたらきっと心配したと思う。
でも確かに、客観的に見たら責めるなり落胆するなり失望するなり何かしらの負の感情が芽生える状況ではあるみたいだ。
私と月が別れていなかったらそうなっていた可能性がある訳だ。
せっかく遊ぼうというのにギクシャクなんてしたくない。
「私も、私だけ分からなかったらその後はちょっと楽しめそうにないです」
「アタシも分からない側はちょっと遠慮したいですね」
「あ、でもゆーちゃんが分からなくて私だけ分かった状態ちょっと楽しそう」
「あ、確かに楽しそう。月にお詫びとして何させるか迷っちゃうね」
「くーちゃん!?」「茜!?」
いや、私たちがお化粧忘れてた時のことの仕返しなんて考えてないよ。
全然、これぽっちも根に持ってない。
ちょっとワクワクしてきた。
「なるほど。連絡手段は必須ですね」
私たちの仲ですら不和を招くギミックに戦慄した星那ちゃんがヒントの追加したとかしないとか。
「そういえばNPCのカササギはなんでカササギって呼ぶの? アルビレオは固有名だけどカササギは鳥の種類の名前だよね」
「あー。まぁ設定的にはカササギのキャラはコミュニティの部族名を名乗る種族なんですよ。自分だけの名前は本当に親しい人にしか知らせないタイプの。後付け設定ですけどね」
「え、なら本命は?」
「七夕の日に織姫と彦星を会わせるために奔走するのはカササギだって伝えたいんです。まぁ現実の七夕に合わせてのものですよ」
確かにカササギに名前がついたらそっちで呼んじゃってカササギって単語の印象は下がってしまう。
あんまり有名じゃないし私も詳しくは知らない。
黒い羽の描写があったから黒い鳥なのかな。
「カササギってどんな感じの鳥なんですか?」
「ちょっと待ってください。これです。ハトより一回り大きいくらいのサイズ感です」
星那ちゃんが画像検索したスマホの画像を見せてくれた。
基本黒だけどお腹と羽の一部が白い。
綺麗な鳥だけど見たことがない。
「ちなみにカササギですが鷺じゃないですよ。詐欺ですね」
「「……」」
私と月から冷ややかな視線をプレゼント。
目に口ほど語ってもらう。
「? あっ!」
「え、どーゆーこと?」
「(あのね、ゆーちゃん。きっと鳥の鷺と犯罪の詐欺をかけたんだよ)」
「(あー。そういう)……。えっと、先p」
「もうやめてください。滑ったギャグを理解しようとするのは追い討ちなんですよ」
二人の会話は私にも聞こえてきた。
流石に同情……しなくていいや。
「カラスの仲間らしいですね。スズメ目カラス科です」
……カラスってスズメ目なんだ。
「カラスってスズメ目なんですね」
「そうみたいですね。まぁこんな雑学知ってるのきっと茜先輩くらいですよ」
「いや知らなかったよ」
一瞬このまま当然知ってますといった顔をしようとした私を許してほしい。
確かに七夕についてそこそこ知ってることはあるけどそれでもやっぱり知らないことばっかりだ。
「鷺は?」
月が意地悪く訊く。
星那ちゃんは蒸し返さないために無反応(できてない)で鷺を検索した。
「……。ペリカン目サギ科です」
鳥の分類が全然分からない。
カラスはスズメでサギはペリカン?
「アルビレオちゃんの白鳥はどんなですか?」
「えっとー……。カモ目カモ科。これは分かりやすいですね」
だってカモも白鳥も水掻きがある。
「目は黒だね。結構小さい」
「いーじゃないですか、オタクはみんなオッドアイ好きなんです」
「何も言ってないよ」
「魔眼系は力を使い過ぎて失明するものなんです!」
「星那ちゃん、落ち着いて」
誰も何も言ってないよ。
何か触れちゃいけないものだったみたいだ。
星那ちゃんは変なところで暴走することがよくある。
失明はアレだけどオッドアイは私も綺麗だと思うよ。
「あ、そういえば最初カササギは男設定だったんですよ」
「「え、そうなんですか!?」」
「私どっちかというとNL派、あー。女の子同士も好きですけど恋愛ものは男女ものもいけるんで」
「くっ。今はマイノリティにも気遣わないといけない時代」
「月先輩。勝手に自分達をマジョリティにしないでください」
「この場では最大派閥だよ?」
暴論だなぁ。
さも月と一緒の派閥ですよといった顔で聞き流す。
「女子高だからって全員が百合とは限らないんですよ」
「あのっ。私、カササギちゃんが男だったら最後気付けなかったと思います」
「アタシもっ、カササギが女の子じゃなかったらここまで感情移入できなかったと思います!」
「ほら、今日のMVPの二人もこう言ってるよ」
二人がMVPなのは認めるけど、私は別にどっちでも良いと思う。
ということはつまり
「茜先輩はどう思いますか?」
「私はずっと月の味方だよ?」
私の優先順位は月で埋まってる。
訊かれるまでもないことだ。
「星那、聞いた! 茜も女の子派」
「私が間違ってました。茜先輩、もうちょっと自分の意志を持った方が良いですよ」
実は相手に合わせてるのは私より月の方なんだけどね。
「それでもやっぱりカササギは今のままが良いと思うな。難易度の関係上ヒントを追加するくらいならともかく、今日が楽しかったからキャラクターの変更みたいなので水差されたくない」
なんだかんだ私のこの発言が決定打となってカササギは無事女の子になった。
楽しかったのは私だけじゃなくて安心。
ごめん冨波さん。
キャラ設定考えようとはしたんだけどキャラ人数多すぎると捌ききれない。
でも分割シナリオするうえでGMが二人必要だったんだ。




