12 単純に鈍感で気付かなかった上級生と目を奪われて褒めるのに覚悟を決める時間が必要な下級生
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七月七日
合流
GM:崎谷星那,冨波冬華
PC:アカネ,アカリ,クルミ,ユウカ
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「茜、信じてたよ」
「うん。信じて貰えたよ」
もともと不確定要素は私が彦星の懐中時計の売却ができるかどうかだけ。
無事に織姫の琴を入手することができた。
夜パートでそれを彦星と一緒に修理。
ちょっとしたミニゲームがあってそれを無事にクリア。
ご褒美に戦闘に便利なアイテムをもらった。
それによってこれがシナリオ上想定されたルートということに安堵する。
「そして、織姫と彦星が一年の刻を経て再会します」
カササギの魔法で架けた橋を渡り、いつも落ち合っているという小島で本人達に続いてアカリ達とも合流した。
護衛ということでアカネ達もお邪魔させてもらっている。
たぶんだけどこの島でもう一騒動ある。
そのラスボスを倒さないといけない。
「彦星は琴の修理で徹夜したことが一目で分かるほどボサボサの髪と目の下にクマがあり、織姫の方は徹夜を感じさせないナチュラルメイク、具体的には達成値14で一般人がやったより上手に仕上がってます」
私はさっと目を逸らした。
化粧かぁ。
考えもしなかった。
彦星が男だから、と言い訳しようかとも考えたけど例え織姫側にいたとしても思いつかなかったかもしれないと思うとそれもできない。
そういえば星那ちゃんが彦星の徹夜明けをやたら強調していたけど、あれは織姫側から連絡があったからなんだろうなぁ。
ヒントを出してくれていたのに申し訳ない。
「くーちゃん?」
隣から目をそらしたら、正面でも同じようなやり取りが繰り広げられていた。
そういえば金子さんは家庭に関するものにプラス補正が得られるスキルを習得していた。
「いや、あの」
「はあ。やっぱりくーちゃん気付かなかったんだね」
あんまり責めないであげて欲しい。
と言いたいところだけど私もおんなじだから強く言えない。
「茜、私がリップ変えても無反応だよね」
「あ、それくーちゃんもです」
「髪だって、美容院行っても気付くのはお昼休みくらい。それでもまだ良い方で、二、三日してようやくってことも」
「ありますあります。新しく髪留め買っても全然分かってくれなくて」
月と金子さんが意気投合してしまった。
随分仲良くなったなぁ。
肩身が狭い話題だから早く変えたいところだけど、口を出すと余計厄介なことになる気配がある。
「そのくせこっちが隠したいことはすーぐ見抜くのがまた腹立つんだよね」
「先輩もですか。ちょっと体重増えたことも何故か筒抜け。他だとアイシングをサボらなくなったのは感謝してますけど、昔のこと引きずってずっと小言を言うんですよ」
「あるある。オーバーワークとかもすぐ気付くよね」
「はい。直接何か言われることは少ないですけど、それでもいつもより優しくなるんです」
「茜も何も聞かずにそばにいてくれるタイプ」
気まずさが別ベクトルになってきた。
こんな時はGMになんとかして貰おう。
そう思ってたのに頼みの綱の星那ちゃんは
(なんですかこれ。愛され自慢ですか?)
(話が逸れた時に元に戻すのはGMの仕事だよ)
(馬に蹴られて死んでしまいます)
援軍が頼りにならない。
これ止めれるの私だけかぁ。
「月、その辺で勘弁して」
「ん、……んー。よし! じゃあ頭撫でて」
言われた通りに髪に触れる。
これさっきの合流パートと同じ流れにするのかな。
だとしたら幼馴染でも恋人でも不自然じゃないスキンシップ?
え、さっきハグでアウトだったんだよね。
どんな言葉をかけたらいいんだろう。
「あー、いつも綺麗だよ?」
「むぅ……。気持ちがこもってない」
バレてる。
でも割と嬉しそうだからいいや。
このまま雑に褒めてもなんとかなりそう。
「でも嘘は言ってないよ。月はいつも綺麗だよ」
「……ほんと?」
「本当」
流石にちょろ過ぎでは?
いや、単に怒りのおさめどころを探っていただけっぽい。
月が満足してくれるならそれが一番だ。
「くーちゃんも!」
「あ、うん。これで良い?」
立花さんと金子さんも、今度はスキンシップに成功。
琴も時計も修理済み、さらに本来予定していたのと違うとはいえ手作りの装飾が追加されたからシナリオの方もちゃんと攻略。
徹夜明けの化粧なんてシナリオ的には意味が全くない上に化粧道具なんて何処から引っ張り出し……。
「あぁ、そういえば道具系は必要になったら鞄から何でも出てくるって最初に言ってたね」
「こんなこともあろうかと最高級の化粧セットを用意しておいて良かった良かった」
「私のカバンにはなかったよ。きっとアカネもアカリ任せ」
「アカネを好き勝手していいと聞いて」
そんなことは言ってない。
でもアカリの方がアカネより器用だから任せられるならそうしたいなぁ。
いやいや、ダメ人間になっちゃ駄目。
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アルビレオ
「おはようございます」
織姫、彦星がお互いのプレゼントを渡した時、不意に声がかかる。
普段と様子が違う。
右眼に眼帯をしており、今見えているのは橙色の瞳だけだ。
アルビレオ
「今年で七夕は終わりだよ、カササギちゃん」
不敵に哂うアルビレオはカプセルを三つ取り出し、近くに放り投げた。
放物線を描く途中でカプセルが起動し、トランスフォームによって一つは人型、二つはドローン型となる。
アルビレオ
「サドル、ファワーリス、アルジャナー。狙いはカササギちゃんだよ」
いち早く行動を起こしたのは魔砲士アカリ。
アルビレオが現れた時点で臨戦態勢に入った彼女はカプセルの展開と同時に魔力燐を生成しながら駆けだした。
逆に、もっとも行動が遅かった冒険者はクルミ。
辛うじて盾を構えるが、剣は鞘に刺さったまま。
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「星那、パッと見て何色か分かる?」
「実際の北十字と被せてます。中心のサドルが黄色、左の翼が橙、右の翼は白だけどサンドキャッスルに該当色がなかったんで無色扱いです」
「よし。星の色なら伏兵いても緑はいない」
「いや伏兵はいないですけど恒星に緑がないだけで星雲や彗星なら緑色あり得ますからね」
「あ、そっか。……え、そうなんだ」
「アカリはサドルにダメージ倍で私は半減。逆じゃなくて良かったね。そもそも私は攻撃力低いし攻撃せずに立ち回るよ」
「あと、くーちゃんの盾が橙色だからシールドの魔法でアルジャナーの攻撃半分にできますね」
「サドル、最初に戦った時は無色だったはず」
「強化されてるけど基本は変わらな……あれ、そういえば一瞬で沈めちゃったね」
「実質初見の敵かぁ」
「あと気をつけなきゃなのはカササギが動けないことだね。逃げながら闘うみたいなことはできない」
「ということはアカリも前に出た方がいいかもね」
「任せて。私サドルに接敵してる必要ないしファワーリスに行くよ。相性的にはあれだけどクルミちゃんは一番近接タイプっぽいサドルをお願い」
「あのっ……。ホントにアルビレオちゃんって倒さなきゃ駄目ですかね」
「ん、よし。星那ちゃん。一回時間止めて」
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立花さんの疑問に応えるために一端盤上の時間を止める。
正直このままアルビレオを素通りさせるという案もあるにはある。
でも織姫の出生的にそれを選択するとアカネやアカリに対処できないタイプの敵が現れて後味が悪い結末になりそうな気がしてオススメできないんだよね。
「すみません。流れを止めてしまって」
「大丈夫。ここで私達の意志をまとめとくことは必要なことだから。むしろごめんね。私と月だけで先に進めちゃって」
「私もごめん。でも、ただ敵を倒すだけが物語じゃないから良かったら二人の意見も聞かせて」
「アカリは隠密スキルまで使って武器を構えてたくせに」
でもそうしないと前に出れないからなぁ。
金子さんが貰ったオリジナル技の居合は武器の取り出しが省略できるから便利過ぎて正直羨ましい。
「じゃあまず、アルビレオの目的から」
「最初から明記されてたけどね。七夕の中止、終わらせること」
動機の推察が終わっている私と月でディスカッションの指揮をとる。
ちょっと共有足りてなかったな。
二人を置いてけぼりにしてしまった。反省。
「どうしてそんなことを?」
考えられる理由は悪意からと善意から。
この二つは最後まで分からなかったから立花さんに聞いて決めた。
結果は成功。
この娘は絶対に悪意で動くようなキャラじゃない。
「織姫と彦星は年に一度しか会えないのかって疑問に思ったことある?」
「それは……。二人がやるべきことをやらなくなったから、ですよね」
「そうだね。二人がいつ頃からそうだったのか知らないけど
「万葉集までは辿れました」
……二人は奈良時代より前、千年以上の長い時間その罰を受けてることになる。え、待って。そんなに歴史あるの!?」
「はい。万葉集では百を超える七夕の歌が詠まれていますよ」
そんなに古いのか。
といけない。脱線してしまった。
でも七夕の歴史ちょっと気になるなぁ。
確か中国の文化と日本の文化が融合したものだったはず。
「あとで教えてね。それで、織姫と彦星を赦してほしい、一年中会えるようにしてほしい。たぶんそういう動機」
「だからこそ再会した瞬間を狙ったんだろうね」
一年に一日しか会えないなんて可哀想。
今まで一度もそう思ったことがないなんて嘘だ。
このままアルビレオが私達を倒せば、ううん。
私達がアルビレオを静観、もしくは加担すればそれが叶う。
私と月でそんな感じの推論を語り、一年生の反応を待つ。
「あの。先輩達、合流してから碌に言葉を交わしてませんよね。いや、シナリオに関係ないことならいっぱい喋ってましたけど」
「ゲームそっちのけでイチャイチャしてましたね」
キーワードだけで簡潔に意見交換くらいはしたけどそれで充分だった。
立花さんがアルビレオを気に入っていたから確証が出るまで言い出せなかったのもあるけど二人を蔑ろにしてしまったのは良くない。
「じゃあ、アルビレオと闘わない方がいいんですか?」
「それがそうもいかなさそうなんだよ。最初にあった七夕の説明のこの部分見てみて」
――天空でいちばんえらい神様「天帝」には、「織女」という娘がいました。
織姫の父親は天帝だ。
織姫と彦星の仲を引き裂いたのも天帝。
つまり、アルビレオは私達を倒した後天帝に襲われる可能性が非常に高い。
何より私なら間違いなくそういうバッドエンドを作る。
もともと分岐が多いシナリオだ。間違った選択肢の罰ゲームは用意しているに違いない。
それがなくとも、サンドキャッスルでの織姫と彦星はただ言われたから会わない訳じゃない。
そこに水を差すのことになるのがどうしても気が引ける。
――俺があの人の才を奪ったんだ
彦星の後悔と贖罪をなかったことにするアルビレオの選択を支持できない。
彦星と一番関わったのは私だ。
NPCとはいえ思い入れも一入。
ここまでが月と共有した内容になる。
ここでアルビレオのように強引に七夕を中止することは織姫と彦星のためにならない。
「力尽くの作戦は一番強くないと通用しない。アルビレオじゃ多分無理」
「間違った方法で解決しても誰も幸せにならない。それが私と月の結論だよ」
だからアカリとアカネはアルビレオを止める。
力に対抗するには力しかない。
アルビレオは悪者の汚名を被ってでも計画を実行に移した。
その覚悟がどんなものかはまだ想像できないけど、正直勝ってから訊けば良いと思ってる。
「そんなことになってたんですね。すみません。アタシ全然分かりませんでした」
「私達はこれが正解だと思ってる。単なる一本道シナリオだったら出てきた敵を倒すだけで良いんだけど、これはプレイヤーの行動次第で結末変わってくる。星那はなかなか性格悪い」
「そんなことないですよー。ただプレイヤーキャラがいなかったら織姫と彦星は破局してましたね。もうその結末は回避しましたが」
七夕シナリオで別れ話なんか作られたら子供は泣くよ。
もしくは哭くよ。
「あ、あのっ」
「何?」
「……やっぱり何でもないです」
歯切れの悪い立花さん。
ちょっと何とかして、と金子さんに視線を送る。
蟠りを抱えたまま進めたくない。
月ほどアイコンタクトは上手くいかないけどこの程度なら分かってくれるはず。
「くーちゃん。何か気付いた?」
「たぶん違うというか。はっきりしないから。それに、どう行動すればいいかわかんないし」
「大丈夫。先輩達はちゃんと聞いてくれるよ」
そっと手を握って勇気づける。
免許皆伝を与えたい。
これを意識してできていればの話だけどね。
「えっと。まだ全然纏まってないんですし、お二人の意見が一致しているなら私なんて出る幕ないと思うんですけど」
「多数決なんて最も愚かな決断方法だよ」
「月が言う?」
「私は立候補したらほぼ自動的に生徒会長になったからなんのことか分かんないなー」
でも月の言うことはとてもよくわかる。
一足す一を三と答える人が五割以上いれば世界が塗り替わるなんてそんな方法はあんまり使いたくない。
多数決に頼らざるを得ない機会は残念ながら多々あるけど、今はそうじゃない。
「くーちゃん。今何が引っかかってるの?」
「うーん。多分ですけど、アルビレオちゃんは織姫と彦星、そんなに好きじゃないです」




