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不幸少年フジと幸福部  作者: 雨竜三斗
第七章 フジとタカミは幸せか?
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7-3 幸福部の仲間たち

読み飛ばした方用前回のあらすじ

怪我もなくすぐに退院したフジだが、学校に行けずふて寝をしていた。

そこに大きな地震が起こり、フジは恐怖を感じた。

大きな地震ではなかったが不幸のひとつだと認識。だが両親は思った以上に冷静で、その温度差が理解できず、部屋に戻る。

部屋には壊れたプラモデルなどものが散乱していたが、片付ける気になれずフジは再度ふて寝に入る。

 母が部屋をノックする音で目が覚めた。

「フジ~、お客さん。着替えて降りてらっしゃい」


 こんな大変なことがあったのに一体誰が来るのだろうか。

 いや、フジの元を訪れる人物は四人しか想定できない。


 そう思いながら重い体を起こし、散乱する服から適当に取ったジーパンとシャツに着替えてして部屋を出る。


 玄関には幸福部のメンバーが揃っていた。学校から直接来たのだろうか、制服のままだった。


「なにしにきたの……?」


「部屋のリフォームだよ」

 タカミが代表するように用件を伝えた。

 表情はいつもどおりの生きるのが幸せそうな笑顔だ。


「地震でフジくんのプラモデルが大変なことになってないか心配できたんだよ」

「僕、幸福部をやめたんだよ。タカミさんに言ったじゃん」


「退部届は受理されてないよ」

「えっ、退部届必要なの?」


「生徒手帳にも書かれてる」

 センはどこからともなく生徒手帳をだして、バッと該当のページを見せつける。


 確かに書いてあるのが見えるが、そんなことよりも、

「仮入部だったのに?

 入部届も出してないよ?

 っていうかみんなはお家大丈夫なの?

 あれだけの地震があったのに」


 ズボンの裾を強く握りながらフジはそわそわした目で四人を見つめる。


「大丈夫ですぅ。

 自分の部屋は片付きましたしぃ、あとはお屋敷のみなさんがやってくださってますよぉ」


「俺も大丈夫だっ。祖母が関東大震災を体験していてねっ。

 そのときの経験が活きたよっ。

 そんな祖母に、友達を助けてこいって背中を叩かれたのさっ」


「わたしは、祭壇が壊れた……。

 ひとりじゃ直せないから――フジに修理を手伝ってほしい。

 その代わり――今日お手伝いする」


「わたしのおうちも時間がかかりそうなので、フジくんに手伝ってほしいです。

 だから先にフジくんのお部屋をお片付けしましょう!」


「みんな……僕なんかのために」

 フジは文字通り信じられない物を見ている目で、皆の表情を見ていた。


 この顔は、主人公絶体絶命のピンチにやってくる仲間の表情だ。

 それらしい理由をつけながらも頼もしく、力強く、主人公の危機を救ってくれると確信が持てるものだ。


「『なんか』じゃありません。

 大切なフジくんのためにです!」


「フジくんはぁ、わたくしは悩みをひとつ解決してくださったじゃないですかぁ」


「俺も研究に協力してもらってるし、困ったときはお互い様だっ」


「神は――この試練を同志たちと乗り越えるよう言っている。

 フジがいなくなったら――試練を乗り越えることができない」


「ごめんなさい……よろしくお願いします」

 そんな頼もしい言葉に頼りたいと思ったフジは、頭を下げた。


「違いますよフジくん。そこは――?」

 このやりとりも何度目になるだろうか。


 タカミの優しい指摘に、

「ありがと、みんな」

 フジも溢れ出るような泣き笑いで頭を上げ、答えた。



「あ~、大変なことになってますねぇ」

 部屋に入るなり、ナスナがその惨状の感想をつぶやく。


「でも接着剤と塗料の匂いですぅ~」

「あまり体にいい匂いじゃないよ」


 だがすぐに初めて入る部屋の匂いを嗅ぎ始める。

 目をつぶっているのに、足元の本やプラモデルなどを避けて歩いているのが不思議だった。


「それと化粧品の匂い」


「あ、それは……」

(しまった、ナスナさんの異能力レベルの嗅覚を忘れてた)

 と思ったがそれについての対策はまったくない。

 

 消臭剤を使ったとしても、時間稼ぎにしかならないだろう。


 フジが言い訳を考えていると、

「――可愛いワンピース」

「えっと……」


 センがひらっきぱなしのクローゼットから、ハンガーにかかったワンピースを取り出した。

 これは隠すことができたが、それに気づくのが遅すぎたフジは後ずさりする。


「フジくんは妹がいるのかいっ?」

 さらに足が後ろに下がる。


 ケントの予想を肯定して、適当に架空の妹の設定をでっち上げることも考えた。

 だが家を見ればすぐにバレてしまうだろうし、堂々と嘘をつけないことはフジ自身がよく分かっている。


 タカミが心配そうな顔をしてフジを見ている。フジの戸惑う姿に、

「皆さん――」


「いいよ、タカミさん。いい機会だし」

 フジは下がった分だけ足を進めて、タカミの助け舟を止める。


(こんなに素晴らしい仲間なんだから、多分大丈夫)

 そう言い聞かせ、フジは両手の拳を固めた。


「僕ね、魔除け……というか不幸よけに、休日は女の子の格好してるんだ」


「そうだったんですねぇ」

「なるほど……」

「――それは地域によっては現代も残っている風習。

 だけど神々に守られる日本ではマイナーなだけ……」


「タカミさんもそうだったけど、驚かないね」

 これだけ意を決して言ったのだが、ナスナもセンもケントも納得したような表情で事実をあっさりと受け入れてしまった。


 拍子抜けしたフジは苦笑いする。


「先日のお出かけの着せ替えがぁ、とても似合ってましたからぁ」

「むしろ、その格好で来てくれても俺はよかったっ」

「……私よりかわいかった」

 と揃って肯定的(?)なコメントをしてくれた。


「でも僕はもうちょっと男の子らしくしたいかなって思うんだ」


 クローゼットの中には男女兼用の服もあるが、家の中以外ではほとんど着ない。

 これを着て外に出ると命に関わるトラブルが起こることもある。

 そんな怖い出来事を少し思い出しながら、フジはクローゼットの中からいくつか服を見せる。


「では幸せになるために、部屋のリフォームをしましょうか!」

「ですわぁ。男性用の香水もおすすめしたいですぅ~」

「――幸運度が上がれば……厄除けの服を着る必要は……減る」

「フジくんがいろいろな服を着たいというのであれば、協力しようっ」


「みんな、僕なんかのために……」

「『なんか』じゃないですよ。大切な部員――仲間ですから」

「だから、僕は仮入部だったんだって」

 タカミの明るい言葉に、フジは目をうるませながら笑った。

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