3-1 ケントは人気者
「あれ、ケントくんは?」
フジとタカミが幸福部の部室に来ると、ナスナとセンだけがいた。ナスナはアロマデュフューザーの準備をして、センはノートパソコンに何かを打ち込んでいた。
「今日もどなたかの手相を見ているのかもしれません。ケントくんの手相占いは、予約制になるほど人気なんですよ!」
「ケントくんの手相占いはぁ、男女問わず大人気ですからぁ。見てほしいっていうひとはぁ、たくさんいるんですよぉ」
「それに……ケント本人も……人気」
(モテモテなんだ、いいなぁ)
フジは口に出さなかったが、少し歯を噛んで目を細めた。
自分は興味がないが、男女問わず皆占いが好きだとフジは思っていた。朝のニュース番組では星座占いのコーナーがあるし、男女問わずファッション雑誌には占いのページが用意されている。母も占い師に見てもらったりしたことがあったり、両親は姓名判断師にペンネームを決めてもらっている。
そんな人気の占いができて、さらにイケメンとなればモテるはずだ。
「ケントくんのこと噂ではいろいろ聞くんだけど、実際はどんなひとなの?」
「ハンサムでモテモテですよねぇ~」
「同志ケントの見た目と……コミュニケーション能力があれば……宗教の勧誘、もっと捗る……多分」
「風水的に見ても顔の設計が完璧だもんね」
(風水と顔って関係ないんじゃ)
「じゃあ誰か女の子と、その……付き合ってたりしてない?」
フジは遠回しに言ったが、実際はこの中の誰かと付き合っているのではないかと感じていた。部活内の恋愛はよくあることだと思っているし、タカミもナスナもとても愛らしい女の子だと思っている。
センについてフジはまだ知らないことだらけだが、その長い前髪の下は一目惚れするような美少女。それを知っているのはケントだけということも考えられる。
もしそれを知らないで居て、フジが勘違いされるようなことをしてしまったら、校舎裏に呼び出されて腕を斬られるかもしれない。万が一でもそのような可能性は予め減らしたいとフジは思っての質問だ。
「聞きませんね」
「わたくしもぉ~」
「――同志ケントにアプローチする女子は……とても多い。だけれど……全て断っている……と聞いたことがある」
「センちゃんもケントくんにアタックしたの?」
「あらあら~、センちゃんたらぁ~」
「そ、それはない……」
タカミの質問にセンは顔をそらして答えた。少し焦ったような言い方をしたが、それは図星を突かれたという感じではなく、タカミに照れているようにフジの目からは見えた。
「そういう、同志ナスナこそ……男子に、モテると思う……。ど、どうなの?」
「中学生の頃のお話ですがぁ、たまぁ~に男の子からご好意のお言葉をいただきますよぉ」
「素敵ですね!」
「……マジ?」
タカミは感動の声を上げ、センは驚いたように顔を上げてぼそっと声を出した。
「いつも驚いてしまってぇ、お返事を一日待っていただくのですがぁ、次の日にはいつもぉ、男の子のほうから撤回の連絡をいただくんですのぉ」
「なんででしょうね?」
「さぁ? 皆様ガクガク震えていらっしゃったのでぇ、もしかしたらお体を壊してしまったのかもしれませんねぇ」
「同志ナスナ……多分、それはないと……思う」
首を傾げるナスナたちをよそに、フジの背中に悪寒が走った。
(それって、お家の方から『うちのお嬢に手をだすな』って感じで来るからかな……)
ナスナの家には親衛隊のような存在がいて、それが動いたとすれば納得がいく。
(僕はナスナさんとなにもないから、なにもないけど――考えるのやめよう)
「じゃあ、タカミさんは?」
フジは自分の思考と話を逸らすためにタカミに話題を振ってみた。
文字通り幸運の女神のような存在だとフジが感じているタカミという女の子。元気で大きな声、驚くほどのポジティブシンキング、幸福部を立ち上げるほどの行動力。さらに愛らしく揺れるポニーテールや、太陽より眩しい笑顔。自分に足りないものを多く持っており、魅力的な女の子の要素を多く持つ彼女は、とても魅力的だとフジは思っている。
そんな女の子がモテないわけがないだろう。
「タカミさん……モテそうだから、私も気になる……すごく」
「ですわぁ」
「わたしは恋人ととかいませんよ」
タカミはさも当たり前のような口調で答えた。
「恋人がいると幸せってイメージが僕の中にあるんだけど、作らないんだ」
「そうですねぇ……。でもほしいって思いますよ! それから結婚して、家族を作って幸せに暮らすのが夢かもしれません」
「「そう、なんだ……」」
声がハモった。
フジとセンは顔を合わせ、どうして同じことを同じトーンでつぶやいたのか考える。
「あらあら~」
「おふたりは仲がいいですね!」
「そ、そんな。まだ知り合って数日だよ!」
フジは顔を赤くして慌てて否定するが、センはうつむいて前髪で顔を隠していた。




