居候先3
「おーい、起きてー。朝ですよー!」
誰かに身体を大きく揺さぶられ、拓雅は重い瞼を無理矢理押し上げた。
「――!」
瞬間、拓雅は思わず目を見開いて硬直した。
彼の脳裏に昨日の映像がフラッシュバックする。
あ、死んだ。と拓雅は内心絶望した。
朝一番に視界に飛び込んできたのがあの少年だったからである。
しかしよく見てみると、昨日と今日ではどこか雰囲気が違う気がした。
人懐っこそうな瞳の色は鮮血のような赤ではなく澄んだ琥珀色で、訝しむ拓雅に小首を傾げる少年の仕草一つを取って見ても、全然別人のように可愛らしい。
「もしかしてかなり驚いてます?あ、俺が君を殺しに来たとでも思いました?」
ふふっと笑った少年は、図星を突かれて動かない拓雅に自分が着ている物と同じ白いシャツを放って寄越した。
「今日から学校ですよ?もたもたしていると置いて行きますからね。」
少年はそう言うと先に部屋を出て行った。
(喋り方も全然違う・・・)
呆然とそれを見送った拓雅は、それから五秒後にハッと我に返った。
「やば!急がないと!!」
居候先に来て翌日に登校というのはどうかと思うが、それまでの準備が遅れてしまったのでしょうがない。
八百万学園の制服に着替え、校章が入ったブレザーと鞄を手に抱えて拓雅がリビングに下りると、少年とルカが先に朝食をとっているところだった。
「おはようございます。」
「おはよう、拓雅君。貴方のはそこにあるから。」
目で示された少年の隣の席に腰を下ろした拓雅は、テーブルに並ぶ料理に眉を顰めた。
「これ、全部冷凍食品ですか?」
「そうよ。あ、でもその卵焼きは近くのコンビニ。
私、料理作れなくてさあ。これだから三十過ぎても結婚できないのよねぇ。」
「・・・。」
拓雅は溜息を吐いてレンジでチンされた白いご飯に箸をつけた。
ラップから落ちた水滴のせいでご飯粒がやけにベチャつく。
他の料理も水っぽく、母親が料理上手だった拓雅にとっては微妙だった。
「何だったら僕が作りますけど。」
ぼそっと言ってから、彼女のプライドに傷が入ったかと後悔した拓雅だったが、予想に反してルカは目を輝かせた。
「いいの!?」
「・・・はい。タダで居候させてもらうのもなんなので。」
「助かる~。じゃあ、後でお金を渡すから今夜の夕飯からお願いしてもいい?」
「え、ええ・・・。」
予想以上の反応に、言い出した拓雅自身が引いてしまった。
その時、それまで二人のやり取りを静かに聴いていた少年が拓雅の肩をツンツンと突いて来た。
拓雅が少年に視線を投げると、彼は上目遣いに視線を返した。
「俺も。」
「?」
「俺には家族がいません。だから俺のも作って下さい。」
何か訳ありな言葉でそう言われ、拓雅は断ることなど考えずに頷いた。
「うん、わかった。ええっと・・・。」
「波瑠です。月代波瑠。」
ニコッと笑った波瑠は可愛らしく、純粋だった。
拓雅はいつの間にか彼に抱いていた畏れをすっかり無くしていた。




