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琥珀紅の色  作者: ぺnon
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     鬼ごっこの結末

運転手を皐月にチェンジし助手席には山崎、後部座席には拓雅と花笑がそれぞれ乗った。

拓雅の膝の上に頭を預けて眠っている花笑の寝顔はやっぱり波瑠と似ている、そんな気がした。



そういえば波瑠はあれからどうしたのだろう・・・。

ルカと上手く落ち合って拓雅の帰りを待っているのだろうか。それとも・・・



ふと窓の外を見ると、もうすっかり日が落ちた黒い空に濃い影が視界に掠めた。

空よりも黒い陰影。まるでスクリーンに映し出された影絵のようなそれは、連なった家の屋根から屋根へと軽やかに飛び移って行く。



「あ、そうそう。さっきの鬼はやっぱり中級の鬼だったっす。」



唐突に皐月が山崎に向けて言った。

山崎は「そうか。」とだけ答え、その先に皐月が言おうとしている事を見透かすように大きく頷いた。



「じゃあ、そろそろか。」



山崎の一言が上手く理解できなかった拓雅は遠くで横切る影絵の意味も考える前に、深くも浅い眠りに落ちていった。








「くそっ。あと少しだったのに。」



思わぬ邪魔が入ったせいで極上の人間を喰い損ねてしまった。

旧鼠の事も忘れて恐怖のあまり逃げてしまったが、彼が立ち止まって十分と経たないうちに全員が必死の形相で追って来た。安心したのと同時に恥ずかしさが込み上げてくる。


今日は偶々運が悪かっただけだ。次に狙えば今度はきっと上手くいく。

そう考え直し、殺鬼はアジトに繋がる裏道に入った。

高い建物が多い路地とは違い廃墟が多いこの道は、人気も少なく隠れ住むのには丁度いい。



・・・・・・・・・・・・・。



不意に頭上を駆ける風が妙な音を立てて揺れ蠢いた。

それは下手な口笛を聴いているようで、何だか居心地が悪い。

空を見上げると夜の闇に混じって更に黒い影が一つはためいていた。

だがそれはほんの一瞬で、瞬きを一回するとその姿はどこかへ消えた。



「何だ・・・?」



殺鬼は剣呑に眉を顰め、何気なく後ろを振り返った。



「―――――!」



瞬間、赤い閃光が視界を掠めた。



「ぎゃああああぁ!」



旧鼠の一人が右肩を押さえて鼠独特の高い悲鳴を上げる。よく見ると押さえられた肩から先が、無い。

傷口からは鮮血が噴水の如く吹き出し、呆然とする仲間の顔や身体を赤く斑に染めていく。

殺鬼は慌てて辺りを見渡すが、自分達以外の人影を捉える事は出来なかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



また風が揺れた。

動きを目で追うと、その先でまた血柱が上がった。

次々と聞こえる断末魔に殺鬼は何もできず、化け物のように荒れ狂う殺人風の動きを必死で追うだけだ。

その間に風は殺戮を繰り返す。ものの数秒で裏道は血で広がった。


気付けば、残っているのは殺鬼一人だけ。

風は彼の目の前で渦を巻き、一人分の影を形成して四散した。



「貴様っ!よくも・・・!」



すっかりガチガチになった身体を叱咤して、殺鬼は声を荒ら上げた。

だが影は咥えていた物を放り出しただけで何も答えない。

無惨に捨てられた物体の正体は、最初に襲った旧鼠の右腕だった。



「・・・。」



影が静かに微笑んだ。それだけなら天使のような美しさを持つのだが、口から覗く紅い歯が凶悪な悪魔を演出させて、もうそれにしか見えない。


ゆら・・・っと徐に影の身体が揺れ動いた。かと思うと、再び一陣の風になって姿を消した。



「・・・っ!」



殺鬼が咄嗟に後方へ跳ぶと、風の隙間から白刃が一薙ぎに横切った。

間一髪で躱して影と適度な距離を取ると、相手も攻撃を止め、小柄な身体を月光に晒した。

そこで初めて殺鬼は敵の全貌を見た。・・・子供だった。

八百万学園の制服を身に纏い、ネクタイが真紅な事からおそらく中等部の生徒だろう。

小学生にも見える愛らしい見てくれとは裏腹に、爛々と輝く紅い瞳はまるで獲物に狙いを定めた猫のようだった。



「正気かよ・・・。」



殺鬼は対峙している少年を見据えて息を詰めた。

鬼の階級と見た目は比例しない事が多い。

現に彼と少年の力の差は向かい合っただけでも判然と分かる。当然、少年の方が上だ。

つい先に別の上級の鬼にも遭ったが、少年の放つ異様なオーラはその鬼をも超える圧倒的なものだ。


どうしたら逃げられるだろうか。

背を向けて全力で走る?

少年が自分を殺そうとしているのは絶対だ。逃げたとしても命乞いをしたにしても、助かる確率はかなり低い。


その迷いが殺鬼の集中力を疎かにした。

少年が音もなく地を蹴った事に気付くのが一瞬遅れたのだ。



「ひゃっ!」



白い光の尾が殺鬼の胸を横薙ぎに通過すると、一瞬で光は紅いそれに色を変えた。

殺鬼がコンクリートの地面に倒れるまでの僅かな間、少年の攻撃はとめどなく続いた。

まるで猫が、捕らえた獲物で暫くじゃれ遊ぶかのように。


動かなくなった男の死体を見下して、愉快そうに顔を綻ばせた。

さらに周りを見渡すと余計満足さが増す。


死神の笑い声が聞こえそうなほどの高揚感に浸った後、不意に少年は背中に背負っていた細長い包みに手を掛けた。引き抜かれたそれを月明かりに翳すと妖艶な輝きを持つ。

それを血だまりの中心に突き刺すと、貫けない筈のコンクールにいとも容易くひびが入った。

束を握り、少年は空を仰ぎ見た。

天には十六夜の月が優しげな光をたたえて浮かぶ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



風が吹いた。

やがて十六夜の月は灰色の雲に隠れて見えなくなった。



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