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琥珀紅の色  作者: ぺnon
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     鬼ごっこ2

殺鬼の言った通り、走り出して1分も経たないうちにブロック塀の壁に突き当たった。

それを上って超えられればいいが全力ダッシュを繰り返した後の体力では、拓雅が行けても花笑が無理だ。



「拓たん。花笑が時間を稼ぐから、その間に。」



「!、何を言って・・・っ。」



「これでもちょっとした結界は結べるんだよ。だから・・・。」



「無理に決まっているじゃないか!だったら僕が。」



そう言って拓雅は身に着けていたペンダントを見えるようにシャツの内側から引っ張り出した。

鮮やかに紅く光る一つの石は波瑠の血気の塊。殺鬼の格がそんなに高くなければビビらせるぐらいは出来る筈だ。



「・・・とにかく、二人とも助からないと。」



さっきまでの会話だと、どちらかが死ぬという結果になる事に気が付いた拓雅は、少しずつ大きく聞こえてきた足音に息を呑んだ。



「おいおい、リアル鬼ごっこはもう終わりか?ま、鬼ごっこにもなってないけど。」



旧鼠を後ろに引き連れた殺鬼は、意気揚々とした様子でやって来た。



「逃げたつもりが逆に絶体絶命ってか。気の毒なもんだぜ。」



殺鬼はそう言うと徐に右手を挙げた。

すると一人の旧鼠が飛び出し、拓雅と花笑の頭上に飛んだ。

指先から人間のものとは思えない、長く鋭い爪が伸びる。



「禁っ!」



対抗するように、花笑が聞きなれない単語と共に両掌を空高く掲げた。

途端に見えない壁が旧鼠の身体が弾かれる。



「くそっ。また小技を使いやがって。」



「落ち着け旧鼠。どうせそう長くは続けられない素人だ。」



旧鼠の舌打ちに殺鬼が冷静に指示を出す。

そして今度は5人の旧鼠が続けて彼女に牙を剥いた。



「禁っ!」



それを花笑は歯を食いしばって迎え撃つ。

だが、形勢は明らかに数で分がある旧鼠達の方が有利だ。



「・・・。」



拓雅は庇われている己に嫌悪感すら覚えた。

ただ見ているだけの自分が嫌だ。だが血気の石は身に着けている拓雅にしか効力を発揮しない。

いっそ花笑に付け替えたいが、もうそんな心の余裕もなかった。


次第に花笑の表情が限界を示し始めた。

ついに、もう何回目か分からない旧鼠の攻撃が脆くなった結界を打ち破る。



「花笑!」



拓雅は、届きかけた爪の脅威から咄嗟に彼女を庇った。

拓雅の肩を旧鼠の爪が赤い尾を引いて通過する。



「ぐっ・・・。」



右肩に激痛が走った。

呻く拓雅に旧鼠は止めを刺そうとしたが、血気の石が妖しく光ると血相を変えて身を翻した。



「どうした!?さっさと止めをさせ!」



「無理だ!やるならあんた一人でやってくれ。」



旧鼠がそう言うなり、殺鬼の潰れた眼が剣呑さを帯びた。



―――――――――――――――。



「なんだあ?そんなに言うなら殺ってやるさ。」



瞬間、その旧鼠の首は赤い塵と化し、消えた。

崩れ倒れた胴体を足で蹴散らした殺鬼は残りの旧鼠を下がらせると、長い舌をチロチロとちらすかせながら拓雅に近づいた。



「ダメ!」



花笑が声を上げて結界を張ろうとしたが、霊力が切れた身体では四肢を動かすので精一杯だった。



「おい、立てよクソガキ。手前が何をしたかは知らねぇが、俺には通じないって事を教えてやる。」



肩を押さえて蹲る拓雅の襟首を掴み、無理矢理立たせた殺鬼は妖しく光る血気の石に目を留めた。


人間の生命力とは違う禍々しい生気・・・。それでいて清廉な真神(まがみ)が狙うような紅い眼の幻覚に囚われた殺鬼は、一瞬で恐れに顔を引き攣らせた。



「こんなモノ・・・何でお前みたいなガキが持ってんだ!」



壊れた殺鬼はその怒りに任せて拓雅を突き飛ばした。

壁に背中を打ち付けた彼の息遣いは荒かったが、それでも花笑を庇おうとする姿勢は変わらない。



(奴にも、通じる・・・!)



「くそっ!俺は、俺は・・・!」



以前幻覚に囚われたままの殺鬼は、焦点の合わない眼を忙しなく回しながら尖った爪を我武者羅に振り回す。

狙いは定まっていないが、確実に拓雅の身体には傷が増えていく。



「何が格だ!俺はそんなもの、払いのけてやるっ!」



殺鬼がここ一番の悲痛の叫びを発した時、突然ゴウッ!と激しい風が吹いた。

風は殺鬼と拓雅の間に割って入り、殺鬼だけを幾度となく地面に叩きつけた。

拓雅はとても立っていられなくなっていつの間にか気を失っていた花笑の身体を覆うように身を寄せた。



「誰だお前。」



激しいダメージを受けたにも関わらず殺鬼は怒りの光を灯し、割り込んできた風の中に立つ人影に睨みを利かす。さっきまでの乱れは多少解消されたようで、独特に伸びた爪はいつの間にか引っ込んでいる。


花笑を庇った拓雅からは風の正体である人影の表情は見えない。ただ呆然と見上げているだけだ。



「駄目だなぁ、大の大人が中学生を虐めちゃ。そういう駄目な人は警察に捕まっちゃうっすよ?」



少年のような無邪気さを持った声色。

(この声、どこかで・・・。)



「ま、俺がその警察っすけど。」



影から浮かび上がった皐月はジャケットの裏ポケットから警察手帳を取り出し、形式めいた動作で開いて見せた。



「ふっ、ははは!何だよ。てっきり上級の鬼かと思ったけど、ただのお巡りさんか。」



殺鬼は片手を額に当てて大声で笑い出した。



「見たところ貴様一人みたいだし、どのみち俺らの敵じゃねぇ。」



殺鬼にシンクロするように、彼に従う旧鼠達も低い声で気味の悪いこだまを立てた。



「貴様一人でガキ二人を守れんのか。いいや、この人数が相手じゃ己の身も危ういか。」



「そうっすか?これでも喧嘩には強い方っすよ。」



対する皐月の態度はどこまでも飄々としていて、それが殺鬼の癪に障ったのか、さっきまでの表情を一変させた。



「俺達のやっている事はお遊びじゃねぇんだ!狩りなんだよ!

 お前ら、さっさと殺っちまえ!」



殺鬼の一声で、旧鼠達が一斉に皐月目掛けて飛び掛かった。



「そうそう。さっき上級の鬼とか言ってたっすけどぉ。」



ここまで追い詰められても飄々とした態度を崩さない皐月は、一歩も動く気配をみせなかった。

その間に皐月の頭上、目の前、足元に鬼の脅威が迫る。



「・・・。」



拓雅はギリギリで見ていられなくなって目を逸らしそうになった。



「念鬼・・・?」



「!、花笑!?」



薄っすらと目を開けた花笑は、けれども真っ直ぐに皐月の後ろ姿を見据えていた。



「全く、人の話は最後まで聞くもんっす。」



次の瞬間、皐月に仕掛けた旧鼠全員が無防備に宙を舞った。

だが、皐月自身は一歩も動いていない。ただ空気の流れが大きく変わっただけだ。



「念鬼、だと!?」



その様子を傍観していた殺鬼は石の効果もあってか一瞬で怖気付き、強く舌打ちするとそのまま仲間を見捨てていち早く踵を返した。



「あーあ。リーダーは君達を置いて行っちゃったっすよ?どうすんの?」



悶える旧鼠を皐月が見下すと、旧鼠達は必死になってその場から逃げた。

殺鬼の後を追ってそれぞれに駆けて行ったのだ。



「大人しく俺に逮捕された方が楽だと思うんっすけどね。」



皐月は寂しく独り言ちると、にっこりと笑みを湛えて拓雅と花笑の方に振り返った。



「君たちはどうする?今の時間は危ないからお家まで送るけど。」



「・・・何で追わないの?」



花笑は差しのべられた皐月の手を取ろうとせず、真っ直ぐに彼の瞳を見ていた。

何故か拓雅の腕を握る彼女の手に自然と力がこもる。

震えているのだ。花笑は殺鬼達よりも助けてくれたこの男を恐れている。



「お巡りさんくらいの鬼なら一瞬で・・・。」



「あ、えっと・・・俺は人しか喰わないから同類に興味を持てないんっすよ。」



弱々しい声の花笑に優しい笑みを湛えた皐月は彼女を庇う拓雅に目を向けると、笑ったままスッと目を細めた。

元々狐目だったのが、余計に彼の企みを読めなくさせる。



「ここが分かったのは拓雅()の匂いを拾ったからなんっすよ。本当は今すぐにでも喰らいたいぐらいで・・・。」



そう言いながら皐月は無意識のうちに舌なめずりをした。だが、拓雅の首に下げられたペンダントがキラリと妖しく光ると、またスッと裏の顔を全てしまった。



「でも仕方ないっすよね~。既にマーキングされてるっすから。」



皐月が残念そうに溜息を吐いて見せたところで、三人を眩しい光が照らしだした。

どうやら車のヘッドライトのようだ。



「皐月ー!鬼を見つけたんだったら、そう言ってから飛び出せ!」



小路の先から山崎の声が皐月を怒鳴る。



「あ、やべ。すいやせーん。」



声の方に振り返った皐月はペロッと悪戯小僧のように舌を出す。

第三者の介入で安心したのか、拓雅の腕を目一杯の力で掴んでいた花笑の手が急にハラリと下がった。



「花笑!?」



再び気を失った花笑の身体を慌てて支えなおした拓雅は、不安げに彼女の顔を覗き込む。



「きっと霊力が切れたんっすよ。女の子にしては頑張ったと思うっす。」



「何が女の子にしては、だ。偉そうに言いやがって。お前は犯人を逃がしただろうが!」



小路を抜けて来た山崎は、陽気な皐月の頭を思いっきり引っ叩いた。



「いーっ!久しぶりにキタっすね。」



それでも皐月はヘラヘラと笑みを絶やさない。

その傍らで山崎は花笑に近づくと、傷だらけの拓雅の代わりに彼女を抱きかかえた。



「いいから早く行くぞ。花笑(この子)のお婆さんが心配している。」



なんとか自力で歩ける拓雅には目でさとし、四人は山崎が運転して来た車に乗り込んだ。









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