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琥珀紅の色  作者: ぺnon
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     鬼ごっこ

終わりのショートホームルームが終わり、拓雅と波瑠は大通りを歩いていた。

事件があったという路地裏への入り口の前を通りかかると、黄色いテープできっちりと閉ざされていた。

他の行き交う人々はまるで気にも留めず、何もなかったかのように平然とした顔をして通り過ぎていく。

不安に思っている割にはあまりにも無神経だ。

といっても、実際にそう過ごすしかないのだというのも分かっている。拓雅自身もそうだ。



「・・・波瑠?」



テープの前を五歩ぐらい通り過ぎた所で、拓雅は足を止めて振り返った。

後方で同じく足を止めていた波瑠は通路の先に広がる薄暗い闇を凝視している。



「拓雅。先に行っていてくれますか。」



「え?どうしたの、急に・・・」



訳を訊こうとした拓雅の台詞が終わる前に、波瑠は地を蹴って軽々とテープを飛び越えて行ってしまった。

拓雅が通路を覗き込んだ時には既に彼の姿は見えず、足音すらも聞こえなかった。



「波瑠・・・。」



呆然と立ち尽くした拓雅は、突然視界を奪われて一瞬だけ身を固くした。



「だーれだ?」



少女の声と目を塞いだ手の温かさに気付くと、拓雅は少女の腕を軽く持ち上げた。



兎荷(とつか)さん。」



光が再び入ってきた目をパチパチさせて振り返ると、ニコニコと笑った彼女の顔があった。



「ピンポーン!でも名字より下の方が良いな~。花笑って呼んでよ、拓たん。」



(拓、たん・・・。)



まだ慣れないニックネームに苦笑いの拓雅だったが、彼女の要望には素直に頷いた。

そうすると、花笑は顔を綻ばせて喜んだ。



「今、一人?」



「え・・・うん。そうだね。」



「じゃあ、花笑と一緒に帰ろう。」



そう言うなり、花笑は拓雅にピッタリと密着した。周りの気温が気温で暑い筈なのだが、それでも暫く彼女は離れようとしなかった。



「花笑ね、お父さんとお母さんがいないんだあ。」



道中、二人の会話は家族の話になった。

拓雅がルカの家に居候している事を言うと、花笑はまるで他人事のように自分の事を話し出した。



「だから、今はお婆ちゃんと暮らしてるの。」



「なんか・・・波瑠と似てる気がする。」



拓雅は遠い目をして花笑と波瑠の面影を照らし合わせた。

親が一緒に居ないのと、性格の明るさの裏に暗い影が映っている所。拓雅も親と離れて暮らしているものの、二度と会えないという訳ではない。その点から、拓雅には二人に差す影の正体は分からない。



「そうだ。波瑠と知り合いだって・・・。」



「うん。中等部の一年生の頃に同じクラスだったんだ~。でもそこまでの仲じゃないからお互いに知り合いって事にしてるの。」



「昨日の事故の事は・・・波瑠に話した?」



「?、話してないよ。」



上目遣いに視線を上げて首を傾げる花笑に拓雅もまた首を傾げた。どうやら波瑠の言っていた知り合いとは別の人物らしい。すっかり彼女だと思っていたのに。


話しているうちに事故があった通りに差し掛かった。

普通に歩いていると、ガードレールに腰掛けていた見ず知らずの男が徐に立ち上がった。かと思うと、二人の進路を塞ぐように立ちはだかった。

背が高く、体格の良い男(どことなく両角に似ている気がする)は目深にフードを被っていた。そのせいで顔の表情はよく分からない。

怪しい男に自然と警戒感が生まれ、剣呑な目つきになる。



「拓たん・・・。」



拓雅を見上げる花笑の表情が変わった。

恐怖で彩られた瞳は揺れ、拓雅の腕を後ろへと引っ張る。



「花笑知ってる。鬼だよ。」



「鬼!?」



懸命な彼女の訴えに、拓雅は目の前に立ちはだかる男に目を向けた。


――――鬼としての活動時間は夜ですから――――


そう言った波瑠の声がふと脳裏を過った。空は日が延びたお蔭でまだ夕暮れにもなっていない。

刻限にしては早すぎないか。



「おっと、その声は昨日の嬢ちゃんじゃないか。また随分と美味そうな奴を連れてるな。」



男は口だけ不敵に笑うと、ゆっくり二人に近づいて来た。



「拓たん、逃げよう!」



花笑はそう言うなり拓雅の手を引いて、来た道を逆走しだした。



「おい、待てコラ!」



男も一拍置いて怒号を上げると、追いかけて来た。

だが花笑は女の子にしては足が速く、男の足音はどんどん遠ざかって行った。


住宅街に入る角を曲がり、適度な場所で足を止めた時には二人ともすっかり息が上がっていた。

互いに言葉を交わす余裕がなく、息を整える事に集中する。



「奴は何だったの。」



少し落ち着いてきた拓雅はずっと気になっていた疑問を口にした。



「旧鼠っていう妖怪。下級の鬼らしいけど、花笑は霊力が強いみたいでよく追いかけられるの。

 ・・・だから神崎先生に相談してる。」



花笑はまだ荒い息遣いを何とか抑えながら言った。彼女も拓雅と同じ体質らしい。



(だからパソコンに・・・。)



妙な所で合点がいった拓雅は、ふわりと頬を撫でたぬるい風に違和感を覚えた。

人気はないが変な気配を感じる。



「見つかった・・・?」



呟いたのも束の間、今度は拓雅が花笑の手を取って走り出そうとした。



「!」



しかし花笑は急には走れず、足がもたついた。

前のめりに倒れた彼女の身体を受け止めた拓雅は、顔を上げた先にさっきまでいなかった人影に気が付いて目を見張った。



「直感の良さは褒めてやるよ、小僧。だが、もう手遅れだぜ?」



前の男とは別の男のようだ。身長はそんなに高くないが、ギョロリとした潰れかけた眼はかなりいかれている証拠だった。

焦点なく瞳を彷徨わせ、その男は不敵に笑う。



「どちらにしろ袋の鼠だからよお。」



男がそう言うと、反対側からさっき撒いたはずの男と他数人が姿を見せた。



「小娘。昨日は逃がしたが、同類を引き連れて戻って来てくれた事は感謝してるぜ。」



実際は合っていない焦点を花笑に見据えて男は言った。



「あいつは殺鬼だよ。旧鼠とは違う・・・。」



小声で言う花笑に拓雅は頷く。



「花笑。走るからついて来て。」



彼女の手を握る手に力がこもった拓雅の台詞に、花笑は少し沈黙してから小さく頷いた。



「なーに二人で頷き合ってんだ。コソコソされるのはあまり好きじゃねぇなぁ。」



不審に思った殺鬼が一歩動いた瞬間、拓雅は意を決して走った。花笑も直にその後に続く。

前後には殺鬼と旧鼠。ちょっと危険だが、左手にある小路にかけてみる。

彼らの罠かもしれないが、このまま無残に喰われるよりはずっとマシだ。



「ちっ。舐めんなよ。」



小路に入った二人をゆっくり追いかけながら殺鬼は舌打ちをした。が、すぐに余裕の笑みがこぼれる。



「その先は行き止まりだ。」




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