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琥珀紅の色  作者: ぺnon
17/17

     日曜日

「うん。もう大丈夫ね。これで包帯生活はお仕舞いっと。」



日曜日の朝。拓雅が二階から下りてくると、リビングではルカが波瑠の瞳をじぃーっと覗き込んでいた。

波瑠は彼女に無理矢理開けさせられていた右目をしきりに瞬かせ、飛んだ水分を取り戻そうと必死だ。

拓雅にはその様子が愛らしく見えて自然と顔が綻んでしまう。



今日は休日というのもあってか、彼にしては珍しく寝坊してしまった。

その時・・・



ピーンポーン



チャイムの音で現実に引き戻された拓雅は我に返ると、机の上に置かれた時計を見た。

丁度10時を指す針の先を目で追って初めて、拓雅はハッと顔を上げた。



「・・・さては約束を忘れていたわね。」



ルカの呟きを余所に拓雅が慌てて玄関のドアを開けると、若葉色の爽やかなロングスカートをはいた花笑が太陽のような笑顔を咲かせた。



「遅ヨウだね、拓たん♪今起きたー?」



「ごめん。急いで準備するから、上がって待ってて。」



「うん♪お邪魔しまーす!」



はね放題の髪を誤魔化すように照れ笑いを浮かべた拓雅は、彼女を中へ招き入れた。



「わー、猫たんだー!」



リビングを通った途端、花笑はソファーの上で悠々と寛いでいたコロを見つけて目を輝かせた。

微睡んでいたコロは花笑の声に驚いて跳びあがったが、彼女のキラキラした顔を見ると人懐っこく寄って来た。



「いらっしゃい、兎荷さん。」



「こんにちわー!」



ルカはコロの頭をなでなでする花笑と絶妙な距離を取りながら、先生らしくにっこりと微笑んだ。



「あ、いけない!拓君、私今からちょっと出かけるから戸締り宜しくね。」



「はい。いってらっしゃい。」



「先生、いってらっしゃーい!」



ノートパソコンを鞄に押し込んだルカは、拓雅と花笑の見送りを背に受けて慌ただしく出かけて行った。



「じゃあ、着替えてくるから。」



「うん。」



拓雅も支度の為、リビングを後にする。



「・・・ねぇ、君。」



突然ダイニングテーブルの椅子に座っていた波瑠に呼び止められ、コロを抱き抱えていた花笑は一瞬肩を震わせた。その様子に、波瑠は怪訝そうな表情を浮かべる。

波瑠自身は普通に話しかけただけなのだが・・・。



「俺が怖いですか?」



「うん。ほんのちょっとだけ・・・血のにおいがする。」



努めて震えを抑えた花笑のか細い声に、波瑠は瞬間キョトンとした。



「ふふ・・・やっぱり分かりますか、君には。」



そう言って波瑠が無垢に微笑んだのを最後に、しばらく二人の間に沈黙が降りた。





「ふわぁ・・・。」



ふと波瑠は目を閉じて、一度小さな欠伸をした。

それから瞳を開いた時、鮮やかな紅い眼が花笑を射抜いた。


思わず後退りした花笑は、コロが腕をすり抜けても全く気にかけないくらいに身体を硬直させていた。



「・・・ま、いいですけど。」



それだけ言った波瑠はまた目を閉じ、自分の腕を枕にして机に突っ伏した。



「・・・。」



何だったんだ、今のは。

言葉にはしないだけで、瞳の力だけで圧力をかけて来た。

これが上級の鬼のやり方なのかと花笑は一気に疲労感を覚えた。


どうやら波瑠は本当に寝てしまったようで、テーブルに上がったコロが彼の髪でじゃれ始めてもピクリとも動かなかった。

こうして見ると、お世辞にも上級クラスの鬼には見えない。

さっきまで花笑を圧倒させていたオーラもいつの間にか消えているし、この状態の彼となら友達になれるんじゃないかと本気で思う。



「ごめん。遅くなった。」



それから5分くらい経った頃、階段をドタドタと鳴らして拓雅が下りて来た。

ソファーでコロと静かに遊んでいた花笑は、首を横に振って控えめな笑顔を作った。



「あれ、波瑠は?」



「あそこで寝てるよ。」



「ミャー。」



テーブルに突っ伏して寝る波瑠を指差して教えると、拓雅は困ったように溜息を吐いた。



「うーん。出来れば波瑠も連れて行きたかったんだけどなぁ・・・しょうがないか。」



拓雅は椅子に掛けてあったタオルを手に取ってそれを波瑠の肩に掛けた。

その様子が第三者の花笑から見ると、弟を心配する兄の様で実に微笑ましい光景だ。



「放っておいて大丈夫?」



「あ、うん。休日はいつもこうなんだって。神崎先生が。」



「そう、なんだ。」



爽やかに笑う拓雅に花笑は曖昧に納得して、二人はそっと外に外出した。



「何処から行く?花笑はどこからでもいいよー。」



今日は、まだ土地勘が浅い拓雅の為に花笑が案内をするプランだ。



「うーん。じゃあ、学園周辺からお願いしようかな。」



「OK♪いざ出発ー!」



勢いに任せて花笑は拓雅の腕をとり、元気よく歩き出す。

引っ張られる形になった拓雅は、どことなく照れ笑いを浮かべて彼女について行く。


太陽の光が照り付ける夏の始まりと共に、二人は人気で賑わう街中に紛れ、吸い込まれるように消えて行った。



                                             第二話 終


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