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琥珀紅の色  作者: ぺnon
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      二人の刑事2

車を発進させて間もなく、皐月は抑えられない笑いを思いっきり声を上げて解放していた。

いつも陽気な彼だが、ここまでくるとそれを通り越してなんだか怖い。



「皐月、笑い過ぎだ。」



見かねた山崎がつっこむが、それでも彼の行き過ぎた笑いは止まらない。



「だってマジでウケたんっすよ。あれで隠したつもりだったなんて。ハハハ」



「おい、まさかわざわざ指摘したのか。」



「しますよそりゃあ。玄関に靴が残っていたのもそうっすけど、やっぱり滲み出ているあの霊力っすかね。

 もう、抑えるのに必死すぎて・・・っ。」



「あれはそもそも隠しようのないものだ。お前は今後一切あの家に近づくなよ。」



「うぃーす。」



それっきりいつものように会話は途切れた。

たまに皐月のしゃっくりのようの声が聞こえたが、山崎は完全に無視をして目を閉じた。

車は交差点を右に4・5回曲がり、閑静な住宅街に入った。



「先輩、着いたっす。」



「・・・おう。」



その中の一軒の前に車を停めた皐月は、助手席で居眠りをしていた山崎の肩をポンポン叩いた。



「皐月、一つ訊いていいか。」



「何っすか?」



車から降りかけた所で、山崎は皐月を振り返る。

その顔はマジだった。



犯人(おまえ)じゃないよな。」



瞬間、皐月の動きが止まった。

かと思えば、肩を震わせて弾けるように笑い出した。



「冗談きついっすよ。俺なわけないじゃないっすか。ハハハ。」



「そ、そうか・・・悪かったな。」



「全然大丈夫っす。寧ろそう思う方が普通っしょ。」



さっきとは違ってすぐに笑うのを押さえた皐月は、山崎がマイホームに戻るのを見届けると、ゆっくりと車を再発進させた。



「ほんと、冗談きついっすよ。」



独り言つ声はすっかり日が落ちた夜に吸い込まれて消えて行った。








「あーもうっ!ムカつく!なんなのよあの態度!」



刑事の二人が帰った後、ルカは一人で喚き続け、夕飯を食べている今でもその勢いは止まる所を知らなかった。

向かい席の拓雅は半ば呆然としながら彼女が静まるのを待っていた。


山崎がインターホンを押した時、拓雅は突然床下に隠れているようにとルカから言い渡された。

訳が分からず殆ど彼女の力で無理矢理押し込まれた形だったが、言われた通り拓雅は大人しくしていた筈、なのだが・・・。

その後、保管庫の蓋を開け放ったのは波瑠で、そこから出て見ればもうルカが喚き散らしていた、という訳だ。



「何が、じゃあそっからは任せるわ、よ!警察なら最後まで仕事しろっつーの!」



「あ、あの・・・。」



「ん?何?」



キレたままの口調で聞き返され、拓雅は一瞬怯む。

余計に訊きずらい。



「えっと・・・神崎先生は一体何を任されたんですか。」



「別に、いつもの事。

 拓君には関係ないから心配しないで。」



そう言いながら最後の一口をお茶で流し込んだルカは、バンッ!と両手をテーブルに叩きつけて立ち上がった。

拓雅のみならず、隣でのんびり食べていた波瑠、彼の膝の上で丸まっていたコロまでもがビクッと顔を上げる。



「じゃあ私、先にお風呂に入って来るから。ご馳走様。」



そう言うなり、ルカは足早にリビングから出て行った。



「・・・何があったの?」



「・・・。」



「そもそも何で僕は隠れなくちゃいけなかったんだ?」



「皐月がいたから。」



ルカに口止めされているのか、波瑠は一つ目の質問には答えず、二つ目には端的に答えた。



「皐月は鬼ですから、拓雅と顔を合わせるのは危ないと思ったんです。

 彼は俺より人のオーラには敏感なので。」



「・・・あのさ、前々から訊きたかったんだけど。」



拓雅はルカと自分の食器を流しに置き、波瑠の正面の席に座った。



「鬼って何なの?波瑠もそうだって言うけど、見た目はどう見ても人間だし、僕にはよく分からない。」



「そうですね・・・人間がつくった辞書で言うのなら、『超人的な能力を持つ存在』。

 つまり『鬼神』でしょうか。

 妖怪というのもありますが、これでは範囲が広すぎるのでちょっと違いますね。

 かといって『鬼神』というのも些か・・・。」



どう表現していいのか悩む素振りをみせる波瑠は、しばらく一人で唸った。



「取りあえず、人間の生命力をあらゆる形で捕食する生物とでも言っておきましょうか。」



「人間の生命力を捕食する生物?」



「はい。

 例えば俺なら血に宿った血気。前に会った両角は、精神の力である霊力といった風に・・・

 大体はこの二種です。」



波瑠は右手の人差し指と中指を立てた。

が、「ただ・・・。」と薬指も付け加えた。



「大半は、人間と同じ栄養を取っているだけでも足りる奴なんです。

 その殆どが力の弱い奴なんですけど、それは俺や両角のように人間を殺すまで生命力を取らなくても、ちょっとだけの量で済むんです。

 だから拓雅が俺の血気を持っている限り、小鬼は近づいて来ない。」



ここまで喋ると、波瑠はコップに入ったお茶を一気に飲み干し、胸元で合掌をした。

波瑠が食器を流しに運んでいる間、拓雅は首から下げたペンダントを右手でいじっていた。

波瑠の紅い瞳と同じ色をした綺麗な石に鎖を通しただけの物だが、これを身に着けてからここ数日、今まで鬱陶しいまでに近寄って来ていた幽体の姿を一度も見ていない。



「・・・という事は、波瑠ってその鬼の中じゃかなり格上?」



「そう、なりますね。なんたって、卑弥呼の時代から生きていますから。



「は!?」



ペンダントの鎖をシャラシャラと弄んでいた拓雅は、下に向いていた意識を上に上げた。

卑弥呼・・・という事はつまり、弥生時代。

一体何年前だ?

凄い事を世間話のようにサラッと言ってしまう波瑠との会話は、どうしても反応が一拍遅れてしまう。



「冗談だよね?そうじゃないと僕の頭がついて行けない。」



「ごめんなさい。本当です。」



申し訳なさそうに苦笑いする波瑠の容姿を見ていると、ますます頭が混乱しそうになる。

何しろ人間の常識では通用しない話である為に、ここはあえて何も考えずにいた方が早く整理が着きそうだ。



「でも鬼の格の上下は、何も生きた年数で決まるわけじゃないですよ?

 皐月警部補が良い例です。

 歳は見た目通りですけど、格で言えばかなりの上位だと思います。

 今日は俺が居たのでスルーでしたけど、もし拓雅一人だったら・・・。」



台詞の先に行く前に、波瑠は自ら言葉を濁した。

それだけで何となく察しはつく。



用は、お陀仏だと――――。



「大丈夫、なのかな。」



「大丈夫です。拓雅を護る為に俺の右目をあげたんですよ。」



波瑠は活動を再開したコロとじゃれ合いながら右目を指した。

波瑠の琥珀色の瞳のうち、左目は宝石のように澄んでいるが、視力を失ったばかりの右目は若干濁っているように見える。

今は取っているが、外に出るときは包帯をまた巻かないといけないらしい。



「何でそこまで・・・。」



前にも訊いたこの疑問を、拓雅は無意識のうちに口走る。

波瑠とは約一週間前までその存在すら知らない他人同士だったのだ。



「二回目ですよ、それ。

 一目惚れだと言ったじゃないですか。

 ・・・でも、くれぐれも日があるうちに帰宅してくださいね。鬼としての活動時間は夜ですから。」



「わかった。気を付けるよ。」



波瑠の忠告に、まだ死にたくない拓雅は素直に頷いた。




 

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