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『貢いで貢いで貢いだ先に何がありますか? ~エリザが再起を遂げるまで~』  作者: 蒼


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8. お金の価値

本当に買えたわ!


それどころか、まだお金が残っている。

ドレスを売った金は、銀貨三枚と銅貨一枚が残っていた。


タオルに石鹸、桶に鍋、包丁、布団…

ありとあらゆる日用品を買った。


その中で、一番驚いたのが薪だった。

(木って、買うものなのね……)

暖炉には薪が備え付けてあったため、今まで考えたこともなかった。


料理をするにも、お湯を沸かすにも薪がいる。

店でマーサの紹介だと伝えると、店員が丁寧に教えてくれた。

火打ち石の使い方。

薪の組み方。

火のつけ方。

ついでに、ろうそくへの火の移し方まで教えてもらった。


(これで、生活できそうね)

エリザは少し嬉しくなった。


(また、あのシチューを食べたいな。家でも食べられるのね。楽しみだわ)

それぞれの店で買った荷物は、布団屋の荷車にまとめて積んでもらった。

エリザも荷車に乗せてもらい、家へと戻る。


「ふぅ……疲れた」

家に着くなり、椅子に腰を下ろした。

(お茶にしよう。ポットとカップは買ってあったわよね)

ガサガサ。

山のように積まれた荷物を漁る。


(薪を土間に入れて……それから水を沸かして……)

そこで、エリザの手が止まった。

「……水?」

辺りを見回す。

「水がないわ!」

エリザは慌てた。


その時だった。


ドンドン。


ドアが鳴った。

「マーサ!」

救世主とばかりにドアを開ける。


「おや、帰ってきてたのかい。さあ、また出かけるよ」

「でも、私……水が……」

「いいから。あっ、その桶を持ってくるんだよ」

「え?」

「早くおし」


訳が分からないまま、エリザは桶を抱えてマーサについていった。

「いいかい、エリザ。よく覚えておくんだ」

歩きながら、マーサが話し始める。


「近所付き合いは大切だ。今から近所を回るよ。ここに住んでるのは、みんな私の店子だ。悪い奴はいない。気のいい奴らばかりさ」


マーサはエリザを見る。

「だからって、甘えていいって意味じゃないよ。良識は守るんだ」

「はい」


マーサは近所の家を一軒ずつ回った。 


ドンドン。


いつもの調子でドアを叩く。

「この子、エリザって言うんだ。知らないことばかりだから、少し世話してやっておくれ」

出てきた住人に、次々とエリザを紹介していく。

「よろしくお願いします」

エリザもそのたびに頭を下げた。


家の周辺を一通り回ると、二人はエリザの家へ戻ってきた。

「さて」

マーサが家の裏を指差す。


そこには井戸があった。

「ほら。これが共同井戸さ」

「井戸……」

「お前さんの家は井戸が近いから、他より家賃が高いんだよ」

「そうなの?」

「水を運ぶのは毎日のことだからね。近い方が楽だろう?」

エリザは初めて、自分の家の家賃が高い理由を知った。


マーサは、その横も指差した。

「それから、あそこが共同の洗濯場だ。井戸の水を使って洗うんだよ。みんなで使う場所なんだから、綺麗に使うんだ」

「……はい」

エリザは頷いた。


「ほら。水を汲んでみな」

「私が?」

「他に誰がいるんだい」

マーサが後ろから見守る中、エリザは釣瓶を使って水を汲む。


「重っ……」

思った以上に重い。

それに、ロープが指に食い込んで痛かった。

「ほら。その水を持ってきた桶に入れるんだ」


マーサが空を見上げる。

「早くしないと日が沈んじまうよ」

「はい!」

エリザは急いで水を桶に移した。

いっぱいになった桶を持ち上げる。


「……重い」

今度は、水をこぼさないように歩かなければならない。

一歩。

また一歩。

慎重に家まで運ぶ。


どうにか水を運び終えると、エリザは大きく息を吐いた。

「ふぅ……よかった。これでどうにかなるわね」

「お前さんは、バカかい」

「え?」

「これから夕飯の準備だよ」

「…………」

エリザは、その場にへたり込みそうになった。


✥✥✥✥


「そうそう。竈には、そうやって薪を組むんだ」

マーサに教わりながら、エリザは火を起こしていく。

「火がついたら、料理だけじゃなく多めに湯を沸かしておきな。薪がもったいないからね」

「そんなにお湯を?」

「身体を拭く分もいるだろう?」

エリザの手が止まった。


「……身体を拭く?」

「そうだよ」

嫌な予感がした。


エリザは恐る恐るマーサを見る。

「マーサ……もしかして……お風呂に入らないの?」

「当たり前じゃないかい。毎日たっぷりのお湯で風呂に入るなんて、お貴族様の特権だよ」

「…………」

「平民はお湯で身体を拭いたり、川で身体を綺麗にしたりするんだ。金を払えば公共の風呂もあるがね」


エリザは衝撃を受けた。

お風呂に入れない。

あんなに大好きなお風呂に。

毎日、たっぷりのお湯につかって。

お風呂から上がったら香油を塗ってもらい、マッサージをしてもらう。

それがもう、できない。


「そんな……」

父に勘当された。

ダミアンにも捨てられた。

友人たちにも見放された。


それでも――。

エリザはがっくりと肩を落とした。

今までで、一番悲しかった。

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