42.娘の成長
ガチャ。
侯爵邸の客室に呼ばれたエリザは、扉を開けた。
そこにいたのは――。
ロズウェル伯爵だった。
「お父様……」
思わず声が漏れた。
だが、すぐに言い直す。
「申し訳ございません。ロズウェル伯爵……」
エリザは頭を垂れた。
「エリザ。頭を上げておくれ」
ロズウェル伯爵がおずおずと声を掛ける。
「エリザ、あの時は本当に悪かった」
そして、深く頭を下げた。
エリザは目を見開いた。
「違います。私が悪かったんです」
首を横に振る。
「お母様が遺してくださったお金を遊びに使って、その上、形見にまで手を出して……」
あの頃は、何も分かっていなかった。
お金の大切さも。
父が守ろうとしていたものも。
「今なら分かります。ロズウェル伯爵は、家を守ろうとしていたんですよね」
エリザも頭を下げた。
「私が愚かだったんです。本当に、申し訳ありませんでした」
「いや……」
ロズウェル伯爵は、ゆっくりと首を振った。
「私も仕事にかまけ、お前の変化に気づくのが遅すぎた」
娘が何に金を使っているのか。
誰と、どんな関係になっているのか。
気づいた時には、あまりにも多くのものが失われていた。
「あの時の私は、ダミアンからお前を引き離し、家を守ることしか考えられなかった」
ロズウェル伯爵は、静かに目を伏せた。
「お前まで切り捨てるようなやり方しかできなかったことを、ずっと後悔していた」
「お父様……」
エリザは、はっとして口元を押さえた。
ロズウェル伯爵が顔を上げる。
エリザは慌てて俯いた。
「申し訳ありません。また……」
「いいんだ」
その声は、優しかった。
「もう一度、そう呼んでくれないか」
「……え?」
それまで黙っていたオスカーが、口を開いた。
「私がお願いしたんだ」
エリザが振り返る。
「エリザ嬢との婚姻にあたり、ロズウェル伯爵家から嫁いでもらえないかと打診した」
「オスカー様……?」
オスカーは、ロズウェル伯爵へ向き直った。
「エリザ嬢の父上から、改めて婚姻のお許しをいただきたかったのです」
ロズウェル伯爵は、エリザを見つめた。
「エリザ」
少しだけ声が震えていた。
「また、私を父と呼んでくれないか」
エリザの瞳に、涙が浮かんだ。
「我が家から、嫁に行ってほしい」
ぽろりと、涙が落ちた。
「はい……」
もう一粒。
「はい、お父様……」
エリザは泣きながら笑った。
「私……本当は、寂しかった」
ロズウェル伯爵は堪えきれず、娘を抱き締めた。
「すまなかった、エリザ」
「お父様……」
オスカーは、そんな二人を温かく見守っていた。
しばらくして。
ロズウェル伯爵が思い出したように口を開いた。
「そうだ。ベルクール伯爵から返済があった」
エリザが顔を上げる。
「以前の服飾店への未払いも、清算されたそうだ」
「では、皆さんのお給金も……?」
「ああ。副店長が喜んでいたよ」
エリザは、ほっと息を吐いた。
「……よかった」
オスカーを見る。
「オスカー様、ありがとうございます」
「いや……」
オスカーは少し照れたように視線を逸らした。
そして、改めてロズウェル伯爵の前に立つ。
「父上」
ロズウェル伯爵が顔を上げた。
「エリザ嬢と、結婚させてください」
「娘を、よろしく頼む」
「はい」




