↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『貢いで貢いで貢いだ先に何がありますか? ~エリザが再起を遂げるまで~』  作者: 蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/44

41. ざまぁ(3)

「ダミアン。部屋を見せろ」

「……なぜですか」

「今すぐだ」

ダミアンの顔色が変わった。


伯爵は、その反応を見逃さなかった。

「鍵を開けろ」

「父上、私の部屋です。勝手に――」

「開けろ」


ダミアンはしばらく動かなかった。

だが、伯爵の視線に耐えきれず、観念したように鍵を取り出した。


扉が開く。


伯爵は中へ入り――その場で立ち尽くした。

「……なんだ、これは」


壁一面を埋める服。

棚には、何足もの靴。

引き出しには、時計や宝飾品。

鞄や帽子まで、所狭しと並んでいる。

伯爵が買い与えたものではない。

息子に渡していた金で、買える量でもなかった。


伯爵は、一着の上着を手に取った。

一目で分かる。

最高級品だった。


「これを……全部、エリザ嬢が?」

ダミアンは答えない。


伯爵は隣の衣装部屋の扉を開けた。

そこにも、服や靴がぎっしりと詰め込まれていた。

「……まだあるのか」


三年間。

エリザがダミアンへ注ぎ込んだ、母親の遺産。

その総額がどれほどのものだったのか。

伯爵は、この時初めて目の当たりにした。


「……これを全部、エリザ嬢に買わせたのか」

「違います。エリザが勝手に――」

「まだ言うか!」

伯爵の怒声が響いた。


廊下に控えていた使用人たちが、びくりと身体を震わせる。

伯爵は、その様子を見た。

「お前たち。このことを知っていたのか」

誰も答えない。

「答えろ」

やがて、一人の若い使用人がおずおずと頭を下げた。

「……ダミアン様から、旦那様には決して申し上げぬようにと」

「掃除は?」

「私ども若い使用人だけで行うよう、命じられておりました」


伯爵は目を閉じた。

ただ浪費していたのではない。

父親に知られれば止められる。

ダミアン自身、それを分かっていたのだ。

だから部屋に鍵を掛けた。

立場の弱い使用人だけを中へ入れ、口止めまでしていた。


伯爵は、ゆっくりと目を開いた。

「鍵を掛け、隠していたようだな」

ダミアンは俯いた。


「なら、最後までよく見ておけ」

伯爵は侍従たちを振り返った。

「全部、運び出せ」


「父上!」


侍従たちが、一斉に動き始めた。

服が運び出される。

靴が消える。

時計も。

宝飾品も。

鞄も。


ダミアンは、見ていることしかできなかった。


✥✥✥✥


「ダミアン」

伯爵は、息子を前に座らせた。


「お前は、私に何と言っていた?」

「……」

「母親を亡くしたエリザ嬢が寂しそうだから、自分がそばにいてあげたい。だから婚約したい。そう言ったな」

ダミアンは答えない。


伯爵は苦しそうに息を吐いた。


「私は、お前があの子を思いやっているのだと思っていた」

だから婚約を認めた。


まだ若い二人が出かける時には、ダミアンが恥をかかぬよう、普段より多めに金も持たせていた。


「それなのに……」

伯爵の手が震えた。


「ロズウェル伯爵が怒鳴り込んできた時でさえ、私はここまでだとは思っていなかった」


多少の贈り物はあったのだろう。


エリザがダミアンに夢中になり、服の一着や二着を買ったこともあったのだろう。

その程度だと思っていた。


自分もダミアンへ十分な金を渡していた。


だから、ロズウェル伯爵の言葉を、そのまま信じることができなかった。

それでも息子に非がなかったとは思わず、謹慎させた。


そして、金遣いの荒い娘を伯爵家へ迎えるわけにはいかないと、婚約破棄を受け入れた。


だが――。


「まだ幼いエリザ嬢に……あれほどのものを買わせていたのか」

「だから、あれはエリザが勝手に――」

伯爵は、しばらく息子を見つめた。


「お前は……どうして、そうなんだ」

怒鳴る声よりも、その一言の方が重かった。


「部屋にあったものは、すべて売り払う」

「父上!」

「服飾店への未払いを清算する。残りについては、ロズウェル伯爵と話をつける」

「待ってください!」

「それでも足りなければ、お前のために貯めていた金を使う」


ダミアンが立ち上がった。

「そんな!」

「わかったな」

「ですが、エリザが勝手に買ったものです! 服飾店の代金だって、払うつもりでした!」

伯爵の顔が歪んだ。


「……まだ言うのか」

「父上、僕は――」

「もういい」

伯爵は目を閉じた。


そして、静かに告げた。

「ベルクール家は、お前には継がせない」

ダミアンの顔から血の気が引いた。

「……何を」

「弟に継がせる」

「待ってください!」

ダミアンは青ざめたまま、父親へ詰め寄った。

「父上! 僕はこの家を継ぐために、エリザと別れたんですよ!」

伯爵は、黙って息子を見た。


「ああ」

低い声だった。

「覚えている」


あの日。

エリザが伯爵家を追い出された時。

伯爵は息子に言った。


――エリザ嬢がそれほど好きなら、一緒になって平民へ落ちろ。 


ダミアンは拒んだ。

伯爵家を継ぎたい。

だから、エリザとは別れる。

そう言った。


伯爵は、ゆっくりと立ち上がった。

「望み通り、エリザ嬢とは別れた」

そう、エリザ嬢を利用して捨てた。


「お前一人で、平民に堕ちろ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。