38. ざまぁへの階段
「見て。あの方たち、流行に乗り遅れているわ」
「本当に残念な方たち」
「あら、ブルーローズに断られたって伺ったわ」
「まぁ、本当? あんなに親切なお店に断られるなんて、何かあったのかしら」
クスクスと笑う貴族子女たちの声が聞こえる。
この日は、王宮が開催する一年で最も大きな晩餐会。
主要な貴族子女たちが、一堂に会していた。
✥✥✥✥
「なんで予約が取れないのよ!」
ベロニカ・ヘイルズが吠えていた。
「そ、そう言われましても……ブルーローズからは、予約で一杯のため対応できないとのことでして……」
侍女がおろおろしながら答える。
「なんでよ。この間のお茶会なんて、私より家格の低い令嬢がブルーローズの新作を着ていたのよ。それなのに私だけ違うドレスを着て、笑われて恥をかいたのよ!」
ベロニカは、手にしていた扇をボキリと折った。
「いいわ。私が直接店に出向くわ。馬車を準備して頂戴」
ベロニカは足早に玄関へ向かった。
(このままじゃ、大切な晩餐会に間に合わないわ。急がなきゃ)
そして、そのまま馬車へ乗り込んだ。
ブルーローズに到着すると、馬車置き場は一杯だった。
「みんな予約が取れているのに、なんで私だけ順番が来ないのよ」
その光景が、余計にベロニカを苛立たせる。
侍女を連れて店へ入り、扉を開けてくれた店員にすぐさま声を掛けた。
「店長を呼んで頂戴。すぐによ」
威圧的に言い放つ。
しばらくすると、二階から一人の女性が優雅に降りてきた。
その顔を見た瞬間、ベロニカの表情が固まる。
「先生……」
かつて刺繍を習っていた先生だった。
「あらあら、ベロニカさん。お久し振りですね。どうされましたか?」
ベロニカは慌てて居住まいを正した。
「先生、お久し振りでございます。ブルーローズの店長をされているとは存じ上げず、ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
「あら、気にしなくていいのよ。皆さん、初めはそんな反応をするから」
店長はコロコロと笑った。
「それで、今日はどうされたの?」
「先生にお願いがございまして。ドレスの予約をお願いしたいのです」
「あら。わざわざいらしてくださったのに、ごめんなさいね。この通り盛況でしょう? 今は新しい予約を受け付けていないの」
「そこを、なんとか」
「ごめんなさいね。お力になれなくて」
「ですが――」
「本当に、ごめんなさいね」
にこにこと笑う先生に、ふわふわと躱されてしまった。
ベロニカは、引き返すしかなかった。
✥✥✥✥
そして迎えた、王宮の大晩餐会。
会場の一角には、ブルーローズのドレスを着ることができなかった令嬢たちが集まっていた。
「ブルーローズなんて、どこがいいのかしら。私の予約を断るなんて、全然いい店じゃないわ」
ベロニカが口火を切った。
「私なんて、店員に背中を押されて追い出されましたのよ。お高くとまって。すぐに悪い噂が立って、続かなくなるわよ」
別の令嬢も続く。
「大体、ドレスも大したことないのよ。私のドレスなんて、真珠をふんだんに使った最上級品ですのよ。あんな安っぽいドレスとは比べものになりませんわ」
次々と不満の声が上がった。
その周りを、ブルーローズのドレスをまとった令嬢たちが行き交っている。
色とりどりの軽やかな布が、歩くたびに優雅に揺れた。
対してベロニカたちは、裾を大きく広げた従来のドレスを身にまとっている。
宝石。
真珠。
豪華な刺繍。
どれも高価なものばかりだった。
それでも――。
周囲の貴族たちは、その様子を冷ややかに見ていた。




