34. 季節が訪れる
エリザが勘当され、平民になってから、あっという間に一年が経とうとしていた。
(本当に、色々あったわね)
店も落ち着いてきた。
全ての応募してきた人たちの雇用も上手く回り、内職という働き方が増えたことで、工房にもようやく余裕ができた。
一時期は、工房中に人がギチギチに詰まっていた。
その頃は、カノネェさんの家で子どもたちを預かっていた。
マーサもその中に混じり、楽しそうに子守をしていた。
そして、季節は再び冬を迎えようとしている。
(さて、新商品を出しますか)
エリザは、開店時からのメンバーを集めた。
黒板に文字を書き出す。
『胸当て巻きスカート』
「今までの巻きスカートは、腰から下だけでした。今回は胸元まで布を伸ばして、首から紐を掛けます」
エリザは、自分の胸元から膝までを手で示した。
「これなら服の前側を広く覆えます。水仕事や掃除をしても、服が汚れにくくなります」
そして、その下にもう一つ書いた。
『ワンピースエプロン』
「今回、一番力を入れる商品です」
エリザは、少し厚みのある布を机の上に広げた。
鍋掴みやティーポットカバーを作るために使っていたものだった。
「冬の洗濯って、大変ですよね」
皆が頷いた。
水は冷たい。
そして何より、冬の服は厚くて長い。
一度裾を濡らせば、なかなか乾かない。
「だったら――」
エリザは黒板に、膝下丈の服を描いた。
「冬服を着て洗濯しなければいいんです」
皆がエリザを見る。
「このワンピースエプロンを、一枚で着ます」
頭から、ガバッと被る。
胸元には、着脱しやすいようにボタンを付ける。
丈は膝下まで。
長いスカートのように、裾が水に触れにくい。
「鍋掴みやティーポットカバーに使っているものと同じように、少し厚みを持たせます。厚くしすぎると動きにくいので、仕事ができる程度にします」
一枚で体を覆うため、暖かい空気も逃げにくい。
「それでも寒ければ、この上から上着を着ればいいんです」
さらにエリザは、腰の辺りを指差した。
「胸の下にリボンを付けて、キュッと絞れるようにします。買い物に行く時は下にスカートを履けば、このまま外にも出られます」
もちろん、体を締め付けたくない婦人のために、絞らない型も作る。
洗濯着。
部屋着。
そして、ちょっとした外出着。
一枚で、全部できる。
「コートより安く作れます。冬の普段着としても使ってもらえると思います」
エリザは満足そうに黒板を見た。
冬服を濡らさないために、何かを被せるのではない。
最初から、冬服を着なければいい。
新しい冬が始まろうとしていた。
✥✥✥✥
エリザのワンピースエプロンは、予想以上に売れに売れた。
銀貨一枚という少々高めの値段だったが、上着よりは安く、普通の服より少し高い程度。
その絶妙な値段設定も受けた。
街の洗濯場へ行けば、ブルーローズの『四つ葉のクローバーをくわえた青い鳥』が、そこかしこを飛び交っていた。
一方、オスカーが開拓した貴族への販路も、実を結び始めていた。
ティーポットカバーは、一気に広がりを見せた。
ミラが注文ごとに刺繍を変えるオーダーメードで、ティーポットマットにも同じ刺繍を施した。
お揃いで注文できることも、人気に火をつけた。
貴族の茶会でブルーローズの商品を見かけることも、珍しくなくなっていた。
そして春には、苺シリーズも当たった。
ブルーローズの経営は、すっかり盤石になっていた。




