32. 信頼とは何か
エリザは泣いて、泣いて。
そして、店が再び開店する時を迎えた。
「マーサ、私、また頑張る。
まだ始まったばかりだもん」
その目は、もう前を見つめていた。
「今日、お店が終わったら、相談があります」
マーサとオスカーは頷いた。
その日、皆よく働いた。
特にオスカーは、客をエスコートしたり、声を掛けたりと、普段なら絶対にしない接客にまで参加していた。
店を閉めたあと、エリザはオスカーに頭を下げた。
「オスカーさん、今日はありがとうございます。皆さん、とても満足して帰って行かれました」
「私は……こんなことしか役に立てなくて」
オスカーは俯いた。
エリザは、貢いで、貢いで、貢ぎまくった女である。
母親の遺産をすべて溶かした実績がある。
へこたれ続けない。
「お金は、また稼げばいいんです」
エリザには、その実体験がすでにある。
オスカーは顔を上げた。
「ありがとう……」
か細い声だった。
マーサも静かに頷いた。
「それで、お詫びとして一つ、お願いを聞いてもらえます?」
エリザがおずおずと切り出した。
「なんですか? ぜひ聞かせてください」
「ある家の執事の方を、引き抜いていただきたいんです」
マーサとオスカーが、エリザを見る。
「私が勘当された日、多くの人は私を冷たくあしらいました」
エリザは、あの日を思い出していた。
「でも、その方だけは、平民になった私にも変わらず礼節をもって接して、自分のできる範囲で尽くしてくださいました」
少し間を置いて、続ける。
「私は、その方にブルーローズの責任者になってもらいたいんです」
「工房の方にも、平民のお客様にも、きっと分け隔てなく、きちんとした態度を取ってくださると思います」
エリザは、もう次のことを考えていた。
「もちろんです。必ずエリザ嬢の希望を叶えます」
オスカーは、すぐに動いた。
少々強引な手で。
お金を積んで。
一週間後。
いつものように、エリザがバックヤードの扉を開ける。
そこに、一人の男が立っていた。
「エリザ様、お久しぶりです」




