31. 失敗と言う名の成長
嘘だろ……。
私が……。
私は、頭を下げた。
私は、ことごとく売れる商品を当ててきた。
先を読み、流行を追った。
母さんから譲り受けた商会を、さらに大きくしたという自負もある。
従業員にも恵まれていると思っていた。
十年もの間、アシュベリー商会の会計を担当してきた男。
毎日、真面目に働いていた。
だから信用した。
ブルーローズの会計責任者という役職まで用意した。
なのに……。
どうして……。
彼女が勘当され、どんな思いでここまでやってきたのか。
侯爵家に来てからも、朝早く出かけ、帰ってきてからはせっせと刺繍をしていた。
夕食を食べながら、カクカクと頭を揺らしている姿を何度も見た。
目の下に隈ができているのも心配した。
文字通り、寝る間も惜しんで働いていた。
その努力を、私は知っていた。
母さんが、誰にも相手にされなかった頃も知っている。
女が商売なんて。
元使用人の女が。
そんな商会とは取り引きしない。
何度断られても、母さんは諦めなかった。
一つずつ信用を得て、一つずつ販路を広げていった。
私は、それをずっと見てきた。
一から商売を始めることが、どれほど大変なのか。
知っていたはずだった。
それなのに。
「エリザ嬢には、まだ荷が重い」
そう決めたのは、私だ。
彼女の負担を減らしてあげようと思った。
商売に集中させてあげようと思った。
彼女のためだと思っていた。
違った。
私は、エリザ嬢を経営者として見ていなかった。
金貨三十枚。
アシュベリー商会なら、一日の売上にも満たない。
だけど、お金じゃない。
エリザ嬢は、一枚のハンカチからここまで来た。
商品を考えた。
人を集めた。
工房を作った。
店を開いた。
ようやく手にするはずだった、最初の一週間の売上。
それを失わせたのは、私だ。
本来、信頼すべきだったのは、会計責任者ではない。
エリザ嬢だ。
目の前で泣きじゃくるエリザ嬢に、私は何も声をかけることができなかった。
✥✥✥✥
僕は、エリザ嬢への罪滅ぼしのために動いた。
アシュベリー商会にブルーローズのポストカードを置いた。
客にティーポットカバーの話を振ったりもした。
プライドなんて関係なかった。
僕が、貴族用の販路を築く。
母さんの友好関係を頼れば、もっと早く販路は広がる。
ただ、それじゃ駄目なんだ。
僕自身が、一つの商品を売ることがどれだけ大変なのか知らなければならない。
一人の客に手に取ってもらうこと。
興味を持ってもらうこと。
そして、お金を払ってもらうこと。
母さんがやってきた。
エリザ嬢もやってきた。
私は、それを知っているつもりだった。
でも、知っているだけだった。
僕が犯した罪が、どれほど重いものだったのか。
商売の怖さを知りたかった。
僕は何を見誤ったのかを――




