3. 金の切れ目が縁の切れ目
そんな楽しい日々が三年続いた。
(次はどこに行こうかな……)
観劇にも慣れ、次のデートコースを考えていた。
コンコン。
「はい。どうぞ」
エリザが応じる。
執事が部屋に入り、一礼した。
「エリザ様の手元の資金が、一切ございません」
事務的に告げられる。
「え……どういうこと? お母様が、私が何かあっても困らないように、沢山のお金を遺してくれたはずじゃない?」
「そうです。ただ、お金は使えば減ります。全て使われました」
エリザは青ざめた。
次のデートでは、コートを新調するとダミアンと約束していた。
エリザは精一杯考えた。
「そうだわ。お母様は沢山の宝石を持っていたはず。それを売れば幾らかになるわ。お母様がいつか私にくれるって言ってたし」
エリザは急ぎ、亡きロズウェル伯爵夫人の部屋を訪れた。
キョロキョロと辺りを窺う。
(誰もいないわね。よし)
エリザはドアをそっと開け、部屋に入った。
久しぶりに入る亡き母の部屋は、何も変わっていなかった。
少しだけ母親を思い出し、悲しくなる。
ただ今は、ダミアンのことで忙しい。
ジュエリーケースを開ける。
そこには、沢山の宝石が保管されていた。
(お母様があまり着けてなかった宝石にしようかな)
一つずつ手に取る。
(これは、お母様がお父様から贈られたものだったわね)
(これは、旅行先でお父様がプレゼントしていたもの)
(これは、お母様のお気に入り)
(え〜と……これは、着けているところを見たことがなかったわね)
エリザの顔が明るくなる。
(よし。これにしよう)
エリザが頭を上げる。
バンッ。
同時にドアが勢いよく開いた。
驚いて振り返る。
パンッ。
目の前が眩んだ。
「このバカ娘。お前はなんてことをしたんだ!」
痛みを感じるより先に、父親の怒声が耳を劈いた。
「母親が遺した金を使い果たしただけでは飽き足らず、今度は形見まで売るつもりか!」
「お、お父様……」
エリザは腫れた頬を押さえた。
向かいの窓から、エリザの挙動不審な様子が執事に丸見えだった。
急ぎロズウェル伯爵へ知らされていたのである。
ここからが早かった。
「今すぐこの家から出ていけ」
侍女が最低限の着替えを用意し、従者によって馬車へ詰め込まれた。
エリザは腫れた頬をさすりながら、近くに住む幼なじみ、ベロニカ・ヘイルズ伯爵令嬢の家へ向かった。
「どうしたの、エリザ」
玄関に入ると、ベロニカが優しく迎えてくれた。
「うぅ……お父様にぶたれたの」
エリザの目に涙が浮かぶ。
「大丈夫? とりあえず私の部屋に入って」
エリザは俯いたまま、ベロニカと部屋へ向かった。
「うぅ……私、お母様の宝石を持ち出そうとしたの。そしたらお父様に……」
「まぁ……ひどい……。あの優しいロズウェル伯爵が。いいわ、エリザ。この家にいつまでもいればいいのよ。私たち、幼なじみでしょう? お父様も許してくれるわ」
ベロニカは深く事情を聞くことなく、エリザを迎え入れた。
エリザも、頬の腫れが引くまで甘えることにした。
そして一週間ほど経った。
(お父様も、もう怒っていないわよね……)
ベロニカから馬車を借り、ロズウェル伯爵邸へ向かう。
先触れは出してある。
ところが――。
屋敷に着くと、玄関先には仁王立ちしたロズウェル伯爵がいた。
「お父様……」
二枚の紙が、エリザの足元へ投げ捨てられた。
「お前とは縁を切った。この邸からすぐに出ていけ」
「え……?」
侍従に背中を押される。
ガシャン。
門が閉じられた。
エリザは呆然と立ち尽くす。
やがて、足元に落ちた二枚の書類を拾い上げた。
一枚は、エリザをロズウェル家から除籍する旨を記した書類。
そして、もう一枚は――。
ダミアンとの婚約解消を告げる書類だった。




