28. 開店までの準備(4)
マーサとエリザが工房に戻ると、巻きスカートがずらりと並んでいた。
作業台の道具も綺麗に片付けられ、床には糸屑一つ落ちていない。
ハンナが口を開いた。
「全て検品を終え、基準を満たしています。エリザさん、最終確認をお願いします」
黒板には、それぞれの名前の横に作った枚数が書かれていた。
(皆さん、仕事が速いわね)
エリザは一枚ずつ確認していく。
どれも問題ない。
巻きスカートは、一枚につき銅貨一枚。
全部で三十二枚。
エリザは笑顔を貼り付けたまま、一人ずつお金を渡していった。
「ありがとうございます。明日もよろしくお願いします」
「はい!」
女たちは嬉しそうに帰っていく。
エリザも笑顔で手を振った。
扉が閉まる。
(……なんでこんなにすぐ、お金がなくなるのよ)
ついさっきは家賃。
今度は人件費。
明日になれば、また商品が出来上がる。
それは喜ばしいことのはずなのに、商品が出来上がるたびにお金が出ていく。
マーサから渡された資金が、本当に一年持つのだろうか。
エリザは急に心配になった。
✥✥✥✥
商品は、順調に出来上がっていった。
カノネェの子どもの面倒は、意外にもマーサが進んで見ていた。
「オスカー以外にも、子どもが欲しかったね」
その声は、少しだけ寂しそうだった。
「実は私も、子どもが出来なくて……前の工房に居づらくなって辞めたんです」
ハンナが、遊んでいる子どもを見つめた。
「ここに応募したのは、もう一度服飾の仕事がしたかったからです。でも、子どもに囲まれて働けるかなって……それも少しありました」
ハンナは小さく笑った。
「本当は、大家族が夢だったんです」
マーサは何も言わなかった。
けれど、それから時々、二人で子どもの世話をしながら静かに話す姿を見かけるようになった。
✥✥✥✥
開店準備も進んでいった。
内装は、オスカーと工事責任者が詰めている。
店内は落ち着いた雰囲気に仕上げられていた。
子どもが落としても割れにくいよう、食器は木製。
小さな遊び場には、玩具も用意された。
子ども連れでも、気兼ねなく入れる店になっていく。
そして、エリザの商品を並べる棚も出来上がった。
エリザは、その棚を見て固まった。
広い。
とても広い。
「マーサ……こんなに置くの?」
足が震える。
「当たり前だよ。それくらい売らなきゃ、金貨五枚の家賃をどうやって回収するんだい」
(そうだけど……そうなんだけど……)
この棚を、これから自分たちの商品で埋めるのだ。
青いバラのハンカチを売っていた頃とは、何もかも規模が違う。
エリザの足は、まだ震えていた。




